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異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第二章 帝国の剣
72/218

71 反乱軍との会談

「ゼスト公爵閣下、ご足労おかけして申し訳ありません」


直轄軍の本陣、その天幕で生真面目な彼が頭を下げる


「ライザ卿、気にしないでくれ。……さて、そなたが使者殿かな?」


あの知らせの後、急いでやってきたのだ……

反乱なら急がないと色々面倒だからな


「お初にお目にかかる、私はハーマンと申します。現在の都の代表です」



そう告げて顔を上げた彼は獣人だった

アルバートによく似た耳だ、犬獣人でややホッソリとしているが背の高い精悍なイメージの男だ

まずは黙って鑑定魔法をかけておくか……嘘を言えば反応するタイプだ



「今の代表か……反乱かね?」


「はい、ターミナル王国の血筋は絶えました」



やっぱりか……

だが、彼が知らないだけで王族が逃げ延びているとも限らないし

周りの状況は細かく把握しておきたいな……


「アルバート、ターセルを呼べ」

「はっ」


「すまないな、続けてくれ」


外に出ていくアルバートを見送り彼は話し出す



「ご存知かも知れませんが…………」




そうして彼は話し出すが




事前に入っていた状況より悪かったようだ……



まず、ターミナル王国は人族至上主義になっていた

人族……日本で言えば人間が最上位の種族でその他は混ざりもので劣等民族だと


獣人をドワーフをエルフを虐待して奴隷扱いしていたと

逆らえばその種族の中から適当に処刑し、逆らえないようにしていた




そんな話を彼は泣きながら語っていた……



だが、それでも戦争まではしなかったようだ


ターミナル王国がそんな政策をした理由は食料不足だからだ


この土地は湿地が多く、大きな川も流れている

普通に考えたら肥沃な土地に見える


だが実際は悲惨だ……


貴族の圧政により国民に食料が足らなくなる

どうするか?年寄りや子供を捨てるのだ


そんな事を続ければ働き手が減り収穫が落ちる

更に国民に食料が足らなくなり


そして…………




「国王が宮廷魔導士を犠牲にして、異世界人を召喚しました」




…………この国だったのか

……そうか、この国だったんだな!


動揺を表に出さないように必死で魔力を抑える

……駄目だな、かなり漏れてる


一気に顔色を失ったハーマンは、口は動くが声が出ていない


「閣下、ターセルを連れて参りました」


良いタイミングでアルバートが戻った


「ご苦労、ターセル側に」

近寄る彼に小声で指示を出す

『周辺の警戒と探索を最優先だ、騎兵も使って良い。行け』


「かしこまりました、失礼いたします」


ターセルに命じ、話に戻る


「待たせたな、異世界人か……どうなった?」



「……は、はい」



詰まりながらも話してくれた


召喚自体は成功したが、目的の場所……つまりターミナル王国内に設置した魔法陣には現れなかった

成功を確信したのは魔法陣の光り方、そして術者が文献に有った通りで同じだったからだそうだ



馬鹿な奴等だ……



そしてターミナル王国は、異世界人が居ない状態で宮廷魔導士達は全滅している

そんな最悪な状況になる

益々酷くなる圧政……そんなときグルン帝国に精霊化を成した者が出てきた


うん、俺だな


調べてみれば異世界人だと解る……しかし自国が呼んだ異世界人だという証拠は無い



追い詰められた王国は…………



「開戦を決断……か…………」



シーンと静まり返る天幕



彼の話に嘘は無い……目配せでライザに本当だと合図して、彼も頷く



「で、何故降伏に条件がある?」


沈んだ顔でうなだれていたハーマンがガバッと姿勢を正す



「アルバート様は獣人でありながら、帝国の剣ゼスト公爵軍の騎士団長です!我々獣人の希望なのです!そんな方であれば我々を酷く扱わないと思い……」





て、帝国の剣?誰だそんな名前付けた馬鹿者は……

頭が痛い、恥ずかしい二つ名付けやがって……



だがなるほどな……よほど酷い扱いをされてきたのか

人間にトラウマでも抱えていそうだ

だが駄目だな





「話は解った……だが駄目だな、降伏に条件などつけられる状態か?違うだろう、だから責任者自ら来たのであろうが」



溜め息をつく


ビクンと震えたハーマンは苦い顔だが構わず続けた





「貴様達の降伏に条件はつけない、ただし、貴様達が降伏するならば対応の責任者をアルバートにし、決して無下に扱わないと私がグルン帝国の名にかけて誓おう」






帝国は反乱軍になど条件をつけた降伏は認めない

そんな事をしたら笑い者だ、反乱軍にさえ勝てない正規軍と


だが、寛大な心で哀れな民を受け入れるなら話は違う


詭弁だが仕方ない……貴族の、国の面子の為だ




ようやく理解出来たのか、ハーマンが頭を下げた


「なにとぞ、なにとぞよろしくお願いいたします!」




「ハーマン、心配要らない。獣人の誇りにかけて閣下を信頼して大丈夫だと誓う。それに閣下は異世界人だ……獣人に偏見など無い。ですよね、閣下」



おどけたアルバートがこちらを見る

……ふふ、言うようになったなアルバートも




ニッコリ満面の笑顔で言ってやる






「そうだな、私の正室を街中で口説いても許したし。結婚したいと泣き付いた時にも手を貸してやったし、ああ!街の酒場で美人の…………」

「閣下!申し訳ありませんでした、調子に乗りましたお許しくださいっっっ」




そうやってふざけあう俺達を見てポカーンとしていたが、いつしかハーマンも笑っていた……涙を流しながら……


「我々はグルン帝国に全面的に降伏いたします」


そう告げて笑う彼は、晴れ晴れとしていた

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