29 冒険者達の言い分
「この無礼者!辺境伯家の馬車を止めるとは何事だ!」
アルバートの怒声が響き、その光景に師匠は頭を抱える
「出て来てしまいましたか……まったく、大人しく牢屋で寝泊まりすれば出てこられるのに。これでは辺境伯家の馬車を止めて直訴した不敬罪じゃないですか」
もう馬車は止まってしまった
やっぱりキャンセルします、とはいかない
「辺境伯家を頼って助けを求めて来てますからね、無下にするのは体裁が悪いかも知れませんね。そうなると先に兵士に事実を聞いたのが不味いですねぇ、彼等を信用しなかったと帝都の軍に文句を言われそうだし困りましたねぇ」
チラチラ見ないでください師匠、何とかしろって意味ですか?
「……落としどころは両成敗ですか?」
「いやぁ、話が速くて助かりますよ。優秀な婿殿」
ニコニコしながら丸投げである
師匠、最近は遠慮ありませんよね?
でも婿殿とわざわざ言ったな、それにも意味がある
ああ、アルバートに捕まったな彼女……馬車から降りて声をかける
「アルバート。良い、放してやれ。バーナム辺境伯家のゼストだ、何が言いたいのだ申してみよ」
アルバートは一礼して彼女を放し、俺の側に控える
警らの兵士達は手を出せない……辺境伯家が話が有ると言うのだ逆らえない
「お、畏れながら申し上げます」
両手を縛られて震えている女性は若い声だった
10代か20代だろうか?髪は赤くポニーテールにしている
顔は伏せていて見えないが皮の鎧を着込んだスラリとした体型だ
「私達は冒険者なのですが、このままでは奴隷にされてしまいます!お助けください!」
……は?奴隷にされるだと?
チラリと兵士達を見ると顔を伏せた
おいおい、まさか
「奴隷にとは聞き捨てならんな。アルバート、先程のケネス班長とやらを連れてこい」
「はっ!ただちに」
言うや否やあっという間に捕まえてくる
他の兵士達は黒騎士に囲まれていた
目の前に引きずられて来たケネスは顔色が悪い
「役者が揃ったな、それで奴隷にとはどういう意味かね?続けて説明せよ」
「はいっ、私達は森で採取していたのですが兵士達に呼び止められ私ともう一人の女の子についてこいと……」
と、彼女は仲間達の方をチラリと見る
確かに他には4人、その中に女性らしい髪の長い者が居るようだ
呆れた……怒りを通り越すと呆れるんだな、初めての経験だ
「おいケネス。まさかと思うが、女性を無理矢理連れ去ろうとしたのか?それをやれ盗賊だのと嘘をついたと?」
ケネス班長は真っ青な顔でうつ向いて返事もしないとアルバートが黙って槍で殴りつける
「ゼスト卿がお尋ねだ、何を無視している?次は足が無くなるぞ」
剣を抜くなアルバート
あ、黒騎士達まで抜きやがった……何で辺境伯軍はこんなに手が速いんだよ
「ひっ!さ、逆らいません!」「班長が言い出したんです!」「黒騎士様には逆らいません!降参しますっ!」
……うん、正しいよ
あいつらすぐ斬るからな
内心のビビりを気付かれないように声を大きめに出す
「ケネスよ、辺境伯家に嘘をついたのかと聞いている」
「はいっっ、い、命だけはお……」
言い終わる前に首をはねる
後ろで師匠が見てるんだから甘い対応などしたら俺がそのうち捨てられるだろう
「お前達も聞いていたな?こやつはバーナム辺境伯家を謀ろうとした罪で手打ちにした。兵士達、お前達は帝都で裁きを受けよ。異議が有れば聞いてやる。前に出ろ」
首をブンブン横に振りながら直立不動の兵士達
馬鹿共が……余計な仕事増やしやがって
10人程の兵士達は縛られて黒騎士に縄を引かれている
まあ逃げるのは無理だろう、一般兵と黒騎士では勝負にならない力量差がある
一方、縄を解かれた冒険者達は俺の前に平伏していた
「ありがとうございましたゼスト様、おかげで助かったよ…ですはい」
なんだその『ですはい』ってのは……アルバート、睨まないの
「そう緊張しなくても良い、お前達が被害者なのは解ったがとりあえず一緒に帝都までは行って貰う。顛末を報告しなければならないからな」
そう言うと女性二人はビクンと身体を揺らす
「心配せずとも伽など命じぬ、バーナム辺境伯軍にそのようなゲスは居ない」
助けてやったお礼にゲヘヘってしないよ?俺達紳士だからね
素直に言えば黒騎士達はモテモテエリートで女に苦労してないから全く心配していない
わざわざ言う必要は無いだろうが
実は騎士団長がその辺厳しいからビビってるとも言える
馬に乗れない冒険者は居なかった
さすが異世界だ、馬が交通手段のメインなだけの事はある
縛った兵士達を馬で引きずりながら次の村へと向かう
そこで一泊したらすぐに帝都だ
ようやく着くなぁ……まったく最後の方で無駄な仕事が増えるし災難だった……
「へっへっへ、騎士様方よぅ。高いんだってなぁ、大人しくその鎧置いていきな!」
盗賊があらわれた
……警ら隊、仕事してないのかよ
あ、捕まえてるから仕事出来ないか、ははっ……
そっと見上げた空はキラキラ光っていたが、俺の涙じゃ無い筈だ