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異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第一章 帝国黎明期
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17 弁当というナニか

女の子が作ってくれたお弁当


それは全てのお一人様の憧れで男性でも女性でも、自分に好意を寄せる相手にそれを貰うことはある種のステイタスである

勿論、俺は貰った事はなかった……


そう、過去形だ


今まさに貰っている最中だ、何故か嬉しくはないがな


「ベアトリーチェお嬢様、このような場所にようこそおいでくださいました」


慇懃に頭を下げる

主家のお嬢様だから失礼は許されない


それをゴミクズを見るような目で見たお嬢様は、汚ならしいモノを振り払うように扇をパタパタ振りながら


「まったくですわ。このような野蛮な場所など初めて来ましたわ」

『危ないから近付くなと言われていましたが、ゼスト様に会いたくて皆を説得してきましたの』


よく聞こえますよお嬢様、今日も言ってる事と心の中は正反対ですね


なんだ?何故かだんだん近付いてくる


扇を閉じそれで俺の顎を持ち上げながら、お嬢様は満面の辺境伯笑いである

相変わらず狂人の笑顔ですね、お嬢様


「ほら、わたしのドレスがホコリだらけですわ。誰のせいかしら?」

『ゼスト様に久しぶりに会えたのに反応が悪い……いえ、まだ婚約を知られる訳にはいかないから仕方ないけど……わたしの事、構ってくれないのかしら』


いえ、お嬢様……俺は頭がいっぱいなんですよ

そのメイドの手に有る禍々しいバスケットに……


「これはご無礼致しました。お嬢様、あちらには芝生の場所がございます。そちらでホコリを落とし、暫し私とお話しするお時間を頂戴出来ませんか?」


スッと手を差しだすと、お嬢様は苦虫を噛み潰したような顔で手を取り何故か指を絡めてくる


恋人繋ぎである


「だ、誰だよあの怖そうな女は」「止めろ!辺境伯家のお嬢様だぞ!」「あ、あの威圧感の女と平然と……」「……ご褒美だな」


最後のセリフを言ってるのはアイツか……覚えたからな

アイツは危険な……あ、師匠にぶっ飛ばされた


「わたくしあまり時間が有りませんの。それにあなたと直に手を繋ぐなどあり得ませんわ。まあ、この手袋の感触を有り難く感じることですわ」

『速く芝生に行かなくちゃ!せっかくのチャンスに手袋だなんて……悔しいからメイドに聞いた恋人繋ぎで向かいますわ』


繋いだ手をブンブン振りながら速足で歩くお嬢様

しかしながら、本当に損してるよなこの子


闇魔法の天才だからこそ、その影響で言動が悪く見えてしまうお嬢様

だが光魔法で本心が丸わかりの俺には、ただの可愛い女の子なんだよな……



ちょっと思いを込めると闇魔法が発動したりするけれど、そこもまた可愛いものである



そう、思っていた時期も有りました



「さあ、恵んで差し上げますわ」

『お弁当、喜んでくれるかしら』



それはまさにパンドラの箱……いや、バスケットか…


メイド達が用意した簡易なイスとテーブル

そのテーブルの上にやつは現れた



一般的にはサンドイッチと呼ばれている、具材をパンで挟んだ料理

野菜を食べやすい大きさにしたサラダとグラスに注がれた飲み物



どうだ?普通だろ?それだけ聞いた人は普通と答えるだろう

初めてのお弁当としては充分……いや、むしろナイスチョイスである


だが俺は鑑定魔法を使いながら震えていた


『鑑定結果 殺傷兵器 属性 闇』



「これはこれは……素晴らしい腕前ですね」


嘘は言っていない



赤黒い何かを挟んだサンドイッチのような兵器を手に取ると鳥肌が立った


光魔法で全身くまなく強化する

チラリとお嬢様を盗み見るとじっとこちらを見ているな、逃げられない

後ろに控えるメイドが涙を流しながら声を出さずに口を『申し訳ございません』と繰り返していた


行くしかないな……


意を決してかぶり付く



まず感じるのはザラザラとして不愉快な舌触り、そして鮮烈な生臭さ

なかなか噛み砕けない硬い何かに時折襲い掛かるエグい苦味

それらに気を取られ、光魔法の制御が甘くなると脳天に響く痛み


大量の魔力で兵器を口の中で消滅させる


「素晴らしいですねお嬢様」


素直な感想である

一瞬でも油断すると一気に命の危険な素晴らしい兵器だ


「当然ですわ。そんな当たり前の事しか言えませんの?」

『良かった!気に入ったみたい!』


その後も噛む度に悲鳴を上げるサラダを食べたり、グラスを傾けてもこぼれない謎のドリンクをスプーンで削りながら食べた


途中からメイド達に連れられたソニア師匠も参加させられていたが親の責任だそうだ



辺境伯家の誇る、二人の偉大な魔法使いにより悪夢は潰えた

恐ろしい兵器だった……


メイド達よありがとう、一人では勝てなかったよ










「さあ、デザートですわ」

『さあ、デザートですわ』









「なん……だと?」

「なん……だと?」




お嬢様の声と心の声

俺の声と師匠の声


綺麗にハモった瞬間だった……むしろ死にたい


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