72 役割分担
ハーマンに先導されて王都……いや、旧王都に入る
だが、都と呼べる状態ではなかった
目抜通りはまだキレイだが、一本路地に入れば荒れ果てたものだった
民衆は疲れはて、反乱軍もとても軍とは呼べない
辛うじて武器を持っているだけの集団
そんな印象だ
元は騎士団の本部であった建物を接収した
宮殿は焼け落ちて使い物にならないから、元騎士団本部を仮設の本部として整える
これからしばらくはここに住む羽目になりそうだ……
早くベアトのところに帰りたいがやる事はやらないとな
「ライザ卿、戦の総大将はあなただったが事情が変わった。説明するから疑問点が有れば言ってくれ」
「はっ、承ります」
「まず、反乱軍の存在だ、彼らの対応はアルバートに一任する。次に王国軍の残党討伐、これはライザ卿に任せ、私は拠点整備と国内状況の把握そして……」
チラリとライザを見る
ここまでは納得したな
「そして外交だ、これを早めに手をうつ」
「外交ですか?それよりは旧ターミナル王国の平定を……」
そう、そう思うよな
「駄目だな、隣に厄介な奴等が居るだろうが……虐げられる子らを救います、聖戦です……とか言い出すぞ」
ライラック聖教国、旧ターミナル王国に隣り合う宗教国家
それが出て来たら厄介だ
「なるほど、先に手を打っておくと……」
感心したように頷くライザ
……総大将なんだから、少しは気にして欲しい
その提案に納得したライザは早速動く
素早く編成を終えると出撃していく
軍事行動は文句無く一流だから心配は要らないな
そして俺は自分の仕事を始める……
お手紙である
……仕方ないんだよ、沢山書くんだから
陛下に暫定処置として俺が司令官として振る舞う許可願い
ライラック聖教国へ治安維持の為、国境付近をうろつくお知らせ
まだ降伏していない各地の領主へ降伏勧告
都内部に向けた指示書
等々
頭が痛くなってくる…………
特に貴族向けの手紙は、正直書いてる俺も意味が解っていない
言い回しがイチイチ面倒だ
ガラクタが片付かない執務室に閉じ籠り、書類仕事を開始した
こればかりは……まさに気合いと根性で対応するしかない、最悪の敵であった
朝から始まった戦いは深夜に終わりを迎えた
やり遂げた……ようやく終わったんだ
軽く泣きながら外に出る
警備の兵士が明かりを用意してあるから暗くはない
中庭にでて深呼吸しながら肩を回す
治療魔法を使ったが、何となく違和感が残るんだ
軽い運動をして執務室に帰った
わざわざ他の部屋を用意させる余裕はまったく無い
メイド部隊を呼び、手紙を預けた
これでとりあえずは終了だ……明日からは斥候が持ち帰ってくるだろう情報を整理して……
そんな予定を考えていると外が騒がしい
正門へ向かうと住民だろう人影が10数人、兵士達に囲まれていた
「なんの騒ぎだ?」
「はっ!この者達は本部に侵入し、食料を奪おうとしておりました」
なるほどな
「日中に配った筈だが受け取らなかったのか?」
「はんっ、あんな程度で足りるかよ。戦争にメイドを引き連れてきたお貴族様が居るくらいだからな」
他の者達も同じか……
ニヤニヤと馬鹿にしたような笑いを浮かべている
「俺達は元帝国兵士なんだ、なあ、見逃してくれよ……あんただってお貴族には苦労してんだろ?」
…………ああ、夜中にウロウロしてる偉そうな奴だから、俺が貴族だと思ってないのか!
確かに直轄軍では夜警は平民って言ってたな、しかも元帝国兵か…
「お前達も辺境伯軍だったのか?」
「いや、俺達は直轄軍にいたんだが…」
「ああ、もう良いぞ……」
話を途中で止められたソイツは不満そうな顔だ
だが直轄軍で決定的だな
「コイツらは亡命兵だろうな。明日ライザ卿に渡してやれ、喜ぶぞ」
毎年居るのだ
兵士が装備と軍の備品を盗み亡命する事件が
そんなゴロツキなんだろう、コイツらは
尚も騒ぎながらも縛られる馬鹿達
だが、最後に良い事を教えると交渉してきた
「面白い情報なら買ってやる、言ってみろ」
高圧的に俺が言うと
ニヤリと笑うリーダー格の男が口を開く
「あのなぁ……辺境伯にベアトリーチェって孫が居るのは知ってるだろ?あいつが裸で写った魔道具……幾らで買う?」
「事情が変わった、地下牢に連れていけ。私が拷問して吐かせる」
手に入れたい
これは手に入れて保管しな……処分しなければ!
俺は使命感に燃えながら明け方の街を走り回った
見つけ出した魔道具には、確かにベアトが写っていた
裸でな…………裸 の 人形の洋服をかえていた…………
あの……朝まで徹夜で走り回ったんですが……あの……