53 甦る悪夢の兵器
ベアトが朝食を作っていた…………
その絶望的な知らせを聞いて、俺は思わず問いただす
「貴様、それを黙って見ていたのか?事故で料理が駄目になったり、誤ってぶつかったり出来なかったのか?」
すがるような目で黒騎士は答えた
「ゼスト様、最近はベアトリーチェ様の人当たりが良いのです」
涙ながらに続ける
「あんな可愛らしいベアトリーチェ様が必死に作っているのです、止められません!」
「…………忘れてくれ」
「…………ご武運を」
黙って握手をして部屋に入る
「おはようベアト、良い朝だね」
「おはようございますゼスト様、ええ、素晴らしい朝ですね」
震えている足に治療魔法をかけながらイスに座る
「今日の朝食は私が作りましたの」
ホメテホメテという表情のベアトの頭を
強化魔法を駆使して震えを抑えながら撫でる
「美味しそうな香りだね、ベアト。でも危ないから料理はしないんじゃなかったかい?」
「うふふ、あれからゼスト様が心配しないように練習しましたの」
キラキラ輝く笑みだ
仕方ない
こんな美少女が俺の為に作ってくれたのだ…………
食べるしかない
(お、お父さん…コレは…)
トト、それ以上はいけない……目で言わせないように抑える
「いただきます…」
(いただきます!)
「どうぞ、召し上がれ」
料理の内容はパンとスープ、そしてサラダと飲み物の黒い液体
見かけは普通だ、異常は無い
恐る恐るスープを一口飲む
「美味しい…」
!? これは当たりだ!
きっとメイドが用意した当たりだ!
まずは助かったか…トトもゴクゴク飲んでいる
では、パンか?一口食べてみる
「うまいな…」
これも当たりだ!
なんという幸運だ……残りは二つ……
勢い良くサラダを食べる
「サッパリして美味しい……」
なんて事だ…………ラストに危険物が残ったようだ…………
チラリとトトを見ると、黒い液体は手をつけていない
わかったよ
俺が飲めばまるくおさまるんだ……
覚悟を決めて一気に黒い液体を飲む!
「コーヒーだ…………」
そう、コーヒーだったのだ
「うふふ、それは日本ではよく飲まれているんですよね?調べたら古い本に書いてありましたから」
ニコニコしながら朝食を食べるベアト
「私のお料理が下手だったから、ゼスト様は心配したんですよね?」
優しく微笑むベアトに何も言えない
「知ってます、ゼスト様が優しさで黙っていた事も。でも、やっぱり作ってあげたくて練習しましたの…………お祖父様で」
…………辺境伯、生きてるよな?
「お祖父様はお忙しいから、黒騎士達に途中から交代しましたが…………」
辺境伯のジジイ、逃げやがったな
「おかげで上手になりましたか?ゼスト様」
本当にこの子は…
本当に優しい子なんだよな
闇属性のせいで、散々辛い思いだってしたはずなのに
こんなにも優しいんだな
ベアトをそっと抱きしめる
「ベアト、本当にありがとう。本当に…」
じっとベアトを見詰めると、いつの間にかキスをしていた………
「ごちそうさまでした」
(ごちそうさまでした)
「はい、お粗末さまでした」
ベアトの作ってくれた料理は、本当に美味しかった
残らず平らげて、食後のコーヒーを飲んでいる
「しかし、コーヒーがこの世界に有るなんて知らなかったよ。いつの間に買ったんだい?」
久しぶりのコーヒーに上機嫌の俺はニコニコしながらベアトにたずねる
するとニコニコしながらベアトが教えてくれた
「買ってませんよ?トトちゃんのお尻から出てくるんですよ」
…………コピルアクだ
これはコピルアクなんだと思いながら飲み込んだ
ジャコウ猫のフンから作るコピルアクというコーヒーは、残念ながら実在します