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異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第三章 調停者
216/218

215 閑話 皇帝と宰相の思惑

遅くなりました。

年度末&体調不良で申し訳ないです。

「じい、あのボンクラ貴族共は根絶やしに出来んのか?」

「陛下、現在そうするべく下準備の真っ最中ではありませんか。今しばらくのご辛抱を」


そう言って頭を下げるじいも歳をとった

本来ならば『宰相』などという肩書は、他の者に任せて隠居でもさせてやりたいがそうはいかないのだ

じいと二人だけの密会だからこそ出来る、いつもとは違いだらけた姿勢で続ける


「じい、今は『宰相アーク』ではなくともよい。もっと気楽に話せ。この部屋なら大丈夫だ」

「……確かにそうですな。では言わせていただきますがな、陛下はもう少しゼスト大公を見習って勤勉に……」


「いや、悪かった。もう少し手加減してくれ……じいの説教を聞きたい訳ではないのだ」

「……」


渋い顔のじいだが、別に説教がされたくて気楽にしろと言ったのではない

それにこの歳になっても、このじいからの説教は胃に響くのだ


「まったく、そのワガママなところは子供の頃から変わりませんな」

「ふふ、仕方なかろう。元々の性格など簡単には変わらん。それに私の教育係はじいだっただろうが。この性格もじいの責任だな」


「やれやれ……どこで教育を間違えたか……」

「はっはっは、今更だな。まあ茶でも飲め、じい」


ようやく宰相の顔から、俺の小言も聞いてくれる『じい』の顔になったな

皇帝ともあろう者は小言も言えない

言えば冗談や愚痴では済まなくなる

『皇帝陛下のお言葉』として扱われてしまう……慣れたとはいえ、精神的に疲れるのだ


「さて、ようやく小言を言えるようになったから聞いてもらおうか」

「……貴族共の根絶やしは小言ではなかったのですかな?」


「あいつらを滅ぼすのは確定事項だからな。小言ではなく時期の相談のようなものだろう」

「……やはり教育をどこかで間違えましたかねぇ……いや、ある意味では成功しているのか?」


ようやく調子が出てきたじいなのだが、それに付き合っていては日が暮れる

いや、たまにはいいのだが毎回は面倒というのが本音だ


「俺の事はいい。ゼスト大公について相談があってな」

「ほう……大公殿ですか。いよいよ私も宰相を引退して隠居生活が出来ますかな?」


「うむ。時期を見てゼストには宰相になってもらうのは賛成だし、考えてもいる。その為にはひと手間かかるが、あいつを宰相にできるなら些細な事だ」

「……確かに時期は悪いですな。まだまだ新婚気分でベアトリーチェ公爵と仲睦まじいと聞きます。その大公殿を宰相として帝都に縛り付けたら恨まれるでしょうなぁ」


「ゼストには苦労ばかりかけている。しかも割に合わない仕事も丸投げが多い。これ以上あいつに嫌われる勇気はないぞ?」

「ふふ、気長に待ちますか。しかしその件ではないとなると、何か問題でも?あの大公殿に限って問題など起こすとは思えませんが?」


そう、あの出来た大公は問題なんて起こさない

起こすとしたら、その周りの者が何かしらやらかすのだ

……ベアトリーチェ公爵が絡まなければ、ゼストは非常に優秀なのだ


「ゼスト本人や家臣団は見事という他ない。領地の経営も、新たに帝国の属国となった旧ドワーフ王国も見事に治めている。しかも近隣国との調整まで完璧だ。まったく、ゼストには足を向けて寝れんぞ」

「そうお思いならば、何かしら見返りや褒美を検討なさってください。大公殿は働き過ぎですぞ?」


「わかっている。だが、他の者では代わりになれないのだ……それはじいも承知しているだろう?」

「あれ程の武力と人格が同居するのは、まさに奇跡ですからな。丸投げにしても『帝国としての利益』を尊重する手腕。だからこそ、手放してはいけない人物ですぞ?信賞必罰は名君の条件。ここは陛下の懐の見せ所です」


わかっている

それは十分にわかっているのだ

だが、渡す褒美が問題なのだ


「そこで相談なのだ。いったいどれ程のモノを与えれば大公の功績に釣り合う?」

「それは……そうですな……」


「そして、帝都の馬鹿貴族共の納得するような前例に沿ったちょうどいい褒美だ。あれ程の武功を挙げた前例などないぞ?絶対に何かしらごちゃごちゃとやらかすだろう。そしてそんな面倒事に巻き込んだ責任は俺にあるとなると……な?結局はゼストにまた負担をかけるのだ」

