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異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第一章 帝国黎明期
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35 閑話 名も知らぬ兵士達

「おい、聞いたかよ?騎士団長の養子の話」

「ああ聞いた、なんでも新兵達を一人で片付けたんだって?」


「らしいぜ?今度は俺達、正規兵と訓練だとよ」



辺境伯軍の食堂でそんな会話がされていた

彼等だけではなく、兵士達はみなその話題に夢中だった


彼等の訓練は普通とは違う


訓練とは言え、貴族に怪我をさせたらどうなるか

答えは簡単だ

良くて投獄、悪ければ死刑


平民の命が軽いこの世界では、ごくごく一般的な事である


では、彼等はそれを危惧して噂話をしているのか?

答えは辺境伯軍の特殊な伝統を知れば解るだろう



「お、そろそろ行こうぜ」

「そうだな、遅れたらエライ目にあうからな」


そうして彼等正規兵、別名『黒騎士』達は訓練へ向かう




辺境伯軍5000の内、黒騎士と呼ばれるのは500人だ

意外と多いと思うだろうか?

少ないと感じるだろうか?


毎年、軍に志願する平民を500人まで訓練をして減らす

その500人を半年かけてイジメ抜く

訓練をしながら食事をさせて、夜寝ていると夜襲訓練だと叩き起こされ

倒れる者が出たら救護訓練だと皆で運ばせ、また訓練に戻る


だが辞めると言えば簡単に帰れる

去る者は追わないのだ



一週間で半分になり、一月たてば100人以下になり

半年持つ者は10人居たら多いと言われる有り様だ


そんな過酷な訓練を耐えて初めて辺境伯軍の仲間入りである


5000人の過酷な訓練を耐えて来た者達

その中の一握りが選ばれた黒騎士なのだ


そんな黒騎士の訓練は簡単なルールが一つだけだ

『訓練中は身分の区別無し』

これだけだ


だから貴族が黒騎士に志願するのはほとんど居ない

確かに過酷な訓練は免除され、黒騎士になることは出来る


だが、訓練で徹底的に打ちのめされるのだ

報復も許されない

万が一、報復が発覚したらその家は断絶となる

騎士団長と他の黒騎士達全員が処刑人としてやって来るのだ



確かに辺境伯領でも貴族は優遇されているが、黒騎士となると無理なのだ


それだけに、黒い軍装は憧れでありエリート達の誇りとなる

平民であろうが貴族並みの特権まで得られる

辺境伯領の男が一度は目指す成り上がりの夢が黒騎士であるからだ




そんな黒騎士達が待ちわびる噂の騎士団長の養子が参加する訓練


皆が思う事は一つだ



『強者なら歓迎する。弱者なら徹底的に打ちのめして追い出す』



そしてその男がやって来た……









「なんだ、その刃引きの剣は?真剣で良い、ああ得意な得物ならなんでも良いぞ?槍だろうが斧だろうが好きに使え。死ななければ治してやるから、かかって来い」



そう笑いながら構える優男


怒りに任せて斬りかかる黒騎士の腕を逆に斬り飛ばす

周りの者達も慌てた……腕が無くなったのだ


怖い

斬られるのが?いや、違う

兵士として戦えなくなるのが怖かった


「腕を斬られたらおしまいか?反対の腕は飾りか馬鹿者が、足もまだ付いてるだろうが。走り寄って組み付けば味方が仕留める隙が出来るだろう、やり直しだ」



そう言って優男が片手をかざすと、腕は元通りになっていた


「魔力の限度は有るが死ななければ治してやると言っただろう、かかって来い」


そう言って笑う男


優男?とんでもない、こいつは化け物だ



俺達の上に居て欲しい化け物だ



「はははっ、最高の訓練だな!おい、囲め!笑われっぱなしで黒騎士が名乗れるかっ!」


黒騎士達が好戦的に笑う

彼等もどこか壊れているから化け物のような男を認める


戦いに全てを注ぎ込んだような黒騎士達の不気味な笑顔


それを見た化け物も、同じように笑っていた……









「「「「「かんぱーい!!!」」」」」







戦闘狂の男達は、酒場で打ち上げをしていた



「いやぁ、ゼスト様強いですね!俺3回も腕がなくなりましたよ!」


「はははっ、お前は突っ込み過ぎだよ。もう少し慎重にやれよ?」


「ゼスト様、やりなれてますよね?」


「ああ、騎士団長と魔法兵団長に教わったからな!」


「「「「……それはそれは……」」」」


「……あの二人に比べたらお前らはかわいいもんだよ」


「でしょうね……」「あの二人はなぁ……」「俺、あの二人は勘弁して欲しいわ……」「地獄だなそりゃ……」


そんな言葉を彼は笑い飛ばす


「まあ、慣れれば大丈夫だ!お前ら無礼講だからな、しこたま食って飲めよ?」


「「「「「ごちそうさまです!!」」」」」







そんな訓練と飲み会を繰り返して彼等の上司として化け物は認められて行ったのだが、決定的な理由は他に有ったのだ……












「ゼスト様、わたくし喉は渇いておりませんわ。なぜお分かりにならないのかしら?やはりわたくし、一人で参りますわ」


「ははは、ベアトはかわいいなぁ。ほら、あそこにクッキーが売ってるよ?食べようか」




「スゲェ、あんな嫌そうなお嬢様を連れ回してる……」

「おいおい、どの辺がかわいいんだよあの顔の」

「だよな、明らかに怒ってるよな?お嬢様……」



「うわぁ、お嬢様を撫でたぜ!?」

「ひいっ!お嬢様怖いっ!!」

「こ、殺されるんじゃ?」






「やっぱりあの人スゲェわ」

「だな、半端な根性じゃお嬢様には触れないわ」

「しかもメイドの噂じゃ毎日会ってるみたいだぞ?」

「「毎日あれかよ!!!」」



黒騎士達が彼を認めた本当の理由

お嬢様とのデートを盗み見た結果だった事はまだ知られていない……






数年後、黒騎士達はこの事を打ち明けるのだが


「え?ベアトは素直でかわいいよ?デートとかご褒美だよ。毎日行ける行ける」


飲みながら軽く言った彼に、余計恐れて忠誠を誓ったという

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