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異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第三章 調停者
205/218

204 マリーへの褒美

「歓待の宴の筈が、むしろお手数をおかけいたしまして……誠に申し訳なく思っております」

「いやいや、久々に焼きそばを作って楽しめましたよ」


帰国する俺達の見送りに現れたエミリア宰相に平謝りされているが、あまり気にしないでいいのに

鉄板で焼きそばを焼くのなんて、高校生のときの文化祭以来だったから純粋に楽しかったのだ


「そう言っていただけると助かります。マリー卿もありがとうございました」

「いえいえ、獣王陛下に気に入っていただけたら幸いです」


ちょっと手伝っただけの俺と違って最初から大活躍のマリーを最初にねぎらうべきなのだが、そこは貴族社会だ

俺より先に話しかけると問題になるからこの順番で正しい

マリーも余所行き用の対応だし問題ないな


「お渡しした焼きそばの作り方ですが、我が領地の海産物を加えてもおいしくできますので、後日お届けいたしますね」

「海産物ですか!? ああ、大公領地では漁村があるのでしたね。よろしくお願い致します」


この世界では貴重な高級品である海産物

それを軽いノリで届けると言われて驚くエミリア宰相だが、うちでは

気軽に手に入る品物だから気にしないでください

マリーの言葉に被せるように続けた


「アルバートの親戚になる予定の獣王陛下の為なのですから気にせず受け取って欲しい。この程度は貸しだなんて思わないさ」

「はい。これからも何かとよろしくお願いいたします、ゼスト大公」


『何かと』とは『駄犬獣王の迷惑』の事だろうな

気苦労のたえない宰相殿に微笑みながら帰りのドラゴンの背中へと乗り込むのだった

……ん?この手紙の山は?

ああ、マリーへの求婚依頼書か……モテモテでよかったな



「ゼスト閣下!私、初めてのモテ期到来です!!」

「おう、よかったな」

「マリー卿、座ってください。危ないですから」

「ふぁっふぁ、ふぉふぉふぁふぃふぉふぁふぁふぉふぃふぃーふぇふふぁ!」


小躍りするマリーとたしなめるスゥ

そして焼きそばを頬張るアルバートといつもの調子で空の旅である

実に平常運転だな


「他国の貴族でも結婚していいぞ?住むのは我が領地だから婿入り前提だがな」

「マリー卿の串焼きの技は職人並みでしたから、求婚者が多いのも頷けますね」


そんなに喜ぶなら早く結婚してしまえと煽ってみるのだが、反応はいまいちだった


「はあ……結婚はしたいのですが、相手にちょっと希望がありましてなかなか……」


生意気にもそんな事を言うマリーだが、このメンツだから無事にすんでいるがカチュアが聞いたら大惨事間違いなしである

そんなにこいつは理想が高いのか?


