1 異世界にこんにちは
気が付くと薄暗い部屋の中に居た
俺は加藤 敏明 32のおっさんだ
何時ものように仕事に向かい、何時ものようにコンビニでコーヒーを買う
何時ものように車を運転しながらタバコを吸う
何時ものように長い信号の交差点でコーヒーを飲む
その後だ……
何時ものようにいかなかったのは……
突然鳴り響く緊急地震速報
車内でも解る程揺れる
周りは車から飛び出した人々の悲鳴で一杯だ
「おいおい、またあの地震クラスかよ!震源地は何処だよこれ!」
俺も車を降りて地面に座り込み、揺れが収まるのを待っていた
筈だった……
そして気が付くと薄暗い部屋の中に居た
周りを見てみる
10人くらいだろうか、若い人から年寄りまで……
10代の高校生だろうか、若い女の子やら男も居た
高齢者と言っても問題ない白髪の老人も居た
何より一番不可思議なのは、全員裸だったのだ
普段ならば裸の若い女の子なぞ見たら喜ぶだろう
俺だって普通の男だ
だがこの不可思議な状況では喜んでばかりは居られない
明らかに異常事態である
想像してみて欲しい
ある日、気が付くと薄暗い20畳くらいの部屋の中に裸の老若男女10名程が一緒に居たら普通ではない
「な、なにが起こってるんですかね?これ……」
誰とも無しに俺はそう呟くのが精一杯だった
「と、とりあえず若い人も居るんだ。女性はあちらの方に固まっていなさい。男性がたはこちらに。なるべく向こうは見ないのが優しさだよ?」
そう仕切ったのは白髪の老人男性だった
奥さんだろう老婆が若い女性の頭を撫でながら何か語りかけていた
若い女性は泣いていた
無理もない
こんな異常事態である
どう考えても普通ではない
裸を見られている恥ずかしさや恐怖心たるや、想像以上だろう
みな大人しく老紳士に従って別れたが、やはり若い子には刺激的だったようでチラチラ女性陣の方を見ていた
見ていただけならまだ良かった……
「なあ、どうせこんな状況だし俺達テロリストに殺されるんだろうしさ」
20代の男性だ
普段ならば如何にも草食系であろう見た目の彼が言い出した
「そうですよね?どうせテロリストに殺されるなら……」
10代の男性も言い出した
テロリスト?
いつの間にかテロリストに殺される事が確定していたようだ
『テロリストねぇ……わざわざ裸にしてこんな部屋に閉じ込める。しかも地震の真っ最中に……捕虜を、人質を男女合わせて閉じ込めるテロリストのメリットって何だ?』
そんな事を考えていると二人は他の男達の制止を無視して女性陣に歩み寄りながらニヤニヤと薄笑いを浮かべていた
「あ、あなた達!何をっ!?」
老婆が庇うように二人の前で叫ぶ
バン!
叫ぶと同時だった
部屋の扉が荒く開けられて西洋の騎士のような甲冑を着た二人が入って来る
「な、何だよおま……」
キラッと何かが光った
スケベその1が言い終わるよりも早く騎士達の手元が光った
「同胞を助けもせず、力に劣る女に手をだそうとするようなゲスは要らぬ」
「こ、殺したのか……」
一人は頭を真っ二つに
一人は首が繋がっていない
これで生きてたらまあゾンビか神かってところだろう
キャアァーッ うわあぁー ひいっ
そんな声が聞こえる中で騎士がこう話し始めた
「お前達を理由無く殺したり危害を加えるつもりはない。だがこやつらのような外道を生かしておくつもりもない。とりあえずお前達はこの部屋を出て我々に付いて来い」
冷ややかにそういい放つと騎士達は出て行った
「み、みな混乱しとるだろうが、とりあえずあいつらに逆らうのは止めた方が良さそうだ。付いて行こう」
老紳士に促されて女性陣は泣きながら……
男性陣も震えながら立ち上がる
「あんた、あの惨状を見ても声も上げなかったな。警察かい?自衛隊かい?肝が太いね!」
そう老紳士が俺に話しかける
「いや、俺はしがない営業ですよ」
そう言って笑いかけた
「ほう、営業さんねぇ。まあ、あんたみたいな頼れる人が居ればみな少しは安心するだろう」
「ははは、いや期待しないでくださいよ」
その言葉に謙遜して……と、老紳士は出ていきみなもそれに続いた
「あの、行かないんですか?」
女性が俺に声をかける
「ああ、俺は最後で良い。みな先に行ってくれ。最後の仕事をしてから向かうよ」
女性は首を捻りながらも解りましたと出て行った…
さて……
腰抜けて、おしっこチビった俺は
びしょびしょの足と股間を床のカーペットに擦り付けて
綺麗にしてからみなの後を追った
死ぬほど怖かったです