4 世界の仕組み
マズイ……非常にマズイ……
紅茶の香りで油断した
つい、地球でのクセ……日本でのクセが出た
紅茶のリラクゼーション効果は抜群だな、身をもって証明されたわ……
「トシよ……一つ忠告しておこう」
無表情の老人が語る
目が据わるってこんな感じなんだろうなぁ……と、のんきに思うが足元は震度7である
ガクガクだ
「は、はい。閣下」
「まだこの世界に慣れておらぬお前だ。最初に言質も取られた事じゃ。多少の事は目をつむる」
そこで大きく深呼吸した老人に反応し、俺は震度8になる
「じゃがな、種族を間違う。または種族を差別・軽視する発言は絶対にするな。死にたくなければな」
俺は立ち上がり犬耳美人に誠心誠意謝りたおした
土下座である
「しきたりも解らぬゲスが大変失礼いたしました!あなたを、あなたの種族を貶めるつもりはありませんでした。無知をお許しください」
そこまでしてようやく犬騎士が落ち着いてきた
さっきまでブルブル震えながらフゥフゥ言ってたんだ彼
「どうじゃなアルよ。これで手打ちじゃ。よいな?」
「はっ。閣下のご判断に従います」
犬騎士はアルね
アルか……覚えたぞ
「スゥも解ったな?」
「は、はい。かしこまりました閣下」
メイドさんはスゥか
スゥさんね。釣りは好きなのかなぁ
「やれやれ、最初に許すと言質を取られたからのぅ。だが、次は無いぞトシよ。命は大事にせねばのぅ……」
……え?本当に死ぬピンチだったのか?今の……
余程のタブーなのか種族の話って
「はい。閣下の格別のご配慮に感謝いたします」
老人にも頭を下げる
どれがキルスイッチなのか解らん……
この世界の常識を早く覚えないと命の投げ売りだなこれは
『死因 突っ込み』とか、目もあてられない
スゥさんは一礼して部屋から出ていった
涙目はおさまったみたいだ
「さて、勇者の話じゃったな。なに、簡単な話じゃよ」
紅茶を飲み、薄笑いに戻った老人が続ける
「何も魔王を倒せだの、戦争の矢面にたてだの言わぬ。旗頭になればよいのじゃ」
は、旗頭?
「そもそも魔王なぞ聞いた事も無い。いや、魔物も魔族もおる。しかしお主らの世界で言う魔王と言うものは存在しないし、今までの歴史上居た事も無い。魔族たちは国を造らんでバラバラに好き勝手に暮らしとる。国など王など面倒じゃそうな」
「な、なるほど。好き勝手……ですか」
「うむ。魔物を支配しけしかけるでもなく魔法の使い手として優れた種族、それがここの魔族じゃな。好き勝手と言っても無法者ではないぞ?冒険者をしたり学者になったり、料理屋をしたり宿屋をしたり。まあ、国に溶け込んで国民として自由に生きとる訳じゃ」
なるほどな、対立的な訳ではないと
でも自分の国を持ちたくは無いのかなぁ……
「じゃからこそ、種族の差別は許されないんじゃよ」
もう一度紅茶を飲むと老人は真顔になって言った
「種族を差別したとき、それをした種族はドラゴンと魔族が敵になる。差別をした種族が一握りだけ残されて消されるんじゃよ」
……ん?それって要は……
「断罪者……いや、審判者……ですか?」
「そうとも言えるのぅ……それは言っても大丈夫じゃ。この世界の流儀じゃからな」
なるほどね、昔は有ったんだろうな差別が
それをさせないシステムなのか……
「で、お主の……勇者の仕事じゃがな……」
そうだそれなんだ!ある程度完成してるだろうこの世界のシステム
ドラゴンと魔族が監視するシステムなんだ、勇者の仕事なんか有りそうに無いぞ?
「勇者が喚ばれたのは久しぶりなんじゃよ。記録には有ったがな、実に1000年ぶりの快挙じゃよ」
あ、凄く嫌な予感がしてきたわ
「なに、昔の勇者は差別思想を持つ者達を倒す為に喚ばれたらしいがの。そこまで大それた事をするつもりも無いし、ワシもこの種族差別の無い世界を気に入っておる。壊すつもりは無い」
良かった……1000年前に喚ばれなくて本当に良かった
名も知らぬ勇者さん、ありがとうございました
「ワシが……このグルン帝国の辺境伯ラザトニアが成したいのはな……」
へ、辺境伯?国境の重要な領地を持つ大貴族様じゃないですか、ラザトニアさん……
「王権の簒奪じゃよ」
今度こそ、俺は死ぬんだと強く確信した