77 閑話 ※ゼストの願い※
…………であった』
良し、ようやくここまで書けたな
まだまだ先は長いか……
コンコン
「失礼いたします旦那様、そろそろご休憩なさってください」
部屋に入ってきたメイドの彼女はお茶の用意をしていく
彼女の用意した紅茶を飲みながら、わたしは静かに言った
「ようやくここまで書けた、終わる目処がついてきたかな」
『終わり』……その言葉に反応したのか顔が歪んでいる
手引き書が終わるのか?
主人の人生が終わるのか?
そう聞きたいのだろう彼女は黙ってわたしの側に立っていた
「せっかくだから、少し読んでみるかね?添削も必要だし」
にこやかに書きかけの手引き書を渡すわたしに困惑しながらも読んでくれるようだ
「どうだったね?」
ようやく顔を手引き書から上げた彼女は笑っていた
懐かしい祖母の事でも思い出したのだろう
「ウフフお祖母様ったら、あんな事してらっしゃったんですね」
そう言って笑う彼女は祖母にそっくりだ
今はもう会えない彼女に…………
「面白かったです!私は、普段は物語を読みませんから心配しましたが、これは読みやすかったです」
「そうかそうか、それなら良かった。これはね……この手引き書はね……わたしの故郷に向けて書いているんだよ」
久しぶりに彼女の頭を撫でる
嬉しそうな……恥ずかしそうな顔……本当によく似てるな
「わたしの故郷にはね、たくさんの人々が物語を読む事が出来る仕組みが有るんだ……そこに繋がるようにわたしの魔力を全て込めたんだ……」
わたしがこの世界に来てもう100年か
いろいろあったなぁ……
「これが故郷の同胞達に読まれたら、異世界を少しは知る事が出来る。もし異世界に来た時に貴族に利用されないように……争いに巻き込まれないように……せめて笑って暮らせるように」
じっと見詰める彼女の瞳
そんな顔をするな……まだ死なないさ
「だからなるべく多くの人々に読んで欲しい……普段小説を読まない者にも異世界転移は有るだろうしな」
「……だからですか?手引き書の割には楽しい内容でしたから」
「はっはっはっ、そうだとも。箇条書きの説明書などあちらに書いたら誰も読まないからな、見て貰う事に意味がある」
願わくば……
なるべく多くの人々の目に留まり、広まるように
わたしの故郷に居る同胞達に届くように
「これは手引き書だが説明書には出来ない……ならば物語にするか?いや、あの世界にはそんな物語がたくさん有る……」
ラノベとかファンタジー小説とか、たくさん有ったからな
解れと言っても無理が有るんだ……だけど……
「だからこそ、この書き方にした……どうか気付いてくれ同胞達よ……これが精一杯の知らせ方なのだ……」
彼女は黙って聞いていた
青く光る月明かり
その光が射し込む部屋でわたしはそう願う
神よ……この程度なら知らせても良いですよね?
どうか、この手引き書が日本に届いていますように……




