41 ヤツが来た!?
お嬢様が来た
精霊の言葉は俺を一気に素面に戻す破壊力を持っていた
何処だ!?お嬢様は何処にいるんだ、女性に囲まれたところを見られたのか?
振り返ると精霊がふわふわ浮かんでいるだけだ、胃が痛くなるが必死に周囲の気配を探る
お嬢様はいったい何処に居るんだ!
(うわぁ、ご主人様凄い魔力です!)
目をキラキラさせながらパチパチ手を叩く精霊…人の気持ちも知らないでのんきな奴め
「精霊、何処に居るのか知っているのか?」
近付いて肩に乗せて、頭を撫でながら聞いてみる
撫でられるの好きだからな、素直に話させるには有効だ
案の定、猫のように目を細めてスリスリしてくる
(お嬢様はまだ途中の村じゃないですかね?急いではいるみたいですけど)
シレッと答える精霊
おい…お前『来た』って言ったじゃないか
「精霊よ、それなら向かってますが、正しい。来たって言うのはもう到着してここに居るって事なんだぞ?」
(!?そんなんですか、言葉は難しいですねご主人様)
……本当か?間違えただけなのか?
まったく、すっかり酔いが覚めたぞ
ガックリ肩を落として会場へ戻る
まさに徒歩でトホホと帰ったよ……
「ゼスト様、突然どうしました?何か有りましたか?」
心配そうな女騎士がたずねる
「いや、この子の気配を感じてな…迎えに行って来たんだ」
肩の精霊を見て、女騎士が目を見開く
「その方が精霊様……お、お初にお目にかかります」
頭を下げる女騎士の頭をヨシヨシと撫でる精霊
ビクンと驚き顔を上げる彼女の目の前には、満面の笑みを浮かべた精霊だ
見る見る彼女の顔が綻ぶ
「かっ……かわいい!」
かわいいと言われると喜ぶ精霊は、更に嬉しそうに笑いながらじゃれ始める
こうなると女性に抗う事は出来ない、精霊の魅力に陥落した瞬間である
もう俺には女性とキャッキャする気力が無くなったので、彼女に精霊を預けて野郎兵士達のところへと向かった
キャーーー
悲鳴が上がる
女性軍団のところへ精霊が到着したようだ
お菓子が山のように積み上げられて、交代で食べさせてやっている
イスはさっきの女騎士の手のひらだ、両手でプルプルしながら精霊を座らせている
重いからじゃないな、顔が真っ赤でとろけた笑い方だ……
ほっとくか
「よう、飲んでるか?」
野郎兵士達のところに到着したが、既にだいぶ出来上がっている
「ゼスト様!来るのがおせーですよ!」
「おい、筆頭様にそんな言い方……」
とがめる兵士に笑いながら答える
「無礼講だ、この程度でガタガタ言わんよ。黒騎士達とも訓練したあとこうやって飲んでるからな」
ガバガバつがれる酒を飲み干す
「ほら、返杯だ!まだいけるんだろ?」
ニヤリと笑うと周りの兵士達も笑い出す
「ハッハッハ、話せるじゃねーですか筆頭」
「普段ならともかく、戦友と飲むのに細かい事なんて言うか。辺境伯家を舐めるな馬鹿者が」
ポカーンとする兵士達
なんだお前ら、急に酔いが回ったか?
「何を着替えを覗かれた少女みたいな顔してる、飲みが足りないな?つまみも足りないな、待ってろ」
メイドを捕まえてつまみと酒を頼むとニッコリ笑って了承してくれる
ああ、昼間治療したメイドだった
やけに張り切って用意してくれたよ
兵士達はおかわり出来ないからな、これで良い
「ほら、追加が来たぞ?こんな美人が用意してくれたんだ、残すような腰抜けは居ないよな?」
「わははっ、最高です筆頭」
「良かった、足りなかったんだよな」
「おい、肉を食うな肉を」
「さっきよりうまいなこの酒…」
「筆頭、俺は高い酒飲みたい!」
「メイドが急に優しくなったぞ?」
「筆頭、抱いてください!」
……ん?
「野郎を抱く趣味なぞ無いわ!!おい、今言ってた奴出せ!女にしてやるから」
「斬らないで!斬らないで!」
「はっはっは、おい、抑えろ!」
「逃げるな、余計痛いぜ?」
「「「「ガハハハハハハ」」」」
こうしてどんちゃん騒ぎの宴会は過ぎて行った
若干1名が裸で転がされたが仕方ないだろう
ホモには興味が無いから、自衛の為に厳しくしなくてはな
ようやくお開きになったのは深夜だ
女性軍団に甘やかされてご機嫌の精霊を肩に乗せて部屋に帰る
風呂に入りゆっくりしていると、師匠がやって来た
珍しいな深夜に……ああ、お嬢様の件かな
バスローブでは失礼なので着替えてから会う
応接室に行くと師匠は紅茶を飲んでいた
世話をしているのは例のおばさ……オネイサンのメイドだ
「お待たせしました師匠、どうされましたか?」
「深夜に済まないねゼスト、昼間は訓練ご苦労だったね。ふふ、治療までしたんだって?メイド達が大騒ぎしてたよ」
ニコニコしている師匠
ん?メイドが居るのにパパモードだ……
「ありがとうございます、まあ治療はついででしたからたいした事はありませんよ」
俺も紅茶を飲む
何で家族以外が居るのにパパモードなんだ師匠は…会議がよほど疲れたのかな?
疑わしく師匠を見ていると、さらにニコニコ笑い出す
なんなんだよ…
「いやぁ、気が付いたかい?さすがに察しが良いね、本当に優秀な婿で嬉しいよ」
そう言って声を出しながら笑う師匠
嫌な……予感がします
ひとしきり笑うと真面目な顔になり、こう切り出した
「彼女を知っているよね?ちゃんと紹介しようと思って来たんだよ」
背中の汗が止まらない
どうか……違いますように……
「彼女は辺境伯の娘で私の妻、ラーミアだよ。ベアトの母親だから君の義母だね」
遠くなりそうになる意識を必死に繋ぎながら思う
俺、義母の髪の毛の感触で……しちゃったよ……
人として死ぬべきだろうか……