表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第三章 調停者
210/218

209 大公家の日常

新年最初の更新ですね。

本年もよろしくお願いいたします。

活動報告に書籍版のイラストサンプルをちらっとあげてありますので、お時間あればご覧ください。

ライゼル殿下が15歳という事が発覚してから数日

俺もストレス発散……厳しめの教育がひと区切りついて、あの人を息子扱いするのにも慣れてきた

勿論、ターセルに事実確認を命じたのだが問題なかった

俺を確実に後ろ盾にする為にやっているのは確実なのだが、別段不利益はない

そう判断してライゼルに接しながら生活をしていたのだが、今日は朝から様子が違っていた


「ゼスト大公、『遅刻遅刻、曲がり角でドンが出会いの理想』というのは何なのだろうか?」

「アルバート、マリーの馬鹿を連れてこい」

「はっ!」


執務室に入ってくるなりそんな事を言い出したライゼル

聞くまでもなく出所は水たまりだろう

あんなテンプレ出会いの話などあいつしか知らない筈だ

せっかく正月気分でやんわり仕事をしていたのに、このざまである

この世界にも正月はあるから、珍しく心休まる時間だったのに……


「閣下、お呼びにより参上いたしました!」

「よく来たな、マリー。で?言い訳はあるか?」


「ええ!?お、お待ちください閣下!誤解です!私は最近めっきり大人しく……」

「曲がり角でドンが出会いの理想なのだろう?」


「あ、それは私です」

「やっぱりお前じゃないか!そんな事だろうと思ったわ!!」

「一瞬で見抜くとは、さすがゼスト閣下です!」

「スゥ殿、大公家はこういった事が……」

「日常ですから慣れてくださいね、ライゼル殿」


俺のアイアンクローでピクピクと痙攣するマリー

通常営業のアルバートに、最近は『殿下』ではなく俺の息子扱いで『ライゼル殿』と呼ばれている皇太子殿下

そしてそれを見ながら紅茶を用意するスゥと、実にいつもの大公家である


「そんな文言が出てきたという事は、何かやったんだろ?今度は何だ!」

「いいいいいい言います!!言いますから、手を!このままでは頭蓋骨がピンチです閣下!」

「旦那様、一応は未婚の女性ですからお許しになってください。素肌を掴んでいるわけですし、場合によっては邪推する愚か者が居ないとも限りません」


「……アルバート卿、アレを見てふしだらな想像をするか?」

「ドラゴンも泣く閣下の手ですからなぁ……そのような馬鹿者には一度体験させればわかるでしょう」


止めに入るスゥに野郎二人がボソッと文句を言うが、彼女にキッと睨まれて黙り込む


「閣下に顔を掴んでいただけるならと貴族の子女が押しかけます!そして『ケガをした』だの『忘れられない思いをした』だのと理由にして付きまとうに決まっているではありませんか!その程度が理解出来ないから駄犬と種馬なのです!」


「……種馬」

「はっはっは、家令殿は辛辣だな。ライゼル殿、気を落とすな」


実の妹に駄犬と言われて落ち込まないアルバートは、本当にすごいと思う

いい意味でも、悪い意味でも

だが、この『種馬呼び』や『ライゼル殿』と呼ぶには意味がある

周囲へ『俺の息子として厳しくしつけている』というアピールともう一つ

『家族として扱っている』と本人にしっかりと感じ取れるように……だ、そうである

辺境伯がすごく悪い顔をしながら言っていたので、単純な悪口の意味もたっぷりと込められている筈だ


「ライゼルはそんなに落ち込むな。事実だから仕方ないだろうが。それは置いておいて……マリー、そこに座れ」

「は、はいっ!」


普通の人だったら、上司である俺にこう言われたら素直に椅子に座るだろう

だが、彼女の場合は違う

迷う事なく床に正座したのだ


「ほほう。正座が必要な事をまたしたのか」

「ライゼル殿、閣下があの目をしている時は黙っているのが正解です」

「それがわかっているなら、なぜ先日……ライゼル殿もです。正座をここ最近だけで何回したと思っているのですか?」


俺とは関係なく後ろの方で二人がスゥに説教されているが無視する

どうせ悪いのは野郎二人なのだから

ライゼルの事も最初は警戒していたのだが、ターセルの情報で本当に俺に後ろ盾になってほしくて仕方ないというのが判明してからは扱いが雑だ

むしろ本人はそれを望んでいるみたいだし……スゥは本当にお母さんみたいになってるなぁ


「か、閣下。これが原因かと思われます。しかし!しかしですね!?」

「言い訳は後で聞こう。まずはこれを読んでみるからそのまま待て」


すっかり存在を忘れかけていたマリーが、例のごとく胸から薄い本を取り出し手渡す

アナスタシアもそうだけど……そこに物をしまうのは流行っているのか?

