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異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第一章 帝国黎明期
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26 祝いの宴

「確かに私がゼストですが、あなたは?」


ビックリした……いきなりは勘弁してくれ、我慢出来ない時だって有るんだ


震えそうになる手を誤魔化しながら紅茶を飲んで現実逃避する


「失礼した、私は帝都の主席内政官のビックスだ。子爵を賜っている」


40代だろうか?だいぶ疲れた感じがする初老の男性だ……誰だこれ?

内政官……子爵……?ああ、豚貴族の親か!


「と、なるとアルフ卿のお父上ですか?」


「いかにも。ゼスト卿、この度はまことにご迷惑をおかけした。申し訳ない」


えっ?いきなり謝るの?


「まさかあの馬鹿息子がよりにもよって辺境伯家のご令嬢に失礼な事をするとは夢にも思わず……」


貴族が頭を下げるなんてなかなか無いぞ

どうしたんだ、部屋に入って来たときは怒ってるかと思ったのに


「息子が辺境伯領に居ると聞き、何とか止めようと急いだのですが……」


そりゃ間に合わないだろう

帝都まで馬車で一週間は軽くかかるし乗馬で急いで5日くらいか?早馬なら2日くらいか?

それも計算して今日豚貴族を嵌めたんだ、間に合う筈は無い


「そうすると事の顛末はもう?」


大分落ち着いたのか表情は冷静だ

さすが貴族と言うべきか


「はい、先程ソニア魔法兵団長にお聞きしました。ですので婚約者のゼスト卿に急いでお詫びをと……」


なるほどな、辺境伯は帝都のやつらになめられたと言ったが違うのかな

あの豚貴族だけがぶっ飛んでたのか


「な、何卒、一族はお助けいただきたく!!」


訂正、どんだけ怖がられてるんだよ辺境伯……

でも、あまり軽くは答えられないな


「申し訳ないが決闘でわたしの決着はついています。後の事は義祖父ラザトニア辺境伯にお任せしていますから、そちらにお尋ねください」


顔を上げ、何やら言おうとした子爵殿だが言葉が出ることはなかった


「失礼いたしますゼスト様。ビックス子爵、辺境伯がお呼びです。こちらへ」


お、アルバートじゃないか犬騎士の

彼は俺に目礼すると部下達に子爵の両脇を抱えさせて出ていくが『ぜ、ゼスト卿!口添えを!』とか聞こえた気がしたかな……



…………何も聞かなかった事にしよう!辺境伯家、怖いわ






天井には豪華なシャンデリア

その光に照らされるホールには着飾った貴族達が集まっている

壁には大きな絵画が飾られ、それに沿って配置されたテーブルには豪華な食事が並ぶ


その場に居るメイド達も一流だ

帝国の盾、辺境伯主催のパーティーに相応しく選りすぐりの彼女達が控える


警備も手は抜かれない

グルン帝国の切り札、黒の軍装を許される精鋭中の精鋭

帝都の皇帝陛下親衛隊を上回ると言われている辺境伯領の矛達である


そんな彼等を見下ろして居るのはラザトニア辺境伯であった

皆よりも数段高いその場所、主賓用に作られた高い位置のその扉の前である



「皆、よく来てくれた。知っての通り、我が孫のベアトリーチェが婚約する事になった。相手は騎士団長ガレフの息子、ゼストじゃ」



その言葉を合図に扉が開かれる


うわぁ、みんな見てるよ……

探るような目、嫉妬混じりの目、眩しいものを見る目、様々だ


お嬢様をエスコートしながら進むが、今日はいつもの魔女ドレスではない

伝説の魔女(悪役)である……いや、それ以外説明しようが無いぞこれ


俺は黒い軍服だしな……


完全に魔王とその幹部である

辺境伯家……やはり恐ろしい



それでも貴族達にとっては普通の格好らしく突っ込みは入らない

決して怖いから黙っている訳じゃない筈である


うん、男性はみな黒い軍服だから大丈夫だな!………魔女は居ないけどさ


お嬢様は先程から大人しく『ありがとう』『嬉しいですわ』『そうですわね』これしか言わない

あんまり大人しいから心を読んでみたが『ゼスト様と婚約ゼスト様と婚約ゼスト様と……』だったので、そっとしておいた


まあ開幕のダンスから始まって、ズラリと並ぶ貴族達の挨拶の行列を捌いていたのだ

さすがに疲れたのだろうからメイドに声をかけて少し下がらせて休ませる

婚約者を気遣う俺、優しいなぁ



一人ニヤニヤと自分に酔っていると、ふと声をかけられた



「ゼスト卿、ご婚約おめでとうございます。ベアトリーチェ様が羨ましいですな」


おお、アルバートか


「アルバートか、ありがとう。ベアトは今席を外してるんだ。少し疲れたみたいでね」


にこやかに挨拶を交わす


「少々お話が…テラスに出ませんか?」


ふむ、さっきの子爵の件だろうから頷いてアルバートについていく



テラスに出ると静かだ

火照った身体に心地よい風が吹いてきて少し肌寒いが問題ないな


「先程の子爵の件ですが、辺境伯閣下が直接話をつけるそうです。何か問い合わせが有っても『知らぬ』で通して欲しいとのお言葉でした」

「解った。そのようにしよう。ベアトには知らせなくて良いな?」


「はい、お嬢様は何も御存じありませんから、そのままで」



何やら取引でもしたのかな?知らなくて良いと言われたんだし素直に従おう


どうせろくでもない事をしてるんだろうから、知らない方が胃に優しいからな



その後は二人で他愛ない話をしていた

同じ師匠を持つ同士だし、アルバートは辺境伯家に忠誠を誓っている騎士だから仲良くしておくにこしたことはない

それだけではなく、訓練で仲良くボコボコにされた仲間として色々と話す仲になっていた


男同士で、俺にとっては懐かしい話もしていた

また飲みに行こうとか、兵士の誰それが恋人が出来たとか日本に居た頃を思い出す



懐かしいな…もう、帰れないんだなぁ



そんな風に思うと少し涙が出てきた

情けない、良い歳をして泣くなんて……

決めたじゃないか!この世界で生き抜くと、成り上がると……

帰る手段はそれからだ

いや……帰れなくても良いか……仲間と、あのお嬢様と生きて行くのも悪くない



「ん?ゼスト卿、大丈夫ですか?」


「ああ、目にゴミが入ったかな……」


そう誤魔化す、ベタな言い訳だ


「いけません、擦ると悪化します!見せてください」


「い、いや、大丈「見せてください!」夫……」


アルバートは犬獣人らしく真面目なんだよなぁ

大人しく従うか


ゆっくりとアルバートが俺の目を絶対異常は見逃さないと気合いを入れて確認する

辺境伯家の一員になったから、俺も守るべき対象なんだろう

さすが犬騎士だな



ガシャーーン

と、盛大な音が聞こえる


驚き振り向くとお嬢様が立っていた











「ゼスト様?男性同士でテラスで顔を寄せて何をしてますの?」

『浮気?男と浮気?アルバート許さない、絶対に許さない』










月明かりの下、野郎同士で浮気疑惑

色んな意味で死にたくなる事件が発生した……



アルバート、いい加減離れなさい

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