78 大事な贈り物
「婿殿……もう少し女性に気を使わないと長生き出来ないよ?」
「閣下、贈り物の宝石を受け取ってまいりました!」
「閣下、香水で有名なここならそれも良いですニャ」
「あらあら、閣下は忙しいみたいですわね。せっかく子供が順調だと報せにまいりましたのに」
メディア、お前は帰れ
修羅場のような執務室で、必死に手紙を書いている俺に皆が声をかけてくる
ありがとうございます……でも手紙を急ぐから待ってくれ……
「うわぁ、綺麗な宝石ニャ。一つ貰ってもわからニャいかな?」
「カタリナ嬢……それはマズイのでは……」
「え?アルバート卿がそれを言うニャ?あの請求を……」
「カタリナ嬢、一つなら事故かもしれないから大丈夫です」
「君達、たぶん婿殿に聞こえてるから程々にね?」
…………程々にね?じゃなくて、止めてください師匠
いや何も言えないな、確かに俺が悪いのだ
すっかりツバキ皇女に気を使うのを忘れていたんだ
皆が協力してくれているから素早く対応が出来るんだから、多少の横領だったり騒がしいのは我慢しよう
ガヤガヤ不穏な企みの声を聞きながら必死に手紙を急ぐ
『戦争以来、なかなか時間が取れなかった
ようやく忙しさも一段落したので早速手紙を書いた
贈り物を気に入ってくれると嬉しい
早く会いたい』
そんな内容をお貴族様仕様で書き終えた
「アルバート、急いでこれ等を届けさせろ。失敗は許されないからな」
ニヤニヤとしながらも敬礼して去っていく駄犬
人の不幸を笑いやがって……あいつの給料減らすか?
いや、良いや疲れたし
イスから立ち上がり軽くストレッチをする
右手は痛いし肩もパンパンだ
メイド部隊が用意した紅茶を飲みながら休憩しよう
「……そういえば婿殿、ベアトには手紙を書いているよね?」
「…………」
「疲れたのかい?聞こえないのかな……」
「…………」
「ソニア様、閣下が泣いてますニャ」
「……まさか婿殿」
「書いて……ないです……」
「「…………」」
修羅場その2の開催が決まった瞬間である
その日の深夜、ようやくベアトに向けた手紙セットを作り終えた俺達は疲れはてていた
「……もう忘れたら駄目だよ?婿殿」
「……閣下、残業代期待しますニャ」
「閣下!お疲れならば模擬戦でもいかがですか!?」
「師匠ありがとうございます、カタリナ期待してくれ……宝石は見なかった事にする」
アルバート……チラチラ見るな
模擬戦なんかする訳無いだろうが
「これで大丈夫だと思います。助かりました、ありがとうございます」
立ち上がり頭を下げる
ここに居るのは信用してる者だけだから貴族が頭を下げても良いだろう
カタリナだって信用してるんだ
一応、裏はとったけどそれは仕方ないだろう
無条件に信用するほどお人好しでは無いからな
「やめなさい婿殿」
「やめてくださいニャ!」
「おやめください閣下、礼など部下に要りません」
と、苦笑いしながら皆は言う
ふふ、良い師匠と部下に恵まれたな
皆で軽く食事をしながらこれからの予定を確認する事にした
あまり気安く部下に接するのも良くないが、師匠は家族だし二人は腹心にする
だから多少は問題ない
カタリナが加入した事で事務処理の効率が一気に良くなっている
旧王都の民衆も落ち着いてきたし城の再建か修復をしようかと意見が上がって来るようになった
「で?婿殿は城を直すのかい?」
真剣な表情で師匠が試すように問いかける
……やれやれ
「しませんよ。城など使ってしまえば帝都が騒ぐでしょうから……そうですね、屋敷を王城跡地に建てて使います」
「……それでは籠城出来ないよ?」
「私の故郷にこんな言葉が有ります『人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり』です」
あの有名な戦国時代の大名の言葉……いや軍略か
それを聞いて黙り込む師匠……だが笑っていた
「私にはアルバート率いる騎士達が居ますし、カタリナが策を考えてくれる。城など要りません、部下達が居れば安心ですから」
二人は黙ってこちらを見ていた
「私には野望は有りませんからね、城を直して謀反を疑われるなどまっぴらですよ」
そう、大領地を持った俺は帝都に疑われる可能性がある
警戒されないように注意しなければ危ないからな
それが解っているのか試したんだろうな師匠は
「解っているなら言わないよ、優秀な婿殿」
そう言って笑う師匠
どうやらテストは合格だな
「けど……少し優秀過ぎたね……」
…………え?
「ゼスト公爵閣下!!それほど…………それほどまでに我等を信じてくださいますかっ!!」
「うううニャ~!はじめてニャ、はじめて認められたニャ!薄汚い猫獣人って馬鹿にされてばかりだったニャ!」
「我等のような諜報部隊にありがたきお言葉……いつでも閣下の為に死にます」
「我等メイド部隊は、閣下にいつまでも変わらぬ忠誠を!」
なんか増えてないか?
ああ、諜報部隊はいつも居るか……メイド部隊も給仕してたし
……なんでみんな泣いてるのさ
「…………婿殿、城持ちじゃない領主なんて居ないからね?それを城なんか無くても部下が居れば安心だなんて殺し文句を真顔で言うからだよ……本当に謀反とかやめてよ?この子達に任せたら3日で帝都が落ちるからね?」
小声で教えてくれた師匠に背中を押された
この混沌とした場をおさめろって意味だろう
「……お前達が私の城で私の手足だ。期待しているぞ?」
「「「「「閣下~~!!」」」」」
余計に泣き出す部下を見ながら俺も泣いていた
…………おさめるの……失敗しちゃった……




