59 結婚式
結婚式当日
俺は早朝から準備していた
見事な装飾で飾り付けられた儀礼用軍服を纏って城へ向かう
実家から城へ向かうのは専用の馬車だ
白い周りのよく見えるオープンタイプだ
その馬車に揺られて城に着くと、すぐさま大ホールに急ぐ
日の出に合わせ結婚の儀式を行うのだ
ホールでは貴族達が既に待っている
彼等に挨拶しながら花嫁を待つのだ
来た……本当に綺麗だ…………
辺境伯家の色である黒を基調としたドレス
公爵家以上しか使えない金糸をふんだんに使って仕上げられたドレスだ
豪華なものに慣れた貴族ですら、思わず溜め息をつく
ドレスに負けないベアトの美貌にも注目が集まっていた
透き通るような白い肌、髪は艶やかな黒い絹糸のように動きに合わせて踊っている
顔には小さな桜色の唇がアクセントになり、切れ長な目を引き立てより大人びた美しさと可愛らしさが同居した
絶世の美女という言葉しか出て来ない
すべての参列者が見とれる中、朝日を浴びながら結婚の儀式を受ける
神のしもべたる神官と、神の使いたる精霊に愛を誓うのだ
「我らは死が二人を分かつまで、変わらぬ愛を誓う」
「我らは死が二人を分かつまで、変わらぬ愛を誓う」
「神への宣誓、確かに見届けました。お二人に祝福を」
(お父さん、お母さん、お幸せに)
神官の言葉と同時に扉が開かれる
俺達は手を結びながら扉へと向かって歩いて行った
「ベアト……綺麗だよ、とっても」
「……ありがとうございます」
扉を出ると馬車が用意されている
白衣の付き添い人に手伝われ馬車に乗り、城下町へ出発する
パレードだ
儀礼用装飾を着けた黒騎士100騎が馬車の周りを護る
選び抜かれた精鋭部隊だ
市民の大歓声の中、パレードの一行はゆっくりと進むのだ
馬車から俺達はにこやかに手を振るのだ
「ベアトリーチェ様、綺麗!」
「うわぁ、綺麗だねおかあさん」
「ゼスト様!こっち向いてぇー」
「おめでとう!」
「黒騎士だ!カッコいい!」
「ベアトリーチェ様ー!」
城下町をゆっくりまわる
半日かけてまわるのだ
手抜きは許されない
夕方になり、城に帰って来た
そのままホールに移動してパーティーである
「今日は我が帝国の重鎮たる両公爵の結婚式に良く集まってくれた」
陛下の挨拶が続く中、にこやかに前を見る
パーティーには陛下も参加している
帝都の外での臣下の結婚式に参列するのは初めてだ
今回の結婚式の重要さを表している
ベアト、手は振らなくて良いんだよ
しっかりしなさい
虚ろな目のベアトの手をさりげなく押さえる
そろそろ疲労がピークだ……
陛下の挨拶が終わり、来賓の挨拶に移る
何度か意識を失いそうになりながら挨拶を聞き終えた
ようやくゆっくり出来る?
いや
ダンスの開始である!
主役としてオープニングダンスを踊る
ベアトに治療魔法をかけて耳元に語りかける
「大丈夫かい?無理なら良いんだよ?」
「大丈夫です、頑張ります!」
お互いに気合いを入れてフィニッシュだ
多少足がもつれながら席へ戻る
ようやくゆっくり出来る?
いや
来賓の挨拶行列の対応である!
にこやかに握手しながら挨拶を聞き流す
最早、何を言っているのか理解出来ていない
強制握手会がなんとか終わる
ようやくゆっくり出来る?
いや
お色直しである!
控え室に戻り、貴族とは思えない手掴みの食事が始まる
今日初めての食事だ
トイレなど行っている時間は無い、部屋の片隅にある壺にするのだ
笑い話では無い、やるしかないのだ
お色直しが終わり会場へ戻る
ようやくゆっくり出来る?
いや
ダンス第2部スタートである!
多少は回復した体力がゴリゴリ削られる
笑顔がひきつらないように注意しながらダンスを終えた
ベアトの手をとり、席へ戻る
ようやくゆっくり出来る?
いや
下級貴族との握手会である!
今度は下級貴族が相手だ
テンプレートな挨拶だけでサクサク終わらせた
ようやくゆっくり出来る?
いや
来賓へのお礼と退場の見送りである!
まずは陛下に挨拶する
「もう少しだ、頑張れよ」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます陛下」
小声で励まされ、少し元気になる
他の来賓へ挨拶しながら見送りを終えた
ようやくゆっくり出来る?
いや
退場の挨拶である!
会場の参列者に向けてお礼の挨拶をして退場する
ようやくゆっくり出来る?
いや
初夜の準備である!
メイド達に裸にされて洗われる
最早はずかしいとか気持ちいいなんて感情は無い
淡々と洗われる
ピカピカにみがかれて部屋に帰る
ようやくゆっくり出来る?
いや
初夜である!
貴族の既婚女性数名が見守る中、いたすのである
ベアトと顔を見合わせて…………頑張った
終わると別室に移される
見届け役がシーツの確認中だからだ
ようやくゆっくり出来る?
いや
結果報告である!
見届け役の女性がやって来る
「確かに見届けました、異議はございません」
全員頭を下げた後、部屋から出ていく
ようやくゆっくり出来る?
ようやくゆっくり出来る?
出来るのだ!!
「ベアト、終わったよ…………」
「はい……疲れました……ね」
ベッドに倒れ込み動けない
「貴族が離婚しないの解るよ……何回もこれはやりたくないや」
「ええ…………まさか、これ程とは……」
ベアトを腕枕しながら、だんだん眠くなってきた
「でもようやく……終わったから安心だね」
もうベアトは寝たのかな…………
俺も寝よう……
「…………ツバキ皇女殿下と結婚式、頑張ってくださいね?」
意識が遠くなっていくのは眠気のせいだと思いたい…………
もう一回…………やるのか……これ……




