48 駄犬アルバート
「犬獣人ですが草食系です」
「「「「ワハハハハハ!」」」」
「いやぁ笑えたわ」
「アルバートさん、馬鹿っすよね」
「ありゃ天然だわ」
「あの格好がカッコいいと思ったんだろうな」
「ただの狂人ですよあれじゃあ」
お茶をした帰り道、黒騎士達はすっかりアルバートをいじって遊んでいた
「貴様ら黙れ!黙って歩け馬鹿者!」
アルバートが叱りつける
「アルバート、貴様だ馬鹿は」
「アルバート、黙りなさい」
(あの雑種はペットですか?しつけが足りないですお父さん)
「は、はっ!申し訳ありません」
俺達が外出すると聞いた黒騎士達は、護衛が必要だと付いてきた
最初は真面目に警護していたが、俺に気付かれる
あの、黒服詐欺のときだな
警備兵が来る前に言っただろ?
彼らの仕事だって
あれは警備兵じゃなくて黒騎士達の事だったんだよ
だが、帝都だと危険は少なくてだれてくる
大人数は逆に必要無いと交代で休憩
喫茶店で若い女性が沢山居るからとナンパを開始
返り討ち多数の中、アルバートが俺に任せろと突撃
結果
「わたくし、家臣に口説かれるなんて初めてですわ」
「本当に申し訳ありませんでした!」
これである
アルバートを簀巻きにして引きずりながら馬車は進む
ゴリゴリ音がするが、即死しなければ治せるから問題は無いな
ようやく宮殿に着いた
動かなくなったアルバートを黒騎士達に任せて部屋に戻る
すっかり夜になってしまった
その日は師匠、義母上、ベアト、俺とトト
家族で夕食だ
なかなか義母上に会えなかったベアトだ
ゆっくり食事をさせてやりたいからな
「それで?二人はどこまで行ったの?」
ゴブッ
気管に入った……
ゴホゴホむせる俺の背中をベアトがさする
師匠、これは医療行為です
殺気を飛ばさないでください
「大丈夫ですか?ゼスト様」
心配そうに覗き込むベアト
あぁ、かわいいなぁ
「ありがとう、大丈夫だよベアト。君の匂いを嗅ぎながら背中をさすられたんだ、何でも完治するよ」
「もうっ、ゼスト様は!」
ポカポカしてくるベアト
だから師匠、これは……イチャイチャしてるだけだな
自重しよう
「失礼しました、ですがどこまでも何も。私達は清い関係ですよ」
実際にそうだ
実に清い交際である
ポカーンとした義母上が、苦笑しながら
「やだ、違うわよ。今日は何処にお出掛け……」
「嘘だ!!ゼスト、君は嘘をついている!」
……な、なんだなんだ
義母上は、どこまで出掛けたのか聞きたいって話だよな?
師匠は何を言ってるんだ?嘘だと?
「清い交際だと?嘘をつくんじゃない、私は知っているんだ」
鬼の形相である
義母上は無表情で師匠を見ている……怖い
俺とベアトは顔を見合わせた
お互いに『何の話?』そんな顔である
トトはクッキーを食べながら我関せずだ
だろうね君はそうだよね
「私は知っているんだ……ベアトと接吻していたのを見たからな!」
鼻息荒く、そう語る師匠
え?見てたのかあれを!
隣のベアトは真っ赤になってプルプルしている
確かに……したわ
まずいかな……
ゴチンッ
嫌に重い音が響く
義母上の鉄扇だ
「ソニア?あなたそれを何処で見たのかしら?」
「ぜ、ゼストの寝室です」
師匠、敬語になってますよ
義母上の威圧感半端じゃないな
「ソニア、若い婚約者が接吻したくらいでガタガタ言わないの。しかも部屋の中なら見なかった事になさいな、まったくあなただって婚約者のときに……」
「すまないラーミア私が悪かったからよそう、そうだたまには二人でゆっくりしたいね早く部屋に行こうかさあ早く」
凄まじい勢いで消える師匠夫婦
……婚約者時代になんかしたな
今度調べよう
まあ、助かったし義母上はキスくらい許すって話だから安心だな
ホッとしてベアトを見ると、まだうつむいて恥ずかしがっていた
「大丈夫かい?ベアト」
頭を撫でてやる
「はい、もう大丈夫です」
ニッコリ微笑み寄り添ってくる
ベアトの体温を感じる
優しく抱きしめると、彼女も抱き返してくれる
「ベアトは良い匂いがするね、花の香りがする」
「……ゼスト様は、紅茶の匂いがします」
やがてゆっくりと顔が近付いていく
そのまま二人の唇が、お互いに吸い寄せられるかのように
求め合うかのように……(私もチューしたいです!)
うん、君が居たかトト……
思わず笑い合う俺達
ほっぺたにキスすると、トトは足をパタパタさせながら喜んでいた
まったく仕方ない奴だ
今日は諦めよう
ベアトを部屋に送り届けて自分の部屋に戻る
さっさと風呂を済ませてベッドに入った
明日あたり、陛下から呼び出しが有るだろう
今後の事を決めないとな
そう心に決めて眠りについた
「良い朝だな……世界が滅べば良いのに……」
一人で呟く俺
おねしょ……してしまいました……