27 浮気疑惑の言い訳
ラザトニア辺境伯の執務室で俺達は仲良く正座していた
「ほう。そうすると婿殿は目にゴミが入りそれをアルバートが取って居たとな?」
「ははは、確かにそうだよね。ゼストはベアトに惚れてるみたいだし、そんな噂聞いた事無いし……アルバートにもそんな噂無いものね」
「…………」
『そ、そうなのかしら。わたしの勘違いなのかしら?』
俺とアルバートは仲良く正座しながら3人に必死に説明していた
この世界では男同士のチョメチョメはそんなに珍しくないらしいので、余計に反応が大きかったようだ
もう少しだな
「ベアト。私にはあなただけなんです、アルバートは共に武を競い会う友でありそんな関係ではありません。私が愛しているのはベアトだけです」
「そうです!ゼスト様は飲みに行ってもお嬢様の話ばかりで、若い連中とそういったお店に行っても『皆で楽しんで来い』と支払いはしてくれるのですが、ご自分は待合室でお茶だけ飲んで帰る真面目さなんです!」
アルバート、馬鹿野郎……それは言わなくて良いだろ!
「……わ、若いからのぅ」「アルバート、それは内緒にする内容ですよ?」「?どういったお店ですの?」
お嬢様、知らなくて良いです
しかし男色疑惑は不味い……平民なら珍しくないのだが、貴族は男色はご法度なんだ
何より家と血の繋がりを重視するから子供が出来ないそれは異端視されるからだ
「ふむ、今回はベアトの勘違いじゃな」
そう辺境伯が結論を出す
ここまで来るのに二時間こうしていたのはなかなか拷問だった
親と祖父の居る前でひたすら娘をどれだけ愛しているか語るのだから拷問である以外に言葉が見つからない
良いから、アルバート貴様は黙れ!
あのノーパン酒場の話はするんじゃない、師匠も睨んでるだろうが
…………師匠も常連だからな、内緒にしたいんだよ
アルバートが余計な事を言いそうになると俺が死角から殴ったり、師匠の高速デコピンが飛んだりしたが何とか乗り切ったのだ
「そうだベアト、ゼストから色着きダイヤモンドを貰ってるじゃないか。それが証拠だよ安心しなさい」
「そうでしたわね。確かにいただきましたわ」
『そうだったわ!ピンクのダイヤモンドですもの、ゼスト様は本当にわたしを…恥ずかしい!』
ピンクダイヤ?
ああ、交換日記と呼ばれる闇の魔導書事件のときに渡したわ
「なんじゃ、それを早く言わんか。それなら最初から疑いもしなかったわい。そうかピンクダイヤをのぅ…ベアトよ、ワシがそれを加工させるよう手配するから希望をまとめておくのじゃぞ?」
なんだよ、ピンクダイヤが出てきたらガラッと雰囲気が変わったじゃないか
「そうですね、それが良い!婚約者になった今これ以上無いアクセサリーが出来ますからね。良かったねベアト」
「お祖父様、お願いいたします」
『ピンクダイヤのアクセサリー……政略結婚がほとんどの貴族には持てない憧れの……』
「うむうむ。しかしピンクダイヤとはな、あれは平民の相思相愛の新婚夫婦しか持てないと聞いたがのぅ。なんじゃ婿殿、そんな顔をしてまさか知らんかったのか?」
一斉に視線が集まる
アルバート、お前まで『知らずにピンクダイヤとは…』じゃないだろ教えろよな
訓練のとき覚えてろよ
「ゼスト、ピンクダイヤはある条件が有ってね」
師匠が説明してくれるみたいだ
助かります、またノーパン酒場行きましょうね
「相手を想って魔力を注ぐとピンクに色付いていくんだよ。それを受け取った相手は同じように魔力を注ぐ。そうするとその色が固着されて変わらなくなる」
ほほう、そんな性質が有るのか……説明早くして欲しかったです師匠
「そうするとね、お互いの魔力を覚えたダイヤモンドはある種の魔道具になって他の人にその時と同じ想いを抱くと粉々に砕けるんだ。つまり『浮気はしない、伴侶は一人だけ』って意思表示に使われるんだよ」
「なるほど、だから平民の新婚だけと言う訳ですか……それを他人に譲ったりは?」
「当然出来ないよ。そうするとやはり砕けるんだ。だから加工する職人も手段も限られるね」
そりゃ貴族には持てない宝石だわ、まさに最強の身の潔白証明道具だ
砕けてないよな?
チラリとお嬢様を見るとゴソゴソ背中を向けて何かして、振り向くと手にはビー玉くらいのピンクダイヤが握られていた
お嬢様、何処にしまって居たんですか……
「ほほう、素晴らしい色合いじゃのぅ」「これがピンクダイヤですか初めて見ましたね」「ゼスト様尻尾が踏まれて…ゼスト様?」
アルバート黙れ、それはわざとだ
その後は上機嫌のお嬢様が職人との打ち合わせの予定を決めて解散となった
ピンクダイヤ様々である……婚約早々に浮気疑惑で死にかけたわ
しかも男相手に
あまりに遅くなったので、城内に用意してもらった部屋で休む事にする
まったくアルバートめ、明日からの訓練でしっかり調教しないとな
そう決めた俺は眠りについた
そして明くる日からはまた訓練の毎日が復活する
そこにお嬢様とのお茶会が追加されたり、貴族達への挨拶回りが追加されたりしたが以前の日常に戻って行った
アルバートは入念に調教した
八つ当たりとも言うかも知れないが、奴が悪いのだ
師匠もノーパン酒場の件でキレていたらしく入念な可愛がりが行われていた
そう、その間に明るいニュースも有ったのだ
新しい家族が出来るのだ!まだ妹か弟か解らないが養父も養母も大喜びだ
それはそうだろう、不妊で諦めていた二人にようやく出来た子供だからだ
しかし実子が産まれたらガイウス子爵家はそっちが継ぐのかな?俺は要らなくなるのかも知れない
そんな事を言ったら養父にぶん殴られた
『たとえ養子でもお前が跡取りだ。二度とふざけた事を言うな』
だ、そうだ
養母には優しく抱き締められた
『あなたも家族なんですよ?悲しい事言わないで』
本当に優し過ぎる両親だ
養父上、睨まないでください
これは家族の愛情表現でしょうが……子供かよ
そんな辺境伯領の概ね平和な毎日は、突然の来訪者によって終わりを告げた
「勅命である。ゼスト-ガイウスは帝都に出頭せよ。畏れ多くも皇帝陛下への拝謁を許すとのお言葉だ」
こうして帝都へのドナドナが決まりました
行きたくありませんとは……言えないよな……




