57 辺境伯領への帰還
「ようやく帰って来たなぁ。ずいぶん久しぶりに感じるねベアト」
「はい、ゼスト様。ふふ、トトちゃんは初めてになるのかしら?」
(ん~、覚えているような、いないような?)
久しぶりの辺境伯領だ
城下町の景色も懐かしく感じるな
結局、帰って来るまで一月は余計にかかったよ
冒険者ギルドや兵士達からは訓練して欲しいと言われて、メイド達には公爵領で働きたいと詰め寄られ
……メイド達に詰め寄られたのは悪くなかったけどな
(お母さん、お父さんのあの顔は女の人の事を考えてるです)
止めなさいトト、ベアトもそんな顔しないで
……でも怒った顔が懐かしいな
以前はいつもこの顔だったんだよな
「ベアト、メイド達をどうするか考えていたんだよ。かわいい顔がもったいないよ?」
隣のベアトを抱き寄せて頭を撫でる
最初こそ、怒った顔をしていたが徐々にやわらかな笑顔に変わる
「もう、そうやって誤魔化すんですわねゼスト様は」
言いながらも俺を抱き返すベアト
やわらかなふくらみが身体に当たる
同時に花の香りがフワッと届くのだ
「ベアトは良い匂いだね」
耳を見れば赤くなっているが離れない
「ゼスト様の香りも……好きですよ」
少し潤んだ目で見上げてくるベアト
俺は軽いキスをベアトの額に……
「んんっ!ゼスト、私達を忘れてないかしら?」
「ふふ、ゼストは最近……挑戦的だね」
……すいません師匠、忘れてました
ベアトも本気で忘れていたようだ、慌てて座り直す
そうなんだよ、師匠と義母上もこの辺境伯領行きに同行しているのだ
その……
「まったく、もうすぐ結婚式なのよ?その後でいくらでも出来るじゃない」
ベアトの顔が更に赤くなる
「そうだね、早く孫が見たいからね」
師匠にとどめをさされて撃沈するベアト
(子作りはいつからですか?私も手伝うです?)
待てトト、何を手伝うんだ何を
しかも聞くなよ……どう答えたら良いんだそれは
仲良く真っ赤になりながら馬車はガラガラと進んで行った
俺は屋敷の前に立っている
ベアト達は辺境伯家に向かったが、俺は自分の屋敷……養父の屋敷に帰って来たのだ
一旦帰り支度をして、夜は辺境伯家でパーティーだ
まだ結婚前だからな
仕方ないんだが、やはり寂しい
ベアトと一緒に居るのが当たり前になっていたからな
肩のトトを撫でながら屋敷に入る
久しぶりの我が家だ
「おかえりなさいませ、公爵閣下」
「ああ、皆も変わりないようで良かった」
出迎えたメイド達にお土産を渡す
しきりに遠慮していたが、無理やり渡した
世話になってるからな
ホクホク顔のメイド達に見送られ養父の部屋へ行く
まずは当主に挨拶しないとな
「ただいま戻りました養父上、養母上」
「ガハハハ、元気そうで何よりだ」
バンバン肩を攻撃する養父上
足元の石畳が割れてますよ
(お父さんのお父さんとお母さんですか?)
頷くと机の上でお辞儀をするトト
「トトと言います。ベアトと二人で生み出した精霊です」
食い付いたのは養母上だ
「まあまあ、かわいらしいわ。ベアトの小さな頃にそっくりね」
ニコニコしながらトトを拉致してお菓子を与えはじめる
やはりベアトを知っている女性だとこうなるのか
「しかし公爵閣下とはな、ツバキ皇女殿下とも結婚するらしいな」
普通にしているつもりだろうが、二人とも少し心配そうだ
「ご安心ください、私の正室はベアトです。ツバキを蔑ろにはしませんがベアトを愛していますからね」
恋愛結婚の二人だ、心配しているだろうからな
「……ガハハハ!さすが私達の息子だな、ベアトお嬢様を泣かせていたら叩き切るところだったわ」
更に豪快な肩への攻撃が続く……養父上、そろそろ本気で痛いです
魔力で強化してるのに何故ダメージが入るんだ……
「そうよね、ゼストがそんな不誠実な事したら……私、悲しみで何をするかわからないわ」
養母上、顔は笑ってますが目がすわってます
ガハハハ、ウフフと上機嫌な二人にもお土産を渡す
「お二人に土産を用意いたしました、養父上には酒とこれを」
帝都で買って来た酒と魔道具を渡す
酒はドワーフが殺し合いになって奪い合う、とか言われてる酒を一樽
魔道具は映像を一回記録出来るプレートだ
養父上、もう飲むんですね……
「養母上にはこれを……」
取り出したのは布の生地と、綺麗な刺繍の入ったおくるみだ
化粧品も当然忘れていない
「この生地は柔らかく吸水性が良いと評価の物です、おくるみは肌触りで選んだので……」
ガバッと養母上に抱きしめられる
あ、少しお腹がポッコリしてきたかな?
「ゼスト……優しい子ね、嬉しいわ。ありがとう」
優しい匂いだ
抱きしめられて、頭を撫でられる
母親か……日本に居る母親もこんな感じなんだろうか……
母親の愛情を知らない俺は黙ってされるがままになっていた
「ガハハハ、ゼスト良い土産だな。おくるみは温かそうだし、肌着に良さそうな生地だ、私の酒も旨い。が、この板はなんだ?」
そっと養母上から離れて答える
「はい、新しい魔道具で姿を鏡のように写して保存出来る物です」
真顔になった養父上
……なんだ?まずかったのか?
「では、セリカの裸がいつでも見れるのか!」
良い雰囲気は消え果てて、鬼の形相の養母上に没収された養父上の背中は
とても、とても悲しそうだった
養父上、後でもう一枚あげますよ……