「……堂々巡りですな」


「「はぁ……」」


考えれば考えるほどに、わからなくなる

綺麗に揃ったため息が出るのも仕方ない事だろう

皇帝としても、宰相としてもこの状況はいいとは言えない

あいつには借りばかり増えていくな

よし、今度帝都に来ると言っていたな

その時に色々と探りを入れて、何を欲しているのか見極めるとしよう


「せっかく久しぶりにゼストに会えるのだ。その時に褒美を決めよう。じいも何を与えようとも文句は無いな?」

「じいとしても宰相としても、大公殿には頭が上がりませんからな。陛下の思うままになされよ」


結局はそれしかないのだが、こんな些細な事さえ誰にも言えないのは心が疲れる

同意してくれたじいと頷きあってこの日の密会は終わったのだった




陛下……最近やつれてきたように感じるのは気のせいではあるまい

伝統ある我等がグルン帝国も、その長い時間がいい事ばかりではないと証明してしまった

貴族という地位にのほほんと座っている者がなんと多い事か

国境を守る辺境伯領地と比べれば、上は大貴族級の幹部

そして末端の一兵卒に至るまで天と地ほどの差がある

当然の事だが、いい意味ではない


私も若い頃からそんな馬鹿貴族共が大嫌いだった

『自分は決してああはならぬ』

そう心に決めて政務に励んできたのを先帝に認められ、次期皇帝陛下の守役となった時に誓ったのだ

この幼い皇帝陛下を立派に教育し、いつまでも支えていこうと

その想いを語り合った辺境伯とは今でも友人として付き合っている

妹が結婚相手にと選んだ男に『ドラゴンを倒してこい』と条件をつけた時はさすがに無茶を言うと思ったが……

まさか本当に倒してくる男が居るとは、本当に辺境伯領地というのは魔境だなと改めて驚いたものだ


そんな彼と協力して、帝都の馬鹿共を徐々に減らしていきながら守役として励む

守役だけではなく、内政官としても出世していき充実した毎日だった

皇帝陛下も立派に成人なさって、これで

帝国も安心だ

皇帝としての貫禄も出て来て、安心して見守って居られる

そう思えるようになるまで、実に30年近く時間がかかったのは……今思えば幸運だったのだろう

30年もではなく、たった30年で我等が帝国はかなりマシになったのだ

だが、完全に安心出来るわけではない

尻尾を簡単に掴ませる馬鹿は居なくなったが、隠れるのがうまい陰湿な馬鹿はまだまだ多かった


だが、ゼスト大公のおかげで状況は一変した

わかりやすい標的として、これ以上ない程目立ってくれた

異世界人であり、光属性魔法のとんでもない使い手

辺境伯とも話したが……単純な一対一の戦闘なら、間違いなく大陸最強と言っていい戦闘力

それでいて辺境伯の孫娘を妻にしただけの事はあり、帝国にしっかりと忠誠を誓う立派な貴族としても優秀であった

しかも、結婚までベアトリーチェ嬢……いや、ベアトリーチェ公爵に手を出さなかったという

あんなにも独占欲が強く、愛しているというのに

ソニアの時とは違い過ぎて逆に心配したものだ


しかし、とんでもない武力と知性や品位というのは同居しないのだが……

それが同居してしまうあたり、やはり辺境伯領地というのは魔境なのだろう

ソニアには武力と知性はあったが、品位はなかった

結婚前に朝帰りをして、辺境伯家の門前で大惨事があったのもいい思い出である


だが……だからこそ、あの優秀な大公殿に頼りすぎているというのは否定できない

人当たりはいいし、実力も貴族としての階級も文句なしで、帝国に対して不利益を出さないという信頼までもある

こんな使い勝手が良い人物が居る筈はないのだが、居てしまうのが辺境伯領地という……もういいだろう

最近は『魔境』とは大公領地の事というのが最新版の帝国辞典にも載っているしな

なんにしても、大公殿に相応しい褒美

きっと皇帝陛下ならば見つけてくださるだろう


そんな風に考えていた時期が私にもあった


「じい、温かい食事というのは実にうまかった」

「……陛下……」


お前は大公殿への褒美を何にするかを探りにいったのではなかったのか?

二人きりでじっくりと腹を割って話す

だからこそ、呼び出すのではなく俺が行くと大公殿の元へと向かったのではなかったのか?

朝まで帰らない、これは帝国のこれから100年の計画を成す大仕事だ

そう大真面目な顔で私に言ったのは何だったのか?

それが、何で大公殿達と城下町へ繰り出す事になったのか……


「ゼストもな……あいつにもあんな趣味があったのだな……」

「……陛下?」


不敬罪で処刑されようとも、一発ぶん殴ってやろうかと拳を握った私にそんなつぶやきが聞こえた

陛下!?まさかゼスト大公の本心を探るためにそのような方法を!?

じいが……じいが浅はかでした

陛下は本当に立派になられて……


「ゼストはな……見えそうで見えないのが好きらしい」

「……は?」


「給仕をする女に金を握らせてな……わかっているだろう?と」

「はぁ……」


「そしてその女は、下着を履かない短いスカートで給仕をしてな?なのに、見えそうになると目をそらすのだ」

「……つまり?」


感動で出て来た涙が思いの外簡単に引っ込んでいくのを感じながら聞き返す

混乱状態の人間というのは、時に常識を超越すると知った瞬間である


「あの『見えるか見えないかのギリギリ』が好きなのだろう。じい、先日献上された薄いがつやのある上等な生地があっただろう?あれを大公専用の生地としよう」

「!?なるほど、このじい感服いたしましたぞ!陛下!!」



こうして下賜された生地

帝国でも一部でしか作成出来ない貴重なそれは、大公だけが扱える生地として指定された

これにより、その生地が大量に大公領地へと送られて来る事になる

謎の褒美に困惑するゼストだが、マリーがそれに注目

軍装やメイド服、普段着や夜着として様々な物が開発された

『大公家だけのシースルー』

そう呼ばれる事になる

外出する時は重ね着でオシャレと大公家関係者としての身分証明に

家の中ではドキドキな夜着として、大公家や重臣達に愛されるそれが完成したのは僅か一か月後だったという


尚、彼の領地では『大公様は見えそうなのが好き』と伝わってしまいミニスカートの女性や短パンの男性が大量に発生

更には、その噂を又聞きした大公の娘達がシースルーで現れて大混乱に陥るのはまた別の話である

こちらと交互を目安に更新は続けます。

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