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異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第一章 帝国黎明期
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19 交換日記

お嬢様の弁当と称した兵器作りを辞めさせる事に成功した俺は

家に帰る馬車の中に居る


辺境伯家の使用人達が泣きながら見送ってくれたし、お嬢様も納得してくれた

師匠は『親の目の前で口説くなんて色男だね』と何やら不機嫌であったが『じゃあ、また食べますか?』と聞いたら大人しくなった


まったく、良い迷惑である


しかし、これで危機は去った

あとは訓練を続けながら貴族への顔繋ぎだ

一年後のお嬢様との結婚、そして隣国への介入

それに向けて頑張らなければな……


今の俺は騎士団長の跡取り養子である

異世界から来た一般人が貴族とはな、しかもこのまま行けば辺境伯家のお嬢様と結婚か……

お婿さんかなぁ……あのじいさんと一緒に住むのかな

ふふ、涙が止まらないや


手にピリッとした痺れが走る


おっと、忘れていた……お嬢様から預かった本だ

豪華な黒い革で、金の意匠が施されたずっしりとした分厚い本である

表紙には辺境伯家の家紋、蛇が絡み付いた盾が輝いている


「交換日記か……」


そう、このどう見ても闇の禁呪が書き込まれていそうな本は、お嬢様から渡された交換日記なのだ


兵器作りを中止出来るならと、師匠が用意してくれたものだ

俺は断りたかったのだが師匠といつの間にか来ていた辺境伯じいさん二人に渡されたら断れない……

ヒクつく顔で震えながら受け取ろうとしたら、横から凄まじい速さでお嬢様が奪い取り今日の分は書き終わったと渡されたこの禁書を渡され馬車に放り込まれたのだ


屋敷に帰った俺は、この闇の魔導書を早速処理することにする

自分の部屋で用意された紅茶で一息つきながら書き込んでいこうかな

今日はあれだ『交換日記を始められて嬉しい。お嬢様大好きです』みたいなことを書いていった

お嬢様も初日だからか似たような内容だったが問題無いだろう


届けて貰うのは明日の朝でそれを相手が受け取り、夜書いたら朝に届けて貰う

を、繰り返す予定だ


「しかし……既に闇魔法の影響が凄まじいな……」


そうなのだ……

『今日から交換日記楽しみ!』

これだけの内容なのだが、とんでもない魔力がこもっているのだ

嬉しい感情でこれだ、マイナスの感情で書かれたらと思うとぞっとする


だから嫌だったのに……

くそっ!まあ、辺境伯と師匠に恩は売れたから良しとするしかないか……


この魔導書をこのままにしておくのは危険なので処理をすることにする

メイドに用意させ、闇魔法を封じる為にミスリルで鎖を作り、縛って同じくミスリルの南京錠でとめる

このミスリルという金属は、魔法に対して高い親和性が有るために高価だが非常に重用されているのだ

光魔法の無駄遣いのようだが仕方ない

このくらいしないと、本を運ぶ使用人達が死ぬかもしれない


完成だ……黒革の豪華な本に鎖が巻かれて封印されている


…………交換日記?いや、完全に魔導書・禁書の類いである


お嬢様にどう説明するか……素直に闇魔法が……とは言えないか

トラウマ有りそうだしなぁ


これでいこう!


手早く手紙を書き、鍵を添える

せっかくだから鍵を首から下げられるように細い鎖をついでに付けた

当然ミスリル製である



メイドに魔導書と手紙セットを渡してお使いを指示しておく

朝、忘れたら大変な事になるからな


これで大丈夫だな、まったく酷い1日だった





~ 次の日 辺境伯家 ~


大変だ……ゼスト様から届いた交換日記に使用人達が騒然となる


お嬢様が楽しみにしている交換日記に鎖が巻かれていて封印されているのだ

もう、交換日記はしたくないとそんな意思表示なんだろうか?

これを見たらお嬢様がどんなに悲しむか

あるものは顔を青ざめて、またあるものは泣き崩れて修羅場のような辺境伯家


そしてお嬢様がやって来た


「朝から何の騒ぎですの?アレは届いたのかしら?」


いつまでも隠しては居られない……メイドが恐る恐る交換日記と手紙を差し出す


一瞬ピクリと口元をひきつらせたが


「……しっ暫く部屋に居るわ……ますわ。誰も来ないように」


そう言って彼女は去った

その場に残された使用人達はいつまでも……いつまでもそこに立ち尽くしていた……



部屋に戻った彼女は震えながら手紙を開ける

何故交換日記が封印されているのか?彼に嫌われてしまったのか?


どす黒い闇魔法を身に纏いながら読み進める

遠くで悲鳴が聞こえて誰かが倒れたようだが、今は手紙の方が大事だ



『- 私の可愛い婚約者様 -


あの交換日記の状態を見て、驚いているだろうと思いますがきちんと説明しますから落ち着いて読んでくださいね?


実は私は焼きもち焼きなのです。あなたの日記がもしかしたら他の誰かに見られてしまうかも知れない……そう思うと我慢出来ませんでした。


ですから、鍵を使わないと見られないように封印したのです。

あなたの事が知りたいが、あなたの事は他の誰かに知られたくない。あなたを独り占めしたい私の我が儘を許してください……


あなた専用の鍵を手紙に同封しネックレスに出来るように鎖を付けてあります。

あなたを想い、護りの魔法を込めて作りましたから私の代わりに肌身離さず着けていてくださいね?

ミスリル製で光魔法と愛を込めてありますから、錆びる事も朽ちる事も有りません。

あなたへの想いと同じように永遠に変わらないでしょう。


その鍵を使いながら、これからの交換日記を楽しみましょうね?お願いします。


-我が儘な婚約者より-



「仕方ありませんわね。まったく我が儘な方ですわ!」



その日のお嬢様は、今まで見たことも無い邪悪で強烈な魔力を纏いながら胸元のネックレスをしきりに気にしていたという


使用人達が詳細を知る次の日の朝まで、まるで生きた心地がしなかったのはいうまでも無い

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