表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第三章 調停者
211/218

210 帝都の貴族

「閣下、旧ドワーフ王国の決算報告書が完成したとの報告です」

「ああ、そこに置いておいてくれ」


「閣下、ライゼル殿が竜騎士部隊で訓練をしたいそうです」

「許可する。死なないように気をつけるようにな」


「閣下、報告書にサインを……」

「置いておいてくれ。目を通す」


正月とは……休みとは何だったのだろうか?

そんな疑問が全く消えない通常の日々が戻ってきて数日が過ぎた

だが鬼のような激務も終わりが見えてきて、ようやく帝都へと向かえるかもしれない

そんな雰囲気が漂ってきていた時にその事件は起きたのだった


「閣下、魔族のニーベル殿がお見えです」

「ああ、待たせて……魔族の長が来た?」


「はっ、応接間にてお待ちです」


やろうと思えば、夜中に俺の私室へコッソリと来る事が出来るのにわざわざ昼間に訪ねてきたのか

これは何か様子がおかしいな


「すぐに向かう。スゥ、アルバートも応接間に来るように伝えてくれ」

「かしこまりました、旦那様」


まあどう考えても面倒事だろうから、武力担当の駄犬は同行させておこう

それにあいつも頭を使う事を覚えないといけないから、いい参考になるかもしれない

……万が一、ニーベルと戦う事になれば俺とアルバート二人でやれば絶対に負けないし

そんな事を考えながら応接間へ向かうのだった



「ご無沙汰しておりました、ゼスト大公」

「ニーベル殿も変わりないようでよかった。本日はどうされたのです?昼間に来訪とは何かありましたか?」


この応接間に居るのは俺とニーベル

護衛のアルバートに給仕をするスゥだけである

何か言いにくい事でもこれなら安心して言えるだろう

出された紅茶を一口飲んで、ニーベルが口を開いた


「実は帝都の貴族の一派が異世界人の召喚を企んでいるようでして……少し派手に始末をしようと思っているのですが、そのお話に来ました」


ちょっと遊びに行ってくるけどお土産何がいい?

そんなノリと笑顔で言われたが、さすがのアルバートも真顔で固まるレベルの一言である


「ま、待ってくれニーベル殿。そのような大事を私の独断では……」

「ご安心を、ゼスト大公。皇帝陛下には許可をいただきました。これをご覧ください」


そう言って差し出された手紙を見れば、帝国の紋章が輝いている

中身を取り出せばいつもの短い文章が目に飛び込むのだった


『調停者殿に任せる』


「またこのパターンだよ……」


ニーベルがお気楽にお茶請けのおかわりを要求する声を聞きながら呟いた

自分のメンタルがゴリゴリすり減る音まで聞こえる気がする中、何度も読み返すが内容は変わらなかったのである

また……気苦労が増えそうです……



「それで、目標は何人なのです?魔族の調査なら抜かりは無いのでしょうし、報告書のような物はありませんかね?」


断るという選択肢は陛下の手紙でなくなった

話を引き延ばしても結果は変わらない

それならばさっさと手配をしてしまおうと尋ねた

尚、少しだけ泣いたのは内緒だ


「ありますよ……これですね。人数は少ないですよ?たった三人ですから」


ニーベルから資料を受け取って見てみるが、確かに目標は三人と書いてある

この三人だけをどうにかすればいいのなら予想よりも簡単だな

派手に始末するとか言うから心配しちゃったよ


「そうか、三人ならまあ……」

「侯爵一人に伯爵二人ですから、ゼスト大公のお手伝いには期待していますよ」


「……」


上級貴族の当主なのかよ!

何でそんな奴等がって、俺対策だよな間違いなく


「我が帝国のボンクラ共がご迷惑をおかけして申し訳ない」

「いえいえ。ゼスト大公が協力者となってくれましたから、この程度の事は問題ありませんよ。はっはっは」


いい機会だから魔族に借りを作らせようとか思っていた俺が恥ずかしい

むしろ、俺が借りを作ったようなものだわ


「改めてニーベル殿、ありがとう。おかげで私も助かった。召喚が終わった後に知ったらと思うとゾッとする」

「我々も大事な協力者である大公のお役に立てたなら嬉しいですよ。それに召喚という手段は忌むべき行為です。既に召喚の方法は知られていないと思ったのですが……いったい誰が……」


