45 ベアトの笑顔
「……ベアト、笑った顔を初めて見たよ。いつもよりもっと可愛かったよ」
「…恥ずかしいですわ」
「ふふ、恥ずかしがるベアトもドキドキするね」
「もう!」
顔を真っ赤にしたベアトがポコポコ俺を叩く
…たまらんなぁ
何が理由か解らないが、ベアトの表情がだいぶ柔らかくなった
しかも笑ったのだ
恥ずかしいと顔を赤らめたのだ
今までしかめ面か、怒っているしかなかったあのベアトが
そりゃ、からかいながらイチャイチャしたくもなる
だが、あまりにもイチャイチャに夢中で気が付かない事を後悔したのはその直後だ
「あー、二人とも、そろそろ良いかな?」
砂糖を食ったような顔の師匠である
あ、やばい
「これは師匠、気が付きませんでした。申し訳ありませんでした」
「…お父様、見てましたの?」
ベアトはプルプル震えてうつむいている
ゴホンと咳払いをした師匠が口を開く
「…ベアト、知らない方が幸せという事だって有るんだ。ま、まあ部屋に来なさい」
目の泳いでいる師匠について応接室へ入る
既にラーミア義母上がドレス姿で待っていた
「ベアト、久しぶりね」
使用人は下がらせてあるから気楽な話し方だ
「はい、お母様。お久しぶりです」
俺の隣に座ったベアトは、恥ずかしいのかギュッと俺と腕を組んで顔を腕にくっ付ける
ポカーンとしているのは義母上
師匠はまたかという顔だ
「まあ、ベアト…随分甘えん坊になったのね?」
そう言われ益々くっ付くベアト
余計恥ずかしいような気もするが、ベアトがしたいなら仕方ないな
空いてる手で頭を撫でる
師匠から殺気が飛んで来る
……上等だ、やってやるよ
こちらも魔力を全開にする
「やめなさい馬鹿親子、ベアトが泣いてるわよ」
義母上に言われてハッとベアトを見ると涙を浮かべてプルプルしていた
「ベアト、ごめんよ?」
「ベアト、俺が悪かったよ」
「まったく馬鹿なんだから男って…」
仲良く土下座中である
ベアトはプクーっと頬をふくらませている
「妻が夫に甘えるのは当たり前よ、ソニアあなたが悪いのよ?わかる?」
「はい、すいませんラーミア」
ざまあと内心笑っていると、こちらにもとばっちりが来た
「ゼストもあんな馬鹿魔力を解放しないの!普通の人なら死ぬわよ?加減を考えなさい」
「申し訳ありません義母上」
師匠が義母上にバレないように俺にニヤニヤ笑いかけた
……野郎
罰としてしばらくそのままと言われて大人しく従う
女性には逆らったり、言い返してはならない
余計に悪化するからだ
「それでゼストは良い考えが出たのね?聞かせてちょうだい」
何故、解ったんだろうか?
「何故解ったのか?って顔ね。ふふ、そんなにベアトと楽しそうにしてるんですもの。そうなんでしょう?」
解りやすいわよ?って、笑われてしまった
さすがだな
「はい、解決法が出てきました。根本的に間違っていたんです」
俺は二人に説明した
精霊化は俺だけの功績では無かったと
俺達二人を精霊がご主人様と呼ぶ事を
説明を聞いた二人は心底ホッとしていた
「なるほど、それならば事情が変わりますね」
「ええ、問題無くなったわね。良かったわねベアト」
義母上に頭を撫でられ、恥ずかしそうな
しかし嬉しそうなベアトを見て和む
そろそろ足の感覚は無い
だが許しが無いので我慢だ
「じゃあわたしは陛下に報告してくるわね」
義母上は早足で出ていく
心配事は早く無くしたいからな
「じゃあ私も少しラーミアを手伝ってくるよ」
プルプルしながら師匠が後を追う
大丈夫かな、相当足痛いだろうに……
残されたのは俺とベアト、そして精霊だけだ
まあ、精霊はクッキーに夢中だが
「…ゼスト様、反省しましたか?」
すぐに答えてはいけない
反省してない!と、言われてしまうからだ
「…はい。反省しました。ごめんなさいベアト」
足の痛みで涙目になりながらベアトを見る
泣かせてしまったのか?と、目を見開いて驚くベアト
慌てて近付き、涙を拭いてくれた
「そんな…泣かなくても…ゼスト様、泣かないでください」
困惑顔のベアト
ふふ、かわいいなぁ
お詫びに何かしたいと言われて、膝枕をお願いした
意外にもあっさりと了解を貰ってしてもらう
しかも耳かきまでしてくれるそうだ
素晴らしい、女の子の膝枕で耳かきなど男子の夢である
柔らかいし良い匂いだ……
足の痛みなど全く気にならないな……
耳かきも気持ちいいし最高だ
そうして俺は眠りに……
「ゼスト様、アルバートです。この前の酒は女性達に好評でしたか?我々も真似してみようか…………失礼いたしました」
アルバート、貴様!この野郎!!
言い方を考えて……
痛い……刺さってますベアト、痛い……
野郎、逃げやがって…………痛いですベアト