75 ゼスト公爵領地変更
「勅命である!公爵ゼストは旧ターミナル王国の首都を含む北側半分を領地とし、ゼスト-ガイウス-ターミナルと名乗りを許す」
「勅命、しかと承ります」
ふふ、旧王国の名乗りを許すだってさ
【ゼスト、帝国を防衛しようぜ!お前、壁な】
こうである
あの陛下に押し付けられたよ
陛下の使者が帰った後、師匠と相談しておく
「師匠、辺境伯は南を貰いますよね?食料回してください」
「まあ、そうなるだろうね。北には……ね」
そう、北には穀倉地帯が無い
首都から北には湿地と砂地が入り交じり、少し行ったら海だ
普通は海岸の側には湿地は無いのだが……
あ、日本の九十九里浜が当てはまるかな
他にはほとんど存在しないくらい珍しい地形だ
湿地で作れる作物と言えば米なんだが、あいにく見付からない
この世界の住人だって馬鹿じゃない
有れば作ってるよな
「そうなると漁業しかないかなぁ」
「婿殿、魚は獣人族に頼むしかないんだけど……ほら」
「ああ、旧王国が差別したから漁師が居ないのか……」
この差別が極端に嫌われる世界では種族に貴賤は無い
だがある種族がほぼ独占している職業はある
それが漁師と鍛治師だ
別に他の種族でもやりたければ出来るのだが、圧倒的に実力に差が有って勝負にならないのだ
鍛治師には人族を見かけるが漁師はまず居ない
魔物が出る海で機械を使わない漁師は体力に優れた獣人でなければ無理なのだ
「……ハーマン達を使いますか?」
「それしか無いだろうね」
元反乱軍の代表ハーマンを含む彼等は獣人達だ
今はアルバートが面倒を見て街の掃除や修復作業をしていた
便利なメイド兵にアルバートへ漁師候補の選出をするように伝えさせた
基本的に貴族の子女だから優秀なんだメイド部隊
……脳筋だけどな
「あとは……文官の補充ですか」
これに師匠は答えないで渋い顔をするだけだ
師匠……今日も残業です、諦めてください
結局終わったのは深夜……出世すると事務仕事が増えるとは思ったけど、これは死ぬわ
文官さん……給料タップリ出すから来てください
次の日はアルバートとハーマン達を連れて海岸部に向かった
元反乱軍1500人のうち300人が志願した
アルバートに憧れて残りは兵士になりたいらしい
……駄犬が量産されない事を祈る
途中、盗賊だか敗残兵だかが出てきたのだが……
「ハハハハ、盗賊は殺せ!」
「一人も逃がすな、突き殺せ!」
「久しぶりに運動出来るわぁ」
「妊娠してる私に触らないで!!」
ん?
「メディア、貴様は妊娠していないだろ馬鹿が!」
メイド部隊による女死会が開催されていた
一部に男が居たが見かけは女だから仕方ない
メディア睨むな……妊娠休暇は出せないって言っただろう
「閣下、私を男扱いしないと言ったのに…」
「だったらターセルを復帰させるか?」
「……差別ですわ!」
「区別だ大馬鹿者!!」
顔を手で押さえ倒れ込むメディア、だが誰も心配はしていない
「ヨヨヨと言いながら泣く奴が居るか!もう少し上手くやれ!」
そんな最近の日課を果たしていると海岸部に着いた
何故か獣人達に出迎えられている……なんだ彼等は
「はじめまして公爵閣下、私はこの者達の長でございます」
おばさ……妙齢の獣人女性が平伏しながら語る
旧ターミナル王国の弾圧から逃げ出した獣人達の村が有るらしい
人数は50人程度でひっそりと漁をしながら生活していたが、王国が戦争で負け
獣人達は許されて働いていると聞いたが信用出来なかった
確認に人を出すと本当に獣人達は普通に暮らしている
ならば自分達もと出てきたところに俺達に会った
うん、一応筋は通ってるな
「ならばこれから漁師の村を作るつもりなのだが参加するかね?嫌ならば街まで案内して仕事もなるべく斡旋するがどうする?」
この申し出に彼女は喜んで頷いた
猫獣人の彼女達は漁師が多く、むしろ村に居させて欲しいと頭を下げていたくらいだ
勿論俺は了承する
漁師の村を作り沢山の魚を手に入れたいのだから、断る理由は無い
ハーマン達に指示を出して村の基本である縄張りを済ませてしまう
とりあえずの形になれば後は任せよう
仕事は嫌になるくらい有るのだ
アルバートは縄張り用の杭打ちだ
……奴に難しい事は頼んではいけない
「閣下、打ち終わりました」
「アルバート、全部埋めるな。少し地面から出せ」
『あっ』って顔するなよ……
縄張りだって言ったよな?
多少のハプニングは有ったが許容範囲だ
むしろあの程度で済んだなら上出来である
日も暮れる頃にはだいたい終わった
後は村長になるハーマンに任せよう
そう考えているときに言い争う声が聞こえたのだ
「違いますニャ、それでは村の周りを柵で囲えないニャ」
「何故だ?10本も丸太が有れば足りるだろう?」
「一本の丸太から柵用の板がさっき50枚しか作れなかったニャ。柵用には800枚以上必要ニャ、最低でもあと6本は必要ニャ」
「…………なるほど、計算はあってるな。何処で計算したんだ?道具など無いだろに……地面にでも書いたのか?」
「そのくらいなら暗算ですニャ、計算は得意ニャ」
そう言って笑う猫獣人の少女……
…………ミツケタ、文官ミツケタ!
「フフフ、お嬢ちゃん……ちょっとおじさんとお話ししようか?」
暗闇から突如、危険な言葉を放つ不審者に彼女は怯えて泣き出した
……アルバート、笑いすぎだ




