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異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第三章 調停者
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217 駄犬まさかの活躍

「えらい目にあったな……」

「お養父様、次は絶対に忘れてはいけませんよ?」


「ああ、アナスタシアもありがとう。居てくれて助かったぞ」


怒れるベアトの威圧感の中、必死の『ごめんなさい』は、アナスタシアのおかげでだいぶ穏便に済んだと思う

かわいい愛娘が一緒に居なかったらと想像するだけでもちびりそうだった


「あんなに怒ったお養母様を初めて見ました……それもお養父様への愛情の裏返しなのですから、次の結婚記念日はわかっていますね?」

「ああ、次は絶対に忘れないとも」


「お話し中に失礼いたします、旦那様」


結果的にはベアトも機嫌をなおして丸く収まり帰って来たのだが、帰ったら帰ったで仕事は多い

帝都の執務室にスゥの声が響く


「ああ、構わないぞ。何かあったか?」

「はい。例の舞踏会の準備が滞りなく完了いたしました」


さすがは優秀な家令殿である

俺が結婚記念日を忘れて右往左往している中、きちんと仕事を完遂していたのだ


「おお、素晴らしいな。出席者の名簿はどうなっている?」

「こちらでございます。今回が大公家として開く初めての舞踏会ですので、かなりの数が参加する予定でございます」


ニコリと微笑んで彼女から渡された辞書

いや、電話帳のような分厚い紙の束……え?これ全部ですか?


「……まさかこれ程の人数が参加するのか?」

「何をおっしゃいます、これは選別済の名簿でございます。申し込みや候補はこれ以上の人数でございました」


『お前が遊んでる間にそれだけの仕事をしたんだよ』と言われているような無言のプレッシャーの中、震える手に強化魔法全開で紅茶を飲む

軽い現実逃避である

恨み言もなく、ニッコリと微笑むスゥが微妙に怖いのは気のせいではないのだろう


「そ、そうか。いや、ご苦労だったな」

「いいえ、アルバート卿が手伝ってくださいましたから、それ程苦労はありませんでした」


「「……え?」」


養女とは思えないくらい、ピッタリと同じ言葉が俺とアナスタシアの口から放たれた瞬間であった

アルバートが……事務仕事で役に立った……だと??



「当初は1000名はいたのですが、アルバート卿の選定により200名が決定いたしました。名簿を確認する限り、問題ない……いえ、素晴らしい人選かと」


「……アナスタシア、ちょっとそのメイスで私を殴ってみてくれ」

「お養父様、残念ですが夢ではありません」


「尚、当の本人であるアルバート卿は訓練場にて黒騎士達の訓練中です。お呼びしますか?」


「いや……好きにさせておけ」

「アルバートはやれば出来る子なのですね、お養父様……ちょっと意外ですが」


これについてはアナスタシアに全面的に同意する

どう考えても俺の知っているアルバートとは違う人物なのではないか?

そんな思いでいっぱいである


「疑う訳ではないが、舞踏会の参加者だぞ?家柄や派閥等、考慮する事柄は多いだろうに……」

「スゥ、それらも問題ないのですよね?」


「はい。全く問題ありませんでした。見事と言う他ありませんね」


益々、それをやったのがあの駄犬とは思えない

脳ミソをネジではなくリベット打ちしているようなあの犬が、それ程の仕事をしたと?

そんな考えが顔に出ていたのか、ポロッとマリーが呟く


「あのアルバート卿が?頭のネジがミリネジなのにインチネジを無理矢理突っ込んでるようなアルバート卿が?」


酷い言い草だが、この世界の人間は理解できないのでセーフである

貴族としては上位の人間に対する言い方ではない……まあ、同意なのでスルーしよう


「マリー、念の為に会場の確認や名簿の確認を頼む。その為に派遣されたとは言え、忙しくなるが……」


そう、流石に舞踏会を主催するのに手が足りなかったのでこいつも拉致……じゃない、同行させたのだ

未婚の貴族女性だし、色々と使い道はある


「はい、かしこまりました。最短でのご報告ですと深夜になりそうですが、明朝のご報告で構いませんか?」

「いや、早急に確認したい。深夜でも構わないから頼む。スゥを私の寝室の隣に控えさせるから頼むぞ?」


「かしこまりました」


いかに部下とは言っても夜中に一人で男性の寝室に呼ぶのは不味い

腐ってはいるが、一応相手は未婚の女性だし


「そういう事でしたら、私もお養父様の隣の部屋におります。家令とは言ってもスゥも未婚の女性なのですよ?」

「ふむ……その方がいいか、アナスタシア頼む」


そこまで気にする必要はないかとも思うが、スゥとアナスタシアがニコリと笑い合って何やらひそひそ話をしていた

ああ、仲がいいもんなこの二人

仕事を一緒に片付けるのか、女同士の話でもするのか?

