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異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第一章 帝国黎明期
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5 辺境伯爵の野望

王権の簒奪……


簒奪って事は奪うって事だよな、そして旗頭になればよいと言っていた……

そうすると政治的にと言う事だろうか?まさか反乱の旗頭とかじゃないよな?


……ん?待てよ?


「あの、閣下。王権ですか?」


そう尋ねるとニヤリと笑みを深くした


「そう、王権じゃよ。我が帝国の隣に王国が有るのじゃがな…」


うわぁ、悪い顔だ……頷きながら俺も紅茶をすする

あ、旨いなこれ


「その国が何を思ったのかとんでもないボンクラを立太子してのぅ……」


立太子ね……跡取りを指名したわけだ

お家騒動にちょっかいを出そうと言う訳か?


「その王太子がなぁ、なんと種族差別思想なんじゃよ」


……は?


「人族至上主義……と、言うやつじゃな」


アルさんが忌々しい顔で、指切り騎士も面白くなさそうな顔だ

なんとまあ、差別禁止の世界でそれはかなり…いや、非常にマズイ王太子なのだろう


相変わらず辺境伯の老人……ラザトニアじいさんは悪い笑顔だ


「じゃからな、其奴には王になられては困るのよ」


……うん、それは建前だろうな

いや、事実そうなんだろうが……善意でそれが許されないと考えている訳じゃないだろうよ


つい、ラザトニアじいさんを訝しげに見てしまう


ニタァ……


ひっ!怖い!!


「察しがよいのぅ!小うるさい隣国に食い込むちょうどよい機会なんじゃよ。中から崩せるなら良し、中枢に食い込めるならば尚良し」


「そして、王権を簒奪出来れば最良。傀儡国家にでもするんですか?」


なんとかそう絞り出した俺は味の分からなくなった紅茶をすする


「ふふふ、いや、今回の勇者殿は話が早くて助かるのぅ。どうかね?」


……異世界に来て勇者になって、やることはお家騒動かよ

まあ、特に武道の心得が有る訳でも無いし営業として話が出来るのが取り柄みたいな俺だ

戦えと言われないだけマシなんだろうか


「はい。かしこまりましたラザトニア閣下」


恭しく頭を下げる

逆らっても死ぬだけだ、イエスかはいで答えるしかない


「そうかそうか。良かった。他の異世界人はどうも話が通じなくての。やれ人権やら、自分の国の思想を押し付けて来てのぅ…」


俺は頷くと味の分からなくなった紅茶を……あ、もう無いや……


「勇者殿には悪いが、だいぶ数は減ってしもうた…いや、気を悪くせんでくれ」


……?

なんだろうか……今、凄い事を言われた気がする


「そのうちあの異世界人の生き残りに会う事も許すが、暫くは忙しいでな。我慢して協力して欲しい、ああ心配せんでくれ。ある程度の自由は保証するし魔法の訓練もしてもらう。悪い話では無い筈じゃ」


一緒に来た彼等は何人か死んだのか?普通に考えたら不条理だ

だが、今の俺には何も出来ない


力の無い多少口が上手い異世界人、自分が死なないようにするのが精一杯だ


「はい。頑張りますラザトニア閣下」


頷くとラザトニアじいさんはサッと右手をあげる


すると部屋の壁がドアのように開いて、一人の男性が出てきた

20代だろうか?栗色の髪、栗色の目をした180cmくらいのガタイの良い青いローブを着ている

残念ながらイケメンだ……悔しい……


「どうであった?勇者殿の魔力は?」


聞かれたローブの男はそのイケメン顔を歪めながら頭を下げると


「はい、閣下。お答え出来かねます」


ピクンとラザトニアじいさんは口元を動かすが薄笑いは張り付いたままだ


答えられない?恐らくは部下であろうローブの男はそう言っていた

部下が上司に答えられない?この世界で、貴族相手にそれは許されるのか?


案の定、二人の騎士は苦い顔をしている……いや、怒りを抑えている

そんな顔だった


「ふむ。困ったのぅ。あ、勇者殿は案内を付けるゆえ部屋を移ってくれ。まだまだ話が有るが腹も減ったし湯でも浸かって仕切り直ししようではないか」


そう言って指切り騎士に目配せをすると騎士はドアを開ける


「かしこまりました閣下。失礼いたします」


俺は大人しく従う

せっかくメシと風呂に誘われたんだ、断る理由はない


「うむ。また後程な」


薄笑いのラザトニアじいさんに頭を下げて騎士に付いていく


階段を登り日の光が眩しいな、綺麗な庭園の中に出たようだ

とりあえず腹減ったなぁ……暫くは生きて行けるみたいだなぁ……

そんな事を考えながら呑気に騎士に付いていった


俺が居なくなった部屋で、こんな会話がされているとは知らずに……










「で、魔力は?あやつが居なくなった今なら言えるじゃろ?」


「はい閣下。彼の魔力は間違いなく我が師を、宮廷魔導師筆頭を超えております」


「く、くっくっくったまらんのぅ……頭も悪くないし魔力もそれか……勇者だけでは惜しいのぅ……」




あんな凶悪な笑いをしてるラザトニア閣下を初めて見た……世界の終わりかと思った


後にそう俺に語っていたアルさんは、思い出すだけで尻尾が震えると愚痴っていた


やはり俺は死ぬんだと思う

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