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異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第二章 帝国の剣
81/218

80 怒りの矛先

夜中の執務室で泣きながら掃除を終えた……

俺一人ではすぐには終わらなかっただろうな


「閣下、我々は何も見ておりません。閣下も何も見ていないのです」


そう語る諜報部隊の股間も濡れていた……やっぱり怖いよなあれは……

黙って頷き合い掃除をしたのだ



「夜中なのに騒々しいね婿殿」


掃除を終えたタイミングで師匠がやって来た

机の上に鎮座するアレを目にすると顔色を変えて先触れに立候補してくれた

ありがたい……さすが親バカだ、ベアトの事になると本当に頼りになる


とりあえずは師匠に任せる

状況が解らなければ対応も考えられないからな

とても寝れる精神状態ではないがベッドに入り無理矢理目を瞑る


寝れたのか寝れなかったのか怪しい数時間が過ぎて窓の外が明るくなっている

少しは寝れたかな……

起き上がるとメイドが銀のトレイを持って直立不動で立っている


真っ青になっているメイドからトレイにある手紙を受け取る

…………師匠の字だな

震える指で開けてみた


『無理無理……これは無理』



「あ、アルバートを呼べ!!」


すぐにメイドに連れられてアルバートがやって来た


「アルバートよ、重要な任務だ」

「はっ!何でもいたします、ご命令を!」


……ん?今何でもするって言ったよね?


「黒騎士とメイド部隊の精鋭を連れてベアトの警護に向かえ!斥候部隊を連絡に使い詳細をもれなく伝えよ!」

「……はっ!全力を尽くします!」


ニヤニヤしながら敬礼して出て行くアルバート

俺がベアトを溺愛して心配しているとか考えたな

…………君の犠牲は忘れない



食事も喉を通らない1日が過ぎる

仕事なんて全く手につかないや

メイド部隊は『奥様が恋しいのですね』とキャイキャイ騒いでいたが

そんな悠長な問題ではない


スープだけの夕食を済ませて執務室で震えていると伝令が到着した


「き、緊急伝令です!無礼はご容赦!」

「構わない、言え」


転がり込む伝令にそう答える

礼儀作法とか言っている場合では無いからな


「ベアトリーチェ様、間もなく到着!尚、馬車には近付けない。閣下の武運をお祈りする……以上です……」


そして倒れ込む伝令


「……よくやった…………ゆっくり休ませてやれ。ベアトが来たら私の私室に案内してくれ……」


メイドに指示した俺はゆっくり立ち上がり執務室を出た……

準備をする為に……




俺は私室で待っていた

目隠しをして両手を諜報部隊に縛らせて床に正座している


……罪人の処置だ

何を怒っているのか解らないがだいたい予想はつく

1年も新妻を独りにしていたのだ、機嫌が良い筈が無いからな


これを仕事だからと説得しようとすれば、余計にややこしくなるからな

日本に居たときに会社のお局様に学んだ事である



ドアが開いて誰かが入って来る

ノック無しだからベアトしかいない

…………覚悟を決めた



「……ゼスト様?何をなさってますの?」

(お父さん、それ何の遊びですか?トトもやりたいです!)



…………あれ?

何だか声が優しいような?



「ゼスト様、お久しぶりです。お会いしたかったですわ」

(お父さんお久しぶりです!)


ニコニコしながら目隠しと縄を解くベアト

トトも満面の笑みで頭にしがみついた


「さあ、床になど座らないでソファーに参りましょう?」

(あのね、お父さんにお土産有るんですよ!)



…………怒ってないじゃないか

何がどうなってるのよこれ



混乱している俺はソファーに連れて行かれ、ベアトとトトに抱きつかれた


「ゼスト様……寂しかったです……」

(ん~お父さんの匂い久しぶりです!)


呆然と二人の頭を撫でながら考える

何だこれは……俺に怒っていたんじゃないのか?

じゃああの手紙は?師匠の手紙は?

アルバートからの伝令は?


頭の中でグルグル回る

全く予想も出来ないし理解も出来ない



メイドが用意した紅茶を飲み始めたベアトに聞いてみた

解らないままにはしておけないからな


「ベアト……俺に怒っていたんじゃないのかい?」

「ゼスト様を怒る?何故ですか?」


「新婚なのに1年も離れ離れだ……てっきり怒っているのかと思っていたんだよ……」

「まあ、私も貴族ですわ。帝国の為に戦に行った旦那様を誇りに思っても怒ったりなどしませんわ」


ニコニコと上機嫌に答えるベアト……本心のようだな

トトもニコニコしながらクッキーを俺の肩で食べている


…………じゃあ



「……それなら、何を怒っていたんだい?」




その瞬間、世界が凍った


まさに漆黒と例える以外無いような深い闇の魔力が溢れだした

トトも殺意と怒りのブレンドされた圧倒的な魔力を撒き散らす

…………あ、少しおしっこ出ましたわ




「ツバキ皇女がエルフの国の王子に求婚されて喜んでいたんですわ…………」

(ツバキがお父さんを裏切った……闇に沈めたい)




……………………

全力の魔力で身を守りながら、ビシビシと亀裂が入る私室の石壁を見守りながら

『俺じゃなくて良かった』

心底、そう思っていた……



ツバキ皇女……死ぬかもしれない……

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