その辺は任せよう……下手につついて火傷をしても馬鹿馬鹿しい


「では、そのような段取りで頼む。私は陛下と少し話がある」


「かしこまりました、旦那様」

「はい、お養父様」

「かしこまりました、閣下」


それぞれ返事をするのに頷いて、俺は一人陛下の元へと向かうのであった



「おお、ゼスト、帰ったか」

「お騒がせしました、陛下。臣の都合で都を留守にして申し訳ございません」


「はっはっは、結婚記念日だろう?気にするな、むしろ俺のせいだとベアトリーチェ公爵に恨まれる方が迷惑だ」


「「はっはっはっはっは」」


仲良く笑ってはいるが、陛下は豪快に……俺は若干ひきつってだった

……すいません陛下、若干手遅れです

今回の一日遅れは陛下が飲みに誘ったからだって思ってます

そんな事を言える筈もなく、軽く挙動不審になりながらも笑顔は絶やさない


「で、どうだ?舞踏会の会場は聞いたか?驚いただろう?」


ニコニコと上機嫌で聞いてくる陛下だが、会場だと?

陛下がわざわざ聞いてくるって事は、何か特別な会場を開放してくれたのか?

参加人数に驚いて会場までは確認していなかったなぁ……


「はっ!格別のご高配を賜り恐縮しております」

「いい、そんなに固くなるな。ここには二人きりだ」


そう、いつものごとく居住区にある部屋での密会なのだ

謁見の間では色々と細かい話が出来ないという理由なのだが、すっかり身内扱いである

いい事だけど、一応は遠慮しておかないとな


「そうおっしゃるのでしたら……ありがとうございます、陛下」

「最初からそれでいいと言っているのになぁ。まあ、そこがゼストらしいと言えばらしいがな」


最初はキチンとした対応・言葉遣いをして、陛下に言われてからは言葉を崩す

このスタンスは絶対だな

じゃないと『こいつ、調子に乗ってるのか?』と警戒されかねない

……大丈夫だとは思うが、念の為だ


「しかし、流石の参加人数だな。まあ、お前の肝いりと聞いては参加するのが貴族としてのメンツに関わるだろう。実際に参加を断られて泣いている当主が多いと聞いたぞ?」

「ははは、それは大げさな。しかし初めての舞踏会ですし、そう思う貴族も多いのですね」


「今をときめく大公家だからな。参加出来た者は大威張りだろう。ああ、俺も参加するぞ?主賓として」

「……そうなりますよね、お手数をおかけします」


大公家と皇室は蜜月で仲がいい

そういう宣伝もありきの舞踏会だし、そうなるのは仕方ない

だが、陛下が前のめりになって目をキラキラさせながら言うという事がどうにも納得いかない

いや、嫌な予感がすると言っていい


「あの……そんなに楽しみですか?舞踏会」

「当然だろうが!その為に会場にも配慮したのだ!!」


思わずといった様子で椅子から立ち上がり、グッと拳を握って力説する陛下

……うん、完全にフラグが立っている


「その、どのあたりが楽しみなのでしょうか?」


どうか俺の予感が外れていて欲しい

そんな願いをあざ笑うかのように、陛下の口からお言葉が紡がれるのであった


「大公ゼスト主催の舞踏会!帝国……いや、大陸一の武芸者を決める一大行事だぞ!?男に生まれたからには、是非とも見たいに決まっているだろうが!!」


舞踏会……きらびやかな宮廷で紳士淑女が踊り、飲食しながら会話を楽しむ会

だがしかし、その裏では貴族の駆け引きが繰り広げられる戦場とも言われている舞踏会

そんな会を主催した筈が、どうやら開かれるのは『武道会』らしいです


……どうりでアルバートが役に立つ訳である

嫌な予感しかしません

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こちらもどうぞよろしくお願い致します。

結婚相談所INファンタジー世界です。

魔族さん相手に頑張るお話。

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[一言] こんなにも面白いのに更新が止まってしまっているなんて...勿体ないです
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