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異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第三章 調停者
183/218

182 ドワーフ王国からの使者

「落ち着きました。もう大丈夫です」


まったく大丈夫じゃなさそうな目をしたニーベルだが、本人がそう言っているなら仕方ない

あまり突っ込んでもかわいそうだろうし


「それで、あの黒い球体は何だったのだ?」


戦乙女部隊も兼業しているメイド達が用意したお茶を一口飲んでニーベルが語る


「アレはかつての魔王が使っていたと言われる『降魔の杖』ですね。使用者の周囲に闇属性の魔力場を作り出した後、光属性の追尾魔力弾を発射する凶悪な武器です」


さらっととんでもない事を言い出したな

……それって、一人で大軍を相手に戦えるんじゃないか?


「お察しの通り、最初の闇属性で周囲の者を。次の光属性で中・長距離の者を始末出来る恐るべき武器です。まあ、連続で使おうと思えば膨大な魔力が必要になりますが……」


言ってる事は理解出来るし恐ろしい内容なのだが、素直に驚く事が出来ない

用意されたお団子が気に入ったらしくパクパク食べながら説明しているからだ

口の周りがアンコだらけになっている彼は真顔で続ける


「アレが相手ではさすがのゼスト大公でも苦労すると思いましてね。それで私達が来たのですが……どうして、途中で消えたのか……」


腕を組んでウーンと唸っているが、彼の悩みはおそらく降魔の杖の事では無いだろう

察した俺はメイド達に声をかけるのだった


「……ニーベル殿にお団子のおかわりを多めに用意せよ」

「かしこまりました」


「ママ上のお団子はおいしいから仕方ないのじゃ」

「その通りですね、カチュアお姉様」


作戦会議という名前のお団子お茶会はそのまましばらく続く事になるのである



「ゼスト閣下、ドワーフ王国より使者がまいりました」


ニーベルがアンコときな粉で口の周りが魔物のようになった頃にそう言われる

一応、会議らしくそれなりの情報は聞いていたのだが結局は『どうしてあの魔力が消えたのかはわからない』という事しか判明していない

その状態で使者が来たならばニーベル殿にも同席してもらった方がいいだろう


「では、ここに通せ。ニーベル殿は対外的には私の客分でよろしいか?」

「ええ、それで結構です。同席いたしましょうとも」


辺境伯達をチラ見すれば頷いている

魔族も巻き込んで対応しろって事だな


「使者との対応中は私が最上位者として対応します。ニーベル殿もそのようにお願いしたい」

「魔族があまり表舞台に出るのは避けたいですから。それで結構です」


メイド達に口の周りをごしごし拭かれながら答えるニーベル

後でお土産に少し分けて欲しいって……それ、今じゃなくてもいいですよね?

魔族って甘いものが好きなのだろうか?

思わずジト目で彼を見ていると、天幕に兵士の声が響く


「ドワーフ王国のご使者殿、いらっしゃいました」

「入れ」


俺の代わりに辺境伯がそう応えると、兵士に先導されて恐る恐るといった感じで小柄な女性が入ってくるのであった


「お、お初にお目にかかります。わたっ、私はどどど……」


涙目で震えながらどもっている彼女

身長はカチュアやアナスタシアと同じ程度だろうか?

小柄だが胸はそれなりに大きい……娘二人が親の敵を見るような目で胸をガン見している

女の子がそんな目をするんじゃない


「どど、ドワーフ王国の使者としてまいりました。ミラと申します。ほっ本日はお日柄もよく……」


ミラと名乗った彼女はドワーフ族なのだろう

赤茶色のふわっとした髪の毛は緩いウェーブがかかっており、肩口で切り揃えられている

顔は童顔で、大きな目が愛くるしい女性だ


「ミラ殿、前口上はそのくらいでよい。使者の目的をお聞きしようか」


明らかに緊張している彼女に気を遣って辺境伯が声をかける

このままにしておくと挨拶で2時間以上かかりそうだもんな

改めて彼女を見る

戦時中の使者らしく皮の鎧姿だが、明らかに文官だろう

真新しい鎧にはキズ一つ無く新品だし歩き方や雰囲気が武官のそれではない


「はっ、はい。この度、ドワーフ王国はゼスト閣下に無条件降伏したくお願いにまいりました!」


シーンと静まり返った天幕の中

俺は言われた事を頭の中で必死に考える

……ん?要は停戦の使者なのだろうか?


「ああ……使者殿。ミラ殿だったか。それは停戦の申し出という事かのぅ?」


いち早く復活した辺境伯がそう質問した

うんうん、俺と同じ結論に達したらしいな


「いえ、停戦ではなく無条件降伏です」


申し訳なさそうだが、ハッキリとミラはそう言い切った

こいつ、意味がわかっているのか?


