60 一章 エピローグ
「どうした!それで終わりか、腰抜け共が!」
アルバートの怒声が響く
結婚式から半年が過ぎて、公爵領の仮屋敷が完成した為にそちらに移った俺達もだいぶ慣れた
新たに使用人も雇い、生活に不自由は無いしベアトもトトも元気だ
「ほら、立て!立ってかかって来い」
アルバートは新公爵軍の騎士団長になり、兵士の鍛練に手を抜かない
…………兵士達、大丈夫か?
俺が見に来たから余計に気合いが入ってるな、これは
兵士達は黒騎士達が100人移って来たし、冒険者や帝都の兵士達も立候補してついてきた
そこまでは解るよ
「兵士達に慕われてますね、あ……あなた」
恥ずかしそうに『あなた』と呼ぶベアトがかわいい
たまには前みたく、冷たい表情で罵られ……なんでもない
そう、兵士達に慕われてると思うよ?俺だって
そこまでなら…………
「次、武装メイド隊だ!来い!」
「はっ!武装メイド隊、かかれ!」
…………黒騎士達とド突き合うメイド達
おかしいだろ……おかしいよな?
何故か軍籍の親を持つメイド達が我が軍には大量に在籍していた
『閣下、女性武官をどう思われますか?』
『んん?女性か男性かなど些細な問題だな。使えるか使えないかだ。能力が有れば重用するし無能は要らない、当たり前だろう』
軍に入りたいとやって来た者達のテスト中に聞かれてそう答えたのが不味かった
女性だから
それを理由に騎士に成れなかった者や冒険者で軽く見られていた者
お転婆娘を花嫁修業にと、メイドにした貴族の娘達が大量に集まった
100人に1人しか残らないと言われる辺境伯流テストに8割の娘達が残ったのだ
おかげで周辺領からは『公爵軍の戦乙女部隊』と呼ばれる御姉様方の軍団が結成されている
その中の一部隊がメイド隊だ
メイド服に槍を持ち、門番もしている
『メイドが門番してやがる、からかってやろうぜ』
甘く見て絡んでは血だるまにされて捨てられる
公爵領では日常的な光景だ
「よし、今日訓練は以上だ。解散!」
「「「「ありがとうございました!」」」」
確かに見事な練度なのだが……こう……おかしくないか?
まあ、人手不足だから仕方ない
仕方ないで済まそう
「閣下、いかがでしたか?まだまだ甘いところも有りますが、だいぶ仕上がりました」
「ああ、アルバート。さすがだな、素晴らしい練度だった」
訓練が終われば飲み会である
メイド達と飲み会
兵士達の役得か……羨ましい
そんな風に思う馬鹿は領地には居ない
「閣下、聞いてますか?わたしをガサツだって言うんですよ、そのお坊っちゃん貴族が!」
「ちょっと、おつまみのサラダまだぁ?」
「アルバート団長!手合わせを!」
「閣下、お見合いまだですか?」
「だいたい、あんな女の何処が良いのよ……」
「「「「ちょっと、聞いてますか?」」」」
「「はい、聞いてます」」
女性軍団の飲み会はアルバートが強制参加で飲み代持ちだ
俺はたまにしか出席しないが、逆らってはいけないのだけは解るよ
アルバートは男爵で騎士団長、しかも愛妻家だから酔って手を出して来たりはしない
ついでにお見合い相手と紹介するのは黒騎士達だ
帝国の誇る精鋭中の精鋭
戦乙女達にはのどから手がでる優良物件だ
そりゃアルバートは強制参加だよ……
飲み代持ちだがそんなにキツくないのも知っている
黒騎士達からカンパが有るんだよ、あいつらも結婚したいらしい
戦乙女達なら家柄だの血筋だのガタガタ言わないからな
『黒騎士の矜持に感動した!私も共に戦う』
そんな脳筋ばかりだからな……
でも……かわいい子が多い
納得いかないよな…………黒騎士の訓練は追加だな
屋敷に帰るとベアトとトトが出迎えてくれる
「ただいま、ベアト、トト。変わりなかったかい?」
「おかえりなさいませ、あなた。ええ、トトちゃんと楽しく過ごしてましたわ」
(お母さんとお花で冠を作りました!上手ですか?)
ベアトは益々キレイになった
うちの奥さんは本当に美人だ……異世界に来て良かった
もう絶対帰らない
トトを誉めながら夕食を食べて、一緒にお風呂に入る
風呂場ではしゃぎ過ぎたトトはすぐに寝てしまう
ベアトと二人、ゆっくりとした時間を楽しむのだ
これもいつもの事である
「あなた…ごめんなさい、子供がなかなか出来な……」
ギュッと抱きしめる
「慌てる事は無い、こればかりは授かり物だ。焦っても仕方ないよ?」
「でも……」
「それに、もうしばらくはベアトと二人で仲良くしたいって言う我が儘を許してくれないか?ベアト…」
「……仕方ないから許してさしあげますわ」
そう言っておどけるベアトと唇を重ねて
二人の夜はふけて行った……
そんな平和な毎日を過ごす俺達に、帝都からの使者がやって来る
甘く幸せな時間が終わり、大きな渦に巻き込まれていく
後にグルン帝国の転換期
帝国の剣と呼ばれた公爵と、彼に付き従い大陸制覇を成し遂げた英雄達の物語
激動の足音は、ゆっくりとだが確実に迫っていたのだった




