202 珍しく役に立つマリー
遅くなりましたが、冷えピ〇貼ってがんばりました(;´・ω・)
「こちらが獣王陛下とエミリア宰相の姿絵でございます。まだ下描きの段階ですので色はつけておりませんが、図案はこれでいかがでしょうか?」
余所行き用の笑顔で説明するマリーの隣で紅茶を一口
あの後、よくよく話を聞いてみれば『今話題のマリー卿に姿絵を純粋に描いて欲しい』だけだったのだ
もちろん、キマシタワーな姿ではなくて問題ないらしい
「おお、なんとも愛らしい絵柄だな!エミリア!」
「ええ。私も初めて見る絵ですね。とても気に入りました」
この世界の絵と違い、若干ディフォルメされたマリーのアニメ調の絵は大人気らしい
いや、純粋な意味で
それならとさっそく彼女を拉致してきて描かせたら、二人は大満足の様子だ
「獣王陛下と宰相殿の仲睦まじい姿を、私がしっかりと描かせていただきますのでご安心ください」
「この図案で良ければ完成した物を後日お届けしますよ、獣王陛下」
最初に呼び出した時は真っ青な顔で『何もしてません!』と連呼していたマリーだが、ある意味仕事の依頼だと判明したらノリノリであった
日本に居たときは絵で仕事をするのを夢見ていたらしいから最高だと喜んでいた
「うむ!お願いする。それで対価はどのくらい必要なのだ?」
そこである
この世界では貴族のマリーが描いた絵をどの程度で売ればいいのかが問題である
相手は王族だし、安いのは逆に失礼になるかな?
いや、金銭で要求するのはもっとまずいな
「いえ、今回は両国の親交の証として献上させていただきます。個人的な依頼であれば……次回までに料金表を作っておきましょう」
「おお!それで頼もう!」
「なるほど、献上品ですか」
「……料金表?あの、また描いてもいいのでしょうか?」
喜ぶ獣王姉妹とは裏腹に不安そうな水溜りだが、きちんとした絵ならいいんだよ
腐らせるから怒られるんだろうが
「『純粋に』『不謹慎じゃなく』『友愛の絵』なら文句は言わないぞ。お前の邪悪な感情を織り交ぜるなよ?」
「いえ、私は純粋に女の子同士が……」
「織り交ぜるなよ!?」
「はい!交ぜません!!」
若干、殺気がこもった俺の目線にコクコクと頷くマリー
こいつも本当に懲りないよなぁ……
「ゼスト閣下、芸術とは理解されにくいものなのですね」
「お前、アレを芸術でゴリ押しするつもりなのか?」
会談という名のイラストおねだりが終わった後、真面目な仕事の後始末をしながら控室で紅茶を飲みながら言ってやった
「ですが、普通の絵で同盟が成立したようなものですよ?これが姉妹の禁断の愛を描いた……」
「開戦になるわ!!絶対に描くなよ!?」
「そ、そんなに真面目な顔で叱らないでください……軽いユーモアですよ、閣下」
「……まあ、公式の場ではキチンと対応しているから大丈夫だとは思うが注意しろよ?場合によっては助けてやれないからな?」
今回の対応で言えばこいつは100点満点だったもんなぁ
状況によりきちっとしてみせたし、元々『キマシタワー』の件も噂が尾ひれをつけて獣王陛下の耳に入っただけみたいだったし……
誤解と言えば誤解か?本当のような気もするが
「しかし閣下も大変なのですね?軍事に外交と大忙しで……ちゃんと休みをとれてますか?」
帝都の陛下へと同盟結成の知らせを手紙にしたためる俺にマリーが問いかける
「いや……休みか……最近は全くないな」
「え?」
「確かに閣下は働き過ぎですな……やはり飲み屋にですね……」
「駄犬は黙りなさい。マリー卿も驚かれますよね?旦那様は休みを部下には出すのにご自分は働くのです。少しはお体を大切になさってください」
そうは言われてもなぁ……今回の同盟だってかなりの重要案件だし他の代理人に任せるのは出来ないし
これは仕方ないだろう
「部下たちは休めているのだろう?なら、私が少々忙しいのは上位貴族の責任として仕方ないだろう?」
