30 現れた盗賊
「へっへっへ、どうしたよ騎士様よぉ……驚いて声も出ねぇのか?あぁ?」
正解だ、確かに驚いて声も出ない
現れたのは30人近い盗賊団だ
普通に考えたら脅威だろうな、約3倍の兵力差だ
「女も居るじゃねぇか!ついてるな、おい!女と鎧を置いてとっとと失せなお坊ちゃん達」
ゲヘヘヘと薄ら笑いを浮かべる盗賊共
なんだこいつら……兵士達を相手に何で余裕なんだ?裏があるのか?
「貴様ら正気か?軍を敵に回すとは、何を企んでいる!」
アルバートが叫ぶ
槍を油断なく構えて黒騎士達も臨戦態勢だ
盗賊ごときに弱気になる奴等じゃない
普段は相手に師匠や養父…騎士団長が出てきて可愛がりをされても、喜びながら戦う戦闘狂……じゃなくて精鋭達だからな、うん
だが、盗賊達には違うように見えたらしい
「はんっ!戦争が無くなってから軍なんざひ弱な貴族の坊っちゃんばかりじゃねぇか。おら、カッコつけてねぇでケガしないうちに消えな」
そう言いながら近寄る盗賊をアルバートが突き殺す
喉を一突きされ血の泡を吹きながら倒れ込む
「なんだこれは」
そう呟いたのはアルバートだ
盗賊達は一瞬で死体になった仲間を見るだけで、何の反応も出来ない
「この程度で我々に挑んで来たのか」
呟きながら更に近くに居た2人を突き殺す
こうなってから盗賊達は気が付いた
いつもの兵士達とは違うと……とんでもない相手に手を出したのでは?と
ようやく武器を構え、腰を落として戦闘態勢になり怒声を上げながら威嚇しようとしてくるがもう遅い
「ふざけるな貴様ら!この程度の腕で辺境伯軍に挑戦するとは侮辱だ!お前達、こいつらを生かして返すな!」
アルバートの怒気に黒騎士達も一斉に動き出す
武器を振り回す者も、逃げようとする者も変わらない
一方的な虐殺である
アルバートを含む黒騎士達の理屈は解りやすい
帝国の精鋭を自負する彼等は誇りを大事にする
『帝国の盾である辺境伯軍の戦士は負ける事は許されない。敵軍が最初に戦う相手であり、最後の相手でもある。辺境伯軍の敗北は帝国の敗北である』
軍に入ると、一番最初にこれを叩き込まれて徹底的に鍛え上げられる
貴族でもそれは変わらない
血筋や家柄で序列がある貴族だが、辺境伯軍には適用されない
貴族だが軍人ではない者、平民だが軍人の者
それが多数存在するのが辺境伯領なのだ
こいつらが言うお坊ちゃんでは半日持たずに逃げ出すか死ぬのが俺達辺境伯軍の訓練だ
まったく帝都の側はこんなにぬるま湯になっているのか……
師匠と馬車の中でのんびりそんな事を考えていると盗賊の生き残りが馬車を狙いに来たようだ
人質か……悪くはないな、考え方は
俺が馬車から出ると、先程までの情けない顔ではなく嬉しそうに…獲物を見付けたかのように近寄ってくる
庇うようにこちらに向かう黒騎士を手を振って止める
「アイツが頭だ!人質にしろ、早く!」
もう僅かになった生き残りの盗賊の中の誰かが叫んでいた
2人か……少ないな
斧を右肩に担ぎながら無用心に近寄る盗賊を、剣を抜きながら下から斬り上げる
唖然とした顔で首だけで地面に転がる
もう一人は足を狙って斬りつけてきたな
上から斜めに叩き付けるような剣の軌道を踏み込みながらその腕を斬り飛ばす
反射的に反対の手で斬られた腕を押さえたそいつのがら空きになっている首をはねる
手加減しながら俺を狙うとはな、殺られる前に殺るのに躊躇しないぞ俺は
それになぁ……
「黒騎士達を束ねる私が弱い訳がないだろうが」
呆れて呟いてしまう
「ゼスト卿、こちらも終わりました。お手数をおかけしました、申し訳ございません」
アルバートが頭を下げている
「構わない。メイドや冒険者達は怪我等ないな?」
黒騎士達がコイツら程度で怪我する訳がないので聞かない
「はっ!被害全く有りません」
うん、ならよかった
冒険者達が顔色悪いな……人が死ぬのに慣れていないのだろう
「では出発するか。死体は森にでも放り投げておけ」
黒騎士達が手早く準備をする
冒険者達も手伝ってくれているようだ、ありがたいな
しかし余計な手間だったなぁ……早く村で一休みしよう
そしてその日の夕方に村に到着した
予定よりもだいぶ遅くなってしまったな、疲れた疲れた
飲んで忘れよう……
この村でもまた宴会が始まる
これも仕事だ、辺境伯家の威光の為にも必要な事なんだ
いやはや、貴族は本当に大変なんだ
決して飲みたいだけではない
「「「「「カンパーイ!」」」」」
「お前達、今日は酒も食べ物も使いきれ、許す!」
「やった!」「ゼスト様帰りは帝都の酒買いましょう」「あ、自分は甘いものが欲しいであります」
「ああ、せっかくの旅だからな任せておけ。それより飲め!」
「ゼスト様、このお酒はうまいですなぁ!」
「おお、村長!気に入ったか!まだまだ有るぞ」
「ゼスト卿!私は肉が好きなのであります!」
「アルバートやかましい!それはもう何回も聞いたわ!」
「ゼストゼスト、ベアトはねぇ……右のお尻にホクロが有ってねぇ……」
「ばっ、馬鹿者!誰だ師匠に飲ませた奴は!!」
仕事だから……これは貴族の仕事だから……
若干ハプニングも有ったが問題ない
後は帝都で謁見してお土産買って早く帰ろう
そう思いながらも楽しい宴会が終わり、俺はベッドに入る
ふと考えなおす
助けた冒険者に女性が2人居たよな……!?こ、これはもしかしたら!
夜にムフフな展開か?いや、参ったなぁ
これ浮気になるよなぁ……ピンクダイヤ砕けるかな、いや愛が無い身体だけなら大丈夫か?
いやいや、万が一も有るしなぁ……でも一回だけならセーフか?
いやいや……
結局、朝まで悩んだが何も有りませんでした……
何となく死にたくなりました……