「それだけ求婚があればいろんな男がいるだろうに……この世界では千田さんとか織田さんとかいう苗字はいないぞ?」

「苗字で選んでいるのではありません!!私は……そのう……」


「貴族だから仕方ないとはいえ、お前の結婚は私が許可しないといけないのだ。恥ずかしがる事はない、言ってみろ」


普通の貴族なら俺の許可など要らないが、マリーは特別である

異世界人の彼女をホイホイ適当な相手とくっつけるなんて危険しかない

この子は謀略とか裏工作とか出来そうもないから俺がある程度は守ってやらないとな


「無理矢理結婚させようとなどしない。だが、お前は特殊な立場なのだから……な?今回の褒美として多少の無茶なら聞いてやるから」

「旦那様を信頼して話してみてはいかがですか?マリー卿」


おそらくは想い人でもいるのだろうから、あんな事を言ったのだろう

今回の外交は、彼女の功績もあって大成功と言っていい

それならば褒美は必要だろう

そんな予想の俺とスゥがやさしく問いかけると、モジモジしながら彼女が答えた


「は、はい。実は……」


やっぱりか

そんな表情でうんうんと頷きながら待っている俺達

いまだに焼きそばを頬張るアルバートにケリを入れながら続きをうながす


「何度も考えたのですが、やはり私にはこれしかないのです!ですから……ですからどうか、認めてください!!」

「うん?」

「え?」


予想とは違うセリフに、痙攣する駄犬からマリーへと視線を動かす

そこには恭しく差し出される薄いのに熱い本

女の子同士の甘く不謹慎な物語シリーズがあった


「……同性はだなぁ」

「……さすがですね、マリー卿」


いくら権力があってもごり押せる物とそうでない物はあるのだ

これを許可したら大変な事になるのはわかりきっているので許可など出来ない

だが、彼女の言葉は終わらない


「いいえ、見た目が女性ならいいのです!ですから、メディア卿のような方で女性が好きだという人を是非紹介していただきたく……」


もはや衛星軌道付近まで上がったハードルに言葉も出ない

この世界では女装しているだけでも異端視されるのに、さらにそのうえ女が好きとか……

そんな人間が居るのだろうか?

……いや、俺の領地なら居るかもしれない……残念ながら


「……任せておけ」

「……さすがでございます、旦那様」


「ありがとうございます!どうしてもそこだけは譲れなくて!!」


もしかしたら気が変わっているかもしれない

そんな甘い考えが叩き潰され、この後数日間はメディアの知人というか仲間を訪ね歩く事になるきっかけであった

……勿論、逆パターンも期待してターセルの仲間にも聞き込みしたのは当然です



「と、いう訳で……お前達には期待している」

「お任せください!片っ端から探してまいります!」

「御意!」


ターセル夫妻にマリーの婿探しを依頼して、ようやく一息入れる

旧ドワーフ王国に帰るなりする事なのだろうか?という疑問は残るが、残念ながらマリーへの褒美扱いだから仕方ない

あれはアレで役には立ったからな


「スゥとアルバートは、マリーへ届いた求婚の書の返事の文面を頼むぞ?獣人族のしきたり通りに返して欲しい」

「はっ!お任せを!」

「字は汚い駄犬ですが、しきたり通りの文面は覚えております。私が書きますのでご安心を」


やっぱり獣人族特有のしきたりはあったか

グリフォン王国とわざわざ揉める必要もないから、これでいいだろう


「私はどういたしましょうか?」


不安そうにこちらを見つめるマリーだが、そんな事は聞くまでもない


「お前は獣王陛下の依頼した絵を仕上げろ。いいか?テーマは『姉妹愛』だぞ?間違えるなよ?絶対だぞ!?」

「はい!お任せを!」


「本当なら普通の男と結婚してほしいが……お前の再三の願いで許可したんだからな!?いいか?絶対に迷惑はかけるなよ!?」

「感謝します!ゼスト閣下!!」


くどい程、念を押してマリーを自室に帰す

以前にも彼女は外見女で男がいいと言っていたが、ここまで譲れないならもう諦めた

軽く痛む頭を抱えて紅茶を飲んで誤魔化していると、豪快にドアが開け放たれた


「パパ上!あのような条件の男を配下の為に探すのに、わらわの婿はなぜに探さないのじゃああぁぁぁ!!!」


血走った目でフウフウ言いながら現れた行き遅れ

先日の『行かず後家三人衆』事件で相当ピリピリしているようだった

そこに今回のコレでは切れても仕方ないだろう


「はっはっは、探す?カチュアの婿を?おいおい、そんな冗談は笑えないぞ」


エルフの奥義たる黒い炎が彼女の周囲にゆらゆらと立ち込める中、震えそうになる足を強化魔法でしっかりと包む

ひきつらないように表情筋も強化して微笑みながら歩み寄った


「かわいいお前の婿を探す?探す必要などないさ。ぜひ欲しいと要望が山積みなのだからな」

「……そ、そうなのか?パパ上」


逆立っていた髪の毛がいつものツインテールに戻り、カチュアの目にではなく頬に血が集まり始める

もうひと押しである


「そうとも。だからそんなに配下の結婚相手探しで怒らないでくれ。彼女は探さないと貰い手が居ないのだから」

「それなら……仕方ないのじゃ!」


惨劇を回避した喜びで、カチュアをそっと抱きしめる

よかった……クソ面倒な事にならなくて本当によかった

緊張による疲労感と押し寄せた安心感と一緒に彼女の頭を撫でていると、再度バタン!とドアが開け放たれた

なんだ!?今度はアナスタシアか!?


「ゼスト閣下!皇太子殿下がお見えになりました!!」


ただいまの挨拶さえしていないのに、今度は例の皇太子殿下か

……俺の休暇はもう少し先になりそうです

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