「旧ターミナル王国の生き残りでしょうか?亡命して来た者を密かに匿っていて、何かに使おうとか大貴族様の考えそうな事ですよ」

「ああ、ゼスト大公が攻め滅ぼした国ですね。確かにあり得る話ですねぇ」


「そうだとすればつじつまが合いますから。そうなると敵国の者と通じた反乱ともとれる。ならば多少派手でも皇帝陛下は許されるでしょうね」

「ふむ。そのあたりはこちらで裏をとってみましょう。10日程いただければ調べてみせます」


これが本当に調査なのか証拠を偽造するのかは知らないし、こだわらない

『魔族の長』がそうすると言うのなら従うさ

俺にも都合がいいし


「ええ、ニーベル殿にお任せします」


お互いに顔を見合わせてニヤリと微笑みあう

俺だって聖人ではない

己の命を守る為でもあるし、裏切り者のような奴等を甘やかす気もない

ましてや、この世界に来るきっかけとなった召喚をこれ以上されるのは面白くないからな

……たとえ今はこの世界が気に入っていても、それとこれとは別である


「では、10日後に帝都のゼスト大公のお屋敷で再度お会いしたいが……いかがです?」


ふむ……そのくらいの時間があればこちらでも色々と対応が出来るな

それに、帝都には行きたいと思っていたから都合がいい


「わかりました。それで結構ですよ」

「ありがたい。それでは今日は失礼します。ああ、お茶請けご馳走様でした、奥方にもよろしくお伝えください」


そこまで言うと、俺もどうやったかわからない間にスゥっとその場から消える

……魔族って本当に何でもアリだな


「閣下……」

「旦那様……」


今まで黙って聞いていた二人が心配そうに声をかける

まあ、あんな話をいきなり聞かされたらそうもなる

それに腹黒い一面も見せてしまったしな


「心配するな。この流れなら私に不利益は少ない。いや、ほとんど無いと言っていい。魔族との協力体制は強めておきたいのだ」


ここまではいい

状況の説明である

ここからは腹黒の言い訳だ


「召喚をしようとしているらしい貴族共を罠にハメるような事を言っていたが、あれはむしろだなぁ……」


「敵に罠を仕掛けるのは当然でございます」

「辺境伯やソニア師匠でしたら、もっと酷い策略を考えるのでしょうが……さすがゼスト閣下はお優しい!」


……そうね、君達も辺境伯家に仕えていたんだもんね

慣れてるよね、暗黒微笑にはさ


「確かに若干甘いかとも思いましたが、その優しさは旦那様の美徳です。あまり気にせずによろしいかと」

「うむ。家令殿の言う通りだな」


むしろ慰められました

まだアレでも甘いのか……反逆確定でどこまで追い詰めるのかを話し合うくらいがちょうどよかったのか?

そんな疑問を抱いている俺に、スゥが優しい笑顔で続けるのだった


「ですが、時には非情な判断も必要でございます。今回のライゼル殿のように」

「……家令殿の言う通りだな」


ん?何でそこでライゼルが出てきたの?

そんな疑問は手渡されたメモ用紙を見た瞬間にとける事になる


『ライゼル殿が飛竜より落下し、重傷だが命には別状なし。原因は両手を手綱から離した為』


何をやっているのだ、あのバカ皇太子は……

どうせ竜騎士団員に張り合って、度胸試しとかしたんだろう

まあ、15歳といえばそんな年頃だし……

日本で言えばバイクに乗って無茶してコケたってところか


「皇太子としての自覚は足りなかったのかも知れないな。しかし、若い男の子だし飛竜に初めて乗ってはしゃいでも……」


その程度で厳しい処置などしてはかわいそうだろう

そんな擁護のセリフはあえなく打ち止めになる


「飛竜から落ちた理由が『風圧が女性の胸の感触だから両手で感じたい』と言って手を離したとの事でした」

「治療は死なない程度でいいぞ。しばらく痛みでもがき苦しまさせろ」


「はい。これを聞いたアナスタシアお嬢様が治療を最小限しか行わず、カチュアお嬢様が傷口を焼いて消毒じゃとおっしゃっていましたが……」

「…………不問にする」


そんなに胸が好きならもう一度感じて来い、とぶっ飛ばさなかっただけ良しとしよう

色んな意味で痛い頭を抱えながら、俺の一日は過ぎていくのでした

……ロリババアを嫁にしたのに、胸が好きとは業が深い奴だ……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