3 異世界の証明
異世界人?それに異世界?
今、このじいさん異世界人って言ってたよな……
いや、その前に
「はじめまして。私は加藤 敏明 と、申します」
ソファーから立ち上がり深く頭を下げる
あの身なり、恐らくは騎士達よりも上位の存在だろうな
挨拶され敬意を示して嫌な気分にはならないだろう
少なくとも敵意は無いんだ
従う意志を見せないとマズイだろう……本心は別にしてもな
「うむ。まあ、掛けるがよい。立ち話は老体には堪えるでな」
そう言って俺の向かいに座る老人
両脇には騎士達が控えていた
「では、失礼します。ですが閣下。私はこちらの流儀が解りません。ですので御無礼が有りましたら何卒寛大なる御処置をお願い致します」
「よい。異世界人にいきなり作法など求めぬよ。それにこちらの世界の流儀と言ってもなに、さほど変わらぬ」
「ありがとうございます」
ソファーに浅く座る
目の前の老人、爆弾発言連続だな……
異世界人に、こちらの世界と変わらない……
そして閣下を否定しない……か
異世界人が来たことが有る世界がここ
そしてその異世界の事をある程度知っている
閣下と呼ばれる貴族階級である老人が目の前の相手
だいぶ解ってきたな……異世界か……
しかし、簡単には信じられないな
「閣下、私から質問をすることをお許し願えますか?」
「その前に閣下のご質問に答えよ」
騎士がギロリと睨む
閣下のご質問?さっきのあれか?
老人は気にせず薄笑いを浮かべている
「騎士殿、閣下のご質問とは先程の異世界人の勇者候補か?と仰った件でしょうか?で、あれば先ずはここが異世界である事を確認せねば閣下に嘘を吐く事になります」
「よい。確かにある程度状況を理解せねば話も出来ぬ。カトウ……だったか?いや、あちらでは下が名か。トシアキか?」
騎士は何か言いたげだったが老人に手で止められた
「おっしゃるとおりです。トシアキが名です。言い難ければトシとお呼びください」
うむうむと頷くと老人が語り始める
「では、トシよ。ここが異世界である事を証明しよう」
そう言うと騎士が剣を抜く
テレビやゲームで見た剣の色ではない
ヌラリと濡れたようなまさに白銀色
思わず綺麗だと思えるそれで、騎士は自分の指を切り落とした
「っ!?」
思わず顔をしかめる
痛いだろうなぁ
騎士の指があった場所から血がドクドクと溢れている
指切りはもう出来そうもない
痛みのためか真っ赤な顔の騎士が傷を俺に見せる
「確かに欠損したな?」
その問いかけに頷くしかできない
騎士は腰のポーチから瓶を取り出して飲む
すると、まさに失われた指が見る見る再生を始めた
「なっ!?ゆ、指が生えてきた!?」
思わず声が出るが仕方ないだろう……
指が生えてきたんだぞ?軽いホラーだ……
「どうかね?こんな薬が君の世界に有るかね?」
相変わらず薄笑いの老人が聞いてくる
「い、いえ閣下。有り得ません。このような薬など初めて見ました」
「そうかね。では、このような人間は居るかね?」
そうすると反対側の騎士が兜、いやフルフェイスを脱ぐ
出てきたのは犬のような耳の生えた男性
ご丁寧に尻尾もフラフラ揺れており、耳も忙しくピクピク動かしながら……
「これは……確かに……獣人?と呼ばれる種族の方でしょうか?」
その問いかけにゆっくり頷く老人はこう続けた
「うむ。これで異世界と理解したかね?ああ、後程魔法も見せよう」
魔法!?いよいよファンタジーのテンプレだなぁ……
まあ、勇者候補が居るくらいだからな、魔法くらい無いと魔王には勝てないだろう
「は、はい。閣下、お気遣いありがとうございます。異世界であると納得いたしました。ですが、勇者候補とおっしゃいますと、私は何をもって勇者候補なのでしょうか?」
「ふむ、そこじゃよ。重要なのはな」
コンコン
ドアがノックされる
犬騎士がドアを開けるとメイド服の犬耳美人が入ってくる
犬耳美人である
実に素晴らしいな
スラッとしているが出る所は出ているモデル体型の犬耳美人だ
一礼してお茶を用意してくれる
あ、俺の分も有るんだな……この匂いは紅茶かな?
有難い、喉はカラカラだ
やがて配膳が終わるとドアの前で振り返り一礼し、こう挨拶した
「では、失礼いたしますニャ」
「猫かよ!!」
突然の大声に涙目の犬耳美人と歯ぎしりしながら睨む犬騎士
無表情で剣に手を掛ける指切り騎士
そして……
向かいに座る老人は、笑っていなかった……
俺は死ぬかもな……意外と早く……