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異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第一章 帝国黎明期
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18 弁当を作らせない為に

「……辛く厳しい闘いでしたね、ゼスト」

「ええ、師匠。心が折れそうでした。あと歯も……」


師匠と二人、馬車に揺られながらメイドがくれた飴をなめている

お互いよく生き残ったものだ


あの後、デザートと呼ばれた兵器をなんとか処理した俺達は、最早訓練どころではなくなり仲良く帰る途中である

当初の予定では、夕方までの予定であったが、残りは途中で逃げ出したアルバートに任せて来たから問題ない


「しかし、アルバートめ……さすが獣人だな。気が付いたらいなかったな」

「ええ、師匠。ですがあれだけ私達から攻撃魔法を打ち込まれたらどちらが不幸か解りませんがね」


そう、アルバートはお嬢様が兵器を持参したのに気が付いて逃げていたのだ


「仕方ないですよ。あれも私の弟子ですからね、師匠に協力しない悪い子にはお仕置きです」


お互いニヤリと顔を見合わせる



馬車のイスに寝そべったままで……ダメージは甚大だったんだよ



「しかし、師匠。なぜお嬢様を止めなかったんですか?」

「……すまない」


「あれを毎日やられたら、お互い命の危機ですよ?」

「ええ、解っています」


ギリッと歯を噛みしめながら俺の目を見詰める


「ゼスト。あなたにしか出来ない仕事が有ります」


……聞きたくない


「ベアトを言いくるめて兵器作りを辞めさせてください。このままでは私達は勿論危険ですが、我が家の使用人達が真っ先に死にます」


「は?使用人……ですか?」


身体をゆっくり起こし、真剣な表情で続ける師匠


「作っている最中の魔力に当てられて倒れるもの。作り過ぎた兵器を味見させられるもの……既に半数が倒れている」

「そ、それはそれは」


「義父上、辺境伯にも許可はいただいてある。このまま我が家に来て何としてもあの兵器作りを止めてくれ!」


辺境伯じいさんでも、もて余したか

しかもこれはお願いじゃなくて命令じゃないか


「……師匠。命をかけて、やり遂げてみせます」



そう答えた俺だが、まだイスに寝そべったままだった……

起き上がる気力はまだ出ない……




ドナドナされて行った辺境伯家では盛大にもてなされた


「光の勇者様!」「何卒…何卒…」「救世主だ…」


使用人達よ、そんなに必死だったのか……気持ちは解る


「安心しろ、私に任せて欲しい」


泣きながら頭を下げる使用人に声をかけながら屋敷に入る


「まあ!先程別れたばかりですのに、何のご用かしら?わざわざいらっしゃるなんて」

『もう私に会いに来たの?ゼスト様ったら、意外と寂しがりなのね』


呪いの魔女……じゃないや、お嬢様が気の弱い人なら泣くレベルの辺境伯笑いで現れる


「先程はありがとうございましたベアトリーチェお嬢様。私の為にあのような物をいただけたのは、末代までの誉です」

「ベアト、ゼストが君に話が有ると言ってね。どうしてもと言うから連れてきたのだよ。部屋を用意するから付いてきなさい」


「我が儘を申しますが、お願いいたします。ベアトリーチェお嬢様」


凄い速さで側まで来て手を繋ぐお嬢様は恋人繋ぎをする

でも顔は相変わらず嫌そうですね


「仕方ありませんわね。さ、お父様まいりましょう」

『やっぱりわたしに会いに来たのね。もう!』


師匠がふらつく足取りで俺達を案内する

大丈夫かな……プルプルしてるぞ


やがて応接間に着くとメイド達がお茶を準備して居なくなり三人だけになった


二人きりにはならない

未婚の女性と二人きりは駄目なんだ、正式な婚約者なら昼ならギリギリ大丈夫だが

面倒だがこの世界の貴族の仕来たりだ、仕方ない


紅茶をすすりお嬢様を見る

赤と黒の禍々しいドレス……まるっきり魔女である……手袋か。またしてるな……



「ベアトリーチェお嬢様。失礼ですがお手はどうなさったのですか?」


ピクリと魔女の頬が動く


「……何の事ですの?」

『やだっ!手を怪我してるのバレたのかしら……お弁当作りで怪我するなんてドンクサイ子だと思われないかしら……』


スッと目を細めてこちらを睨んでいるが思いが聞こえる俺にはバレバレだ


「お手を治しますね。治療魔法は師匠より得意です。お任せを」


魔女の……違った、お嬢様の目の前に跪き治療魔法で治す

やっぱり怪我してたな

師匠では治せなかっただろう……闇魔法の影響が強すぎて呪いになってたぞ


親の仇を見るような目のお嬢様の手を握りながら、なるべく優しく語りかける


「ベアトリーチェお嬢様。いや、ベアト。おかしいと思っていたんですよ?パーティーでも無いのに手袋だなんて。外ならまだ日焼け対策かと思いましたが、室内では怪し過ぎます」


『ベアト……家族以外で初めて呼ばれた……ベアトって……』


握られていない右手でパタパタ扇を振るお嬢様


「ベアト?私の為にお弁当を作ってくれたのは嬉しいです。でも、そのせいで怪我をするなんて私には耐えられません」


ここまでは順調だ、後は兵器作りを諦めさせれば!


「ですから、お弁当はもう作らないで良いんです。いや、私の為に作らないでください!私を助けると思って……私の事が大事なら、お願いします。これ以上は……私は……耐えられません!!」


俺は気が付いたら泣いていた……師匠も泣いていた

心からの涙だ


「わかりましたわ。まったく、男子たるもの簡単に涙など見せてはいけませんわ」

『ゼスト様……泣く程わたしが心配だなんて……これ以上心配させてはいけないわね!』


ゴキブリを見るような目のお嬢様が、ハンカチで涙を拭いてくれるが師匠は無視されている

師匠、そのような顔しないでください……今大事なところなんで


良い匂いだ……跪く俺にお嬢様が至近距離で正面から涙を拭いてくれているのだ

ドレスの胸元がチラチラ飛び込んで来る


素晴らしい役得だ、この程度の飴が無いと心が折れる


お嬢様、意外と胸があるな……Dカップくらい有るか?うん、Dだな!









「まったく心配性なゼスト様ね。そうですわ!交換日記を書けば心配事も減りますわね!」

『これ以上心配させてはいけないわね!交換日記をすればゼスト様も安心ね!』









DカップのDは、デス(死)のDだったようです


お嬢様、優しさが辛いです……死ぬかも知れません


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