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異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第一章 帝国黎明期
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20 想定外の男

辺境伯家をたった1日だが絶望に染めた事件……通称、闇の魔導書事件から一月が過ぎて、領都はとりあえず平穏であった


俺は相変わらず師匠や騎士団長の養父と一緒に兵士達と訓練の毎日だ

兵士達とはだいぶ打ち解けたから、訓練後には町に飲みに行く事もある

日本では営業だった俺だ、飲みに行く機会も多かったので苦にはならない

若い奴等と騒ぎ、中年の班長クラス達とはお姉さんの居る店で楽しみ、指揮官クラスの貴族達には家に呼ばれたり呼んだりとそんな毎日を過ごしていた



ああ、交換日記と呼ばれる魔導書の対応もしているぞ?最近では使用人達が届ける必要はなくなった

何故なら、魔導書が勝手に自分でそれぞれの家を行ったり来たりしているからだ

おかげで『早起きすると空飛ぶ魔導書が見れる』と、近所で評判だ


……考えないようにしよう……


と、まあ平穏?な毎日を過ごしていたんだ




「婿殿。マズイ事になったんじゃよ……」

「は?」


突然呼び出された辺境伯家の部屋で、そう告げられるまでは


「実はな、お主とベアトの結婚なんじゃがな……ちと予定通りにはいかなく成りそうなんじゃよ」


いつになく悪い笑顔の辺境伯ラザトニアじいさんが不気味だ


「当初は時間をかけてお主を周知させてから騒動を起こして、解決した褒美に結婚。そうじゃったろう?」

「はい閣下、その通りです」


「ところがのぅ、横槍を入れてきた阿呆がおってな……難儀な事じゃわい」


ふう、と溜め息をついて紅茶を飲む


「帝都の法衣貴族の一人息子なんじゃがな、ベアトと結婚したいとわざわざこの地迄来たのじゃよ……迷惑にもな」


ラザトニア様、言葉を選んでください


「しかし、いきなり結婚したいと言って来たりはしないのでは?それとも辺境伯家とつながりでも?」


「そう思うじゃろ?ところがあのボンクラは『私にふさわしい美しい女性と聞いた。式の費用は心配要らぬ、祝儀も弾む』こう来たのじゃよ。ふふ、舐められたもんじゃ。帝都のモヤシどもは儂らの事を田舎の門番程度に思っておるのかのぅ」


うん、逆らってはいけない笑顔だ


「と、なりますと閣下は当然お断りに?」

「さて、そこじゃよ。わざわざ騒動を起こさなくとも、カモがネギを背負って来たのじゃ、使わぬ手は無いと思わんか?婿殿」


ニタァ

ひいっ!!やめてください、心臓が止まります


「幸いそのボンクラは爵位ならつり合うからの。条件を出したわい。本人が望むなら……とな。城門前の広場でベアトに申し込むそうじゃよ、あそこなら広いしのぅ。貴族や兵士達、民も集まるじゃろうな。大々的に知らしめるからの」


悪いじいさんだ


「で、私がお嬢様をかけて決闘ですか?」

「まさかお互い好き合った男が居て、それが我が騎士団長の跡取りだとは知らなかったのぅ」


「良くそんな条件を飲みましたね」

「ほほ、『私を断るなどあり得ない。反故にされては困るから大々的に』だ、そうじゃ。…………こうまで虚仮にされてはな」


ラザトニア閣下は笑っていない

じいさんとか心の中でも呼べないオーラだ……ボンクラ貴族くん、さようなら


「解りました。決闘の末の不幸な事故ですから仕方ないですよね。日時はいつですか?」


ニタァって笑ってくれました


「5日後の昼じゃよ。その後パーティーが有るからのぅ、準備しておいてくれ婿殿」


そうは言っても人殺しはなぁ……半殺しか腕の一本くらいで勘弁してもらうか……

その後、不幸な事故が有っても俺は知らないって事で


解りました

そう言おうとした瞬間、バンッとドアが荒々しく開けられる


「お祖父様、お話がありま……あら、いらしたのねゼスト様」

『お祖父様助けて!……ゼスト様!?』


お嬢様だ……助けてだと?


突然の乱入にラザトニア閣下も眉を細める

貴族のマナーだと落第点もいいところだしな


「ベアトよ、余り淑女として……どうしたその顔は?」


言われてお嬢様を改めて見る

いつもの赤黒の魔女ドレスに汚いモノを見るような冷たい目……泣いてる!?

頬が片方真っ赤だ……


「ベアト、頬を治します。動かないで」


俺は慌てて治療魔法をかけるがお嬢様は大人しくされるがままだ


「ゼスト助かる。で、ベアトよ何が有ったか話すのじゃ」


ラザトニア閣下は真顔だ

事情によっては血の雨が降るな


チラリとこちらを見たお嬢様が話しだす


「わたくしが城の中庭の東屋でお茶を楽しんでおりましたら見知らぬ男性に声をかけられましたの。メイドが咎めるとその男性は『婚約者になったから問題ない』と近寄って手を掴みました」


『嫌だわ……ゼスト様に聞かれたくない。でも、すぐに知られるし……』


スウッと部屋の温度が下がる


「それを嫌がりましたら……生意気だと頬を……」

『ゼスト様怒ってるかしら……知らない男性と話すなんて下品よねわたし……』


サッとお嬢様に近寄り手を握る


「ベアト。怖かったですね、もう大丈夫ですよ。でも今は気持ちが混乱しているでしょう。部屋で少し休んだ方が良い、私もお話が終わったら使いを出しますからゆっくりお話ししましょう?」


「うむ。そうしなさい、そう時間は掛からぬから待っていなさい」


しぶしぶお嬢様が出ていった後に入れ代わりになり師匠がやって来た


「婿殿、助かったわ。ベアトを外させてくれての。危うくボンクラを始末しに行こうかと思ったわ」

「ええ、さすがに今はマズイですからね……今は」


「閣下……師匠……」


俺の言葉に二人がこちらを見て凶悪な笑いを一瞬真顔にした後

更に凶悪な笑いを浮かべる








「そのボンクラ貴族、手を出さないでいただきたい。不幸な事故は目撃者が多い方がよろしいかと」








俺は思ったよりお嬢様が好きで、独占欲が強いらしい

そのボンクラ……殺そう



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