68 一時帰還
「ゼスト公爵、この度の事…何とお礼を言えば良いか」
俺の屋敷の執務室で泣きながらお礼を言う人物はメディアの父親、マーク子爵である
砦に陛下の直轄軍が到着したので、俺は一旦自分の領地に帰ってきたのだが…
「あの、あのメディアは男の癖にあの有り様で…我が子爵家も終わりかと思っておりました……それがっ……それがっ」
マーク子爵、号泣である
「もう、お父様は大げさですわ」
「やかましい、この馬鹿息子が!何がですわだ!」
苦労してるなぁ……息子がコレだもんなぁ
「ゴホンッ、ゼスト公爵。このマークは公爵の為なら何でもしますぞ、返しきれない恩をいただきました」
「ふふ、軽々しく何でもなどと言うなマーク卿。そもそも結婚を認めてもらった私が礼を言うべきかも知れぬ」
ターセルがメディアを好きだと言ったあの後、それはそれは大変だった
皆に送り出されたターセルだが、なかなかメディアが納得しなかった
どうせいつもと同じだと……男だと知れば逃げて行くのだろうと
ターセルがそれに気が付かないでフラれたと帰ってきたのだ
「メディア様にわたしはあなたの思っているような女性ではありません…………と」
頭が痛い……貴族の悪い癖だ
「それは意訳すると、わたしは男です!だぞ?よく考えろ」
そう
「わたしはあなたの思っているような【女性ではありません】」
本当に貴族の言い回しは疲れるよ
その後はお互い打ち明けあってめでたしめでたしだ
唯一の不安が親であるマーク子爵が許可するかだったが
「まさか孫の顔を見る可能性が出てくるとはっ」
大喜びで、わざわざ挨拶に来てくれている訳だ
「お父様、わたくし立派に赤ちゃんを産んでみせますわ」
「お前が産めるわけ無かろうが、馬鹿息子が!」
……やれやれである
ターセルには騎士爵を与えておいた
新任で子爵と爵位が離れているとは言え、公爵軍所属だ
縁を繋ぎたいマーク子爵は納得してくれた
「平民?関係有りません、アレと結婚する女性なら文句など全くありません!」
うん、間違いなくこっちが本心だわ
その後もお礼を言われ続け、やがて満足した子爵は帰って行った
子爵が帰った後は軍の準備だ
一旦帰ってきたのは、これが一番の理由だからだ
陛下はターミナル王国の攻略を決めた
精鋭だけ引き連れていた俺は全軍をまとめあげる為に帰ったのだ
王国の攻略戦だ、騎兵だけでは駄目だからな
しっかり準備して、全力で乗り込むのだ
書類仕事を済ませていると夕方だ
自室に帰りベアトとトト、三人で仲良く風呂に入る
準備が終わればまた戦争だ……二人と触れ合う時間は大事にしたい
風呂を出て夕食を済ませたらイチャイチャタイムだ
「ベアト、また戦場に行かなければならない。寂しくさせて済まないな」
「謝らないでください、ちゃんと待ってますから…帰って来てくだされば我慢します」
(お父さん、トトはちゃんとお母さんを守ってるよ!)
「ふふ、トトは偉いな。ありがとう、またベアトを頼むぞ?」
愛しい家族との団らん……これでまた暫く戦える……
トトはもう寝ている
ベアトは……さっき寝たばかりだからな、起こしたら悪い
一人、ベッドから起きて窓際のテーブルへ向かう
水差しから直接飲んだ
誰も見ていない、構わないだろう
しかし、今回は助かったな……
メディアの結婚相手なんて、無理難題どころじゃないからな
それでも出来ないなんて言えないのだ
貴族として優遇されている分、責任も発生するのだから
褒美を与えられない貴族に未来は無い
いずれ付いてくる者が居なくなる……しかし……今回は
「ターセル様々やわぁ……………」
夜中に一人、夜空を見上げて呟いた
意味が解ったら、同年代です