34 陛下との密会
「でかしたぞゼストよ、その功績に余も応えよう」
半分以上の人が居なくなった謁見の間
ようやく落ち着いてきたそのときに陛下がそう言った
300年ぶりの偉業
精霊化を成し遂げたとして、この後は大宴会の予定だがその前に一区切りつける為にも恩賞は必要なのだろう
「ありがたき幸せ、陛下の思し召しに感謝いたします」
満足そうに頷く陛下
「楽しみにしておれ、後日城のテラスで民に顔を見せながら発表しよう、大儀であった」
ああ、とりあえず考えるから待ってろよ?って事か……確かに功績が大きいから協議が必要だろうな
「御意」
陛下が退場すると、宰相が近付いてくる
「お二方、内々に陛下がお会いなさる。こちらへ」
謁見の間では言えない事も有るからな、別室で密談か
「解りました、行くぞゼスト」
「はい義父上」
はい、かイエスしか選択肢は無い
肩に交換日記を座らせて宰相に付いていく
城の通路は戦場であった
宰相に連れられた俺達は優先的に歩いているが、メイドや兵士達は忙しく行き来して上品なお城の中とは思えない喧騒が響いていた
「会場に手が足りないぞ、そこの5人付いてこい、早くっ」「休日のメイド達呼び出しました!」「街の酒を買い占めて来い、行けっ」
うん、修羅場だ……俺のせいで本当に申し訳ない
交換日記に髪を引っ張られていると、目的の部屋に着いたようだ
宰相がドアを開けて中に入る
会議室のようだ
大きな机とイスだけが有る部屋で宰相に促された席に座る
部屋に控えていたおばさ……オネイサンのメイドがお茶を用意する
軽く睨まれたのは心が読まれたのか?恐ろしいな…
用意が終わるのを待って宰相が口を開く
「さて、ソニア卿久しいな、ゼスト卿は名前も知らぬだろうから改めて……私は宰相を務めるアークだ。宰相かアーク宰相と呼ばれている」
「畏れ入ります、ゼストでございます。お見知りおきを」
席から立ち上がり一礼する
「まあかけなさい、それでだな…」
バーン
豪快にドアが開かれ、陛下が入ってくる
「待たせた、揃っておるな?」
再度立ち上がり一礼する俺達
「よい、楽にしろ。その為の密会だ座れ」
ずかずかと上座に向かい、イスに座り手を振る
俺達が座ると紅茶を飲んでからこちらを見て
「おお、精霊殿は何か飲むのか?ゼスト、何が良い」
(ご主人様、アレ飲みたいです)
「はっ、先ほどから果実水が気になるようです」
赤面しながら答える
精霊殿…か、陛下でさえ殿をつける存在なのか
メイドが用意した小さなカップでごくごく飲んでいる交換日記
交換日記がジュースを飲む
我ながら頭がオカシイ人の発言にゲンナリするわ
「ふむ、改めて見ても間違いなく精霊だな。まったくとんでもない土産だなソニアよ」
苦笑しながら交換日記を見詰める陛下
「はい、皇帝陛下。ですが産まれたのが昨夜でしたから意図した訳では…」
「解ってる、狙って出来る事じゃない。逆にちょうど良い展開だ、褒美とお披露目合わせて済むからな」
宰相が陛下に目で合図して説明する
「元々は決闘の件を許し、ゼスト卿を宮廷魔導士3席にしてお披露目を行い結婚の祝いにしようとしていたのですよ」
そうだったのか、確かに辺境伯家は帝国を守る壁として必要不可欠
余計な争いを持ち込みかけた豚貴族なんかより、認められている俺との繋がりを深めようって魂胆か
「解っております。私はガイウス家の息子で辺境伯家の婿、そして帝国の盾ですから」
【どうせ身元は調査したんでしょ?でも今は貴族の一員として帝国に逆らうつもりは無いよ】
意訳するとこうだ
ニヤリとした陛下と宰相が頷き合う
「さすが辺境伯が認めた婿だな」
「これならば大丈夫でしょう、貴族の機微も承知しているようですし」
嫌な予感しかしないが、あえて聞かない
世の中知らない方が幸せな事もある
交換日記の頭を撫でながら知らん顔しておこう
ふふ、こいつかわいいなぁ……お嬢様そっくりだけど素直だし
心置き無く交換日記を愛でる
只の現実逃避だけどな
その様子を見ていた師匠も満面の笑みだ、幼い頃のお嬢様でも思い出したのかな?
「ふふ、ゼストもなかなかですね。そこで精霊を持ち出しますか」
……へ?
「手札の切り方が大胆だな、若さも有ろうがそれ以上に肝が太い。陛下、これならば大丈夫かと」
……なに?
「ああ、安心させておいて精霊をだしに軽く脅すのか。なかなかの策士だな」
……みなさん、何を怖い笑顔で話しているんですか?
「腹は決まった!ゼスト、お前は宮廷魔導士の筆頭にする」
おっしゃる意味が解りません
言えたら良かったその一言を飲み込み、俺は交換日記の頭を撫で続けていた