「ああ、閣下。申し訳ないですがそれは違いますよ。日本と同じで上司が休まないと部下も休みにくいものなのです。ですから閣下が積極的に休んでください」
珍しく真面目な顔で意見したのは腐ったマリーだった
おかしいな、あの腐女子に意見されたのに周囲の二人も同意のようだ
「マリー卿の言う通りですな、閣下」
「旦那様、これはマリー卿が正しいです」
アルバートとスゥの犬獣人兄妹もしかめっ面である
どうやら自分が思う以上に働きすぎらしい
「で、では……この同盟成立の知らせを届けて、旧ドワーフ王国の件が一段落したらだな……」
「旦那様はそうおっしゃって、結局は働き続けるのです。ですから、そのお手紙が書き終わったら奥様に進言して休暇を取っていただきます」
伝家の宝刀『奥様に進言』である
これを持ち出されたら俺は逆らえないんだ
「しかし、占領地である旧ドワーフ王国の支配体制が固まらないうちは……」
「統治方向を検討するのに皇帝陛下の判断も必要でしょう。ならば、陛下の意向が決定するまでは辺境伯にお任せしてもなんら問題はありません」
「……皇太子殿下の教育もだな……」
「それこそ休暇中に旦那様がなさらずとも、この駄犬に任せておけばいいのです」
「うむ!そうですぞ、閣下!」
スゥに肩をポンと叩かれて得意げなアルバートだが、お前……駄犬って妹に言われているのを気が付いているのか?
何とも言えない空気感の中だが、俺の答えは決まったようなものだった
「じゃあ……そうしようか。少しゆっくりと休むとしよう」
「それがようございます、旦那様」
「閣下、どうぞ静養なさってください。教育は私にお任せを!」
「私も今回の姿絵が終わったらお休みをいただきます」
最後にマリーがサラッと休みを要求していたがまあいいだろう
こいつも何かと忙しくて休んでいないからな
……休みだからと何か危険な活動をしないように、後でスゥにくぎを刺すよう言っておくか
「うむ。ではそういう事で話はまとまったな。私は手紙の続きを書くぞ?皆は自由にしていてくれ」
これでとりあえずは仕事に取り掛かられるな
全員が頷いたのを確認してインクをつけた羽ペンを持ち、さあ書こうとした瞬間にバンッと勢い良くドアが開かれるのだった
「無礼者!閣下の御前だぞ!」
アルバートがサッと俺とドアを開けた人物の間に立ち、そう問いかける
実に護衛らしい動きで感動した
……ああ、頭を使わなければこいつは優秀な男だったな
「伝令兵であります!ベアトリーチェ奥様よりのお手紙をお持ちしました!」
そう声を上げて懐から綺麗な装飾が描かれた封筒を取り出して掲げて見せる
あの封筒は緊急連絡用だぞ?旧ドワーフ王国で何かあったのか!?
最近はすまし顔をしていたスゥですら大きく目を見開いて驚いていた
「ご苦労。さっそく確認しよう……ああ、返事が必要か。直ぐに見て返事をするから待て」
「はっ!」
ビシッと腰を折って頭を下げる伝令兵にスゥが飲み物を手渡した
一般兵であれば断るだろうが、伝令兵は別なのだ
この僅かな時間に水分補給をしてすぐさま次の伝令を伝えに行くのだ
なかなか過酷な現場だよな……でも、科学がないこの世界ではこの方法しかないから花形ではあるんだ
「遠慮せず休んでいてくれ。スゥ、軽食も用意してやってくれ」
「はい、すぐに用意いたします」
「お言葉に甘えます、閣下」
部屋の隅の椅子に座らせてやり、俺はさっそく手紙を開く
封蝋もベアトのものだし本物だな
中を確認すると、予想外にピラリと一枚の便箋が入っているだけだ
「……は?」
その一枚だけ入っていた便箋に書かれていた文章
それは予想外の一言であった
『皇太子殿下のアレはフリでした。優秀な方です』
どうやら若き日の信長公ばりの傾奇者のフリで味方を欺いていたのは我が国の皇太子殿下だったようです
……俺は、結構馬鹿にしちゃったけど……不敬罪は適応されませんよね?