受け取ると微妙に生温かいのが少しイラッとするよ


「閣下?その本の半分は優しさで……」

「黙ってろ、水たまり」


「……はい」


俺だってもう少し優しい言い方をしたかった

だが、その本のタイトルを見たらこんな言い方しか出来なかったのだ

『新兵 夜の特訓 ~鬼軍曹の覗き穴~』

もう嫌な予感しかしないです



「……なぁ、これのどこに『曲がり角でドン』があるのだ?ひたすら教官の男と新兵の男がアレなんだが……」

「……え?」


拷問のような30分を耐えた俺に返ってきた返事はむごかった


「あ、コレじゃなくてコッチでした」

「お前、本当にいいかげんにしろよ?なぁ?」


思わず大公ではなく素の俺が出てしまったが仕方ない

水たまり監修で異常にクオリティの高い男同士の本をじっくり読まされればこうもなる

それでも相手が女の子だからとぶん殴らなかった自分をほめてやりたい

これがアルバートだったら全力の右ストレート確定だ


「これは普通の男女向けの普及版ですから、閣下も楽しく読める筈です」

「普通の?じゃあそれは……いい。説明しなくていい。こっちだな?」


むしろ詳しく説明されたら頭がどうにかなりそうである

彼女の言う普及版という本のタイトルは、随分とおとなしいものだった

『転入兵 幼馴染と戦友と』

あいつが描いたにしては珍しく女性が表紙に描かれているソレをゆっくりと読み始めるのだった

今度は……大丈夫そうです



「……マリー、お前はこういう本を描けるのか」

「ゼスト大公、私にも三巻を早く読ませてほしいのだが」

「クッ!幼馴染の健気さが涙腺に……このアルバート、感動した!」

「マリー卿、全巻を3部ください。いえ、買います。ベアトリーチェ奥様とお嬢様方にも差し上げなければ!」


「あ、はい。あれ?皆様、気に入っていただけたのでしょうか?」


気に入ったどころではない

ライゼルに至っては『帝国軍の必須条件でこの本の読破』を取り入れるとか言ってるぞ?

確かにいい本なのは認めるが、そこまで……やってもいいかもしれないな……

うちの領地でも取り入れようかな


「この内容なら、どこへでも出せる。なぜコレを早く私のところへ持ってこないのだ、お前は。爵位を上げないとな」

「ええっ!?そこまでですか?」


「そこまでだ。さり気なく書き込まれた内容で情操教育にも使えるし、愛国心も教えられる。皇帝陛下にお見せして軍の教本に導入するレベルだぞ?」

「そ、そこまでの大事に?」


こいつは絶対に才能の使い方を間違っているな

この方向で普段から努力してくれれば、本当に優秀なんだけど


「まずは直轄軍と上位貴族に導入して、それから下級貴族へ。そして平民にもわかりやすくした物を……だろうな。これは一大事業になるぞ?」


「さすが旦那様、すぐに専門の部署を立ち上げて管理させましょう」

「ライゼル殿、こうなると私は伝令です。帝都の土産は何がいいですかな?」

「アルバート卿、では何か甘い物をお願いしたい」


すかさず褒めてくれるスゥは、俺の癒しの一端である

駄犬は伝令を遠足か何かと勘違いしてないか?

まあ、間違ってはいないから仕方ないか


「そんなに大々的に私の本が……」


感動に打ち震えているのだろうマリーは、座ったまま顔を下にして震えていた

やはり自分の描いた物が広まるというのは感慨深いのだろう

そう思って彼女を皆で温かく見守っていると、バッと立ち上がって叫ぶのだった


「ならば!外伝としてムフフな展開の薄い本を発行すれば、天文学的な売り上げが!!」

「それをやめろって言ってるだろうが!!この大馬鹿者!!!!」


感動ではなく、痛みで泣き叫ぶマリーの声が響く

今日も大公家は平常運転なのでした

……もう、部屋に帰ってベアトとイチャイチャしたいです

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