「ミラ殿。無条件降伏の意味が理解出来ているのか?無条件降伏となればドワーフ族は全員奴隷とする。そんな事を言われても文句は言えないのだぞ?」

「はい。その通りです。そうなっても仕方ないと考えております」


思わず口から出た俺の言葉に頭を下げてそう答える彼女

これはただ事ではない

通常なら降伏するにしてもある程度の条件を付ける

例えば『王族の保護』であったり『保有兵力の数』であったりだ

それらを文官達を交えて調整して文面を作ってサインを入れるというのが普通の流れである

それが無条件降伏となったら『あなた達の言う事は全て聞きます』って意味だ


「ふむ。そんな大事を失礼だが貴公が使者として伝えるというのはどういう事かな?」


絶賛混乱中の俺の代わりに辺境伯がそう尋ねる

まあ、そんな内容なら国王が来るのが普通だろう

なのに彼女はミラという名前しかない平民……つまりそんな大事な事を伝えるにしては格が低すぎるのだ


「おっしゃる通り、本来ならば王族の方や上位貴族の方がこのお話をするべきなのですが……誰も居ないのです」


泣きそうな顔でそう告げる彼女

俺達はその意味が理解出来ずに居た

何だ?彼女は何と言った?


「居ない……とは、どういう意味だ?」


やっとの思いで俺がそう絞り出すと、彼女は涙を流しながら口を開いた


「先ほどの黒い魔力の球体。アレに巻き込まれて我が国の幹部全員が消えてしまいました。生き残ったのは我々のような下級文官とわずかな武官だけ……最早、どうにもならないのです!」


それまで我慢していたものが崩れたのか、ウワーンと声をあげて泣き出すミラ

どう反応すればいいのかわからない俺達にニーベルがぼそりと呟いたのだった


「ああ、降魔の杖は発動に大きな魔力が必要ですから上位陣が集まって起動したのでしょうね。しかし最初に発動する闇属性は持ち主でさえ巻き込みます。それを防ぐ為の魔王の鎧なのですが……どうやら誰も着ていなかったのでしょうね。着ていても助かるのはその本人だけですから意味はほとんどありませんがね、はっはっはっは」


空気を読まないニーベルの笑い声と内容で、ミラは更に泣き出す

そりゃ、自分の国の上層部が自爆で滅亡しましたとか悪夢である

俺だったら恥ずかしさで引きこもるだろう


「と、ともかくその申し出はわかったが直ぐには返答出来ない。こちらでも少々調べさせてもらうぞ?」

「は、はい。それはそうでしょう。ですが城塞都市の内部は混乱状態でどうしようもありません。城門は解放しますのでよろしくお願いいたします」


そう返事をして帰ろうとする彼女を引き留める


「待て。まだ話は終わっていない。城門が解放されたら下見の部隊を入れて貴公の話が本当なのか調べる。その後、本隊の我々が入ろう。だが貴公が現在の責任者で混乱状態ならば護衛が必要だろう?」

「そ、そうでした。そうしていただけるなら助かります」


「それにこの話が謀略であり、城塞都市の中で我々を一網打尽にする策であると思われても仕方ないというのは理解しているな?」

「はい。確かに信じられないような恥ずかしい話ですし……」


そこまで理解出来るならいい

彼女にはいろいろと働いてもらおう


「では、これからの流れを伝えよう。まず貴公は私の部下と一緒に行動してもらう。護衛の為と思ってくれ」

「はい」


「まずは城門の開放だな。四方の城門を開放してもらう。我々の部下が内部に入り確認させてもらおう……ターセル、一日で可能か?」

「可能です」


音もなく俺の隣にスッと現れた黒装束

ビクンとミラが身体を震えさせて驚いていたが、実は俺も少し驚いたのは内緒だ


「よろしい。ではアルバートとソニア卿に彼女の護衛をお願いしよう。城門前まで行って貴国の兵達にその事を伝えて欲しい」

「はい、かしこまりました」


「伝えたら一旦ここまで戻ってくれ。貴公を城内に返すつもりは無い。よろしいな?」

「もとより覚悟はしておりました」


かわいらしい顔が悲壮な表情に変わってしまう

だがこれは仕方ない処置だろう

辺境伯達にこれでいいのか視線を送れば頷くのが見える

よし、合格のようだな


「では早速だが……」


難しい話についていけない置物になっているアルバートにそう声をかけようとした時、天幕に兵士が転がり込んできた


「緊急!グリフォン王国王都にて謀反!反獣王エレノーラ派の貴族が集結中との事!」


はぁはぁ息を切らせた兵士の言葉に俺達は何も言えない

このクソ忙しい時に何て面倒な……

重苦しいような面倒なような空気の天幕で、彼の口が久々に開くのだった


「閣下、要するにドワーフ王国の者達は自分の武器で自爆したのでしょうか?」


天幕内の全員が生暖かい視線を向ける中、アルバートは今日も平常運転であった

……お前、ようやくそこを理解したのか……そうですか

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