69 閑話 メディアとターセル
ターセルがメディアに告白して求婚する
その知らせは全軍に伝わった
あのメディアと…あのメディアと結婚
「メディア?あのメディア様か?」
「結婚って…」
「どこの馬鹿だそいつ……公爵軍!?」
「公爵軍なら知ってて言ってるのか?」
騒然とする砦の野郎達
「ふぉふぉふぉ、誰にも邪魔はさせるな。ゼスト卿に聞いておるからのぅ、邪魔する馬鹿は殺せ」
「「はっ!」」
ゼストと辺境伯……二人の指示により告白の舞台は着々と進められた
そして、さりげなく用意された砦内の一室でゼストに呼び出されたメディアは一人紅茶を飲んでいた
「何かしら呼び出しなんて……やだ、ゼスト公爵ったらまさか?」
本人が聞いたら間違いなく斬りかかるような独り言を呟く
だが彼女は嫌がっては居ない、ゼストには好意を持っていたからだ
元日本人のゼストは彼女に理解がある
キチンと女性として扱うし、馬鹿にしたりしないで自分を認めてくれた初めての男性
だが、ゼストが自分にそうした事をしないとも解っている
妻のベアトリーチェにだだ惚れで、暇さえ有れば妻のストールを握り締めているのを知っていた
「ふぅ、あんなに好きになってくれたら何でもするのに……」
ずっと持っていたらしいカップを置く
ふと部屋の入り口を見ると男が立っていた
「ターセル?どうしました、こんなところに」
「メディア様、お話が有ります。お願いいたします、私と結婚してください!」
『ああ、またか』
彼女はそう心の中で呟く
『今まで何回もあった……好きだ、愛してる、結婚して欲しい
だがみんな同じだ』
目の前の男ターセル隊長は元冒険者で斥候隊長
だが、彼もきっと同じだ
「あらあら、ありがたい申し出ですわ。でもわたくしはあなたの思っているような女性ではありませんわ……ごめんなさい」
いつもの台詞、いつもの笑顔でそう告げる
『……わたくしは女性ではありませんもの
きっと皆に教えてもらえば彼も諦めるわ』
ガックリと肩を落とした彼が部屋を出ていく
その後ろ姿を黙って彼女は見詰めていた
…………悲しそうな瞳で
どれくらい時間が過ぎただろうか?
まだゼスト公爵は来ない……が、珍しくは無い
大貴族の公爵が子爵の娘程度を待たせるなど普通だ
黙って待っているのも貴族の仕事だ
バンッ
乱暴にドアが開く
ようやく来たのか
カップを置いて、立ち上がろうとすると彼女は後ろから抱きしめられた
「え!?」
思わず声が出る
『ゼスト公爵が?なんで……違う?公爵じゃない?』
混乱する彼女の耳に彼がささやいた
「メディア様、わたしは元冒険者です。貴族ではありませんし、あなたより弱い」
『ターセル?彼がなぜ、またこの部屋に?』
まだ混乱している彼女を強く抱きしめる
「メディア様の事情は知っています」
彼女はターセルを振り払うと怒りの表情で睨み付ける
事情を知っている?ならなぜ来たのか……わたしをからかうのか?
男がこんな格好でと馬鹿にする為に来たのか!
そんな怒りに燃える彼女の前で……ターセルは服を脱いでいく
「なにをっ…………」
何をしている
そう言いたかった彼女は黙る
いや、言葉が出ないのだ
「初めて会えました。わたしと同じ悩みを持つ人に……わたしは女なんです……でも……」
彼女は黙って見ていた
ターセルの身体を……女性の特徴があるその身体を
「わたしは女なんです、だからあなたが男でもいい。あなたを愛しています……あなたは……こんな女はお嫌いですか?」
「…………うそですわ」
「あなたが男でも関係ありません、愛しています」
「…………」
「メディア様、あなたが好きなんですよ」
ゆっくり近付いたターセルがメディアを抱きしめる
「教えてください……こんな女はお嫌いですか?」
そう問いかけたターセルに抱きつきながら、メディアはいつまでも泣いていた
初めて……初めて自分の事情を知っても愛していますと言ったターセルに
男でも受け入れると言った人に抱きつきながら
初めて
初めてこの人を離したくないと感じていた
砦の執務室、今はゼスト公爵の部屋になっている執務室に二人はやって来た
「どうした、二人で仲良く」
いつもの穏やかな笑顔のゼスト
手を繋いでいる二人がゼストに伝えたい事
「「わたしたち、結婚します!」」
そう言って頭を下げる二人に、期待した以上の言葉がかけられた
「おめでとう、良かったな。わたしが細かい話は調整してやるから心配要らない。私が仲人をするから文句は言わせない、誰にもな……これからは幸せになれよ?」
そう言って笑うゼストを見ながら二人は決めた
ゼスト公爵に一生付いて行く……剣となり盾になると