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異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第三章 調停者
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178 カチュアの生い立ち

「とりあえず使者を出して待たせておけ。準備をするので待っていろでいいだろう。それと相手の名前だな。可能ならば魔道具で記録してこい……無理はしなくていいぞ」

「はっ!かしこまりました」


伝令の兵士が出ていってからカチュアに促す


「さて、話を聞こうか。お前の一族からの追放者だったか?」

「はいなのじゃ。あれは数百年前……わらわがまだ幼い頃の事なのじゃ……」


アナスタシアに付き添われて話し始めるカチュア

涙も止まってきたのだろうか、落ち着いた雰囲気でゆっくりと始めた


「エルフの特徴として長い耳。そして金髪というのが外見の大きな点なのじゃ。しかしわらわは見ての通り赤毛……エルフでは忌み嫌われる呪われた色なのじゃ」


呪いか……髪の毛の色で呪いがあるなら、全くない皇帝陛下はどうなるのか

いや、今はあるか……しかし、閉鎖的なエルフらしいとも言える

この辺りはどこの世界も一緒か


「もし赤毛の赤子が産まれたら、すぐに森の奥深くに捨てる。森の魔女の生贄としてそうするのが習わしだったのじゃ。わらわも当然、捨てられた」


捨て子か……俺と同じだな……

まだ理由がハッキリしているカチュアの方がマシなのか?それとも不幸なのかはわからないが


「捨てられたわらわを育ててくれたのは森の魔女だったのじゃ。森の奥深くに住む魔女の正体は、口減らしの為に捨てられた少年少女達や老人なのじゃ」


口減らしね……食べ物が無く生活が厳しいから子供や老人を捨てるか

これも昔は日本でもあった事だろう

生きていく為の行動はどこの世界も同じか


「エルフの国でも辺境のど田舎ではそんな事が普通だったのじゃ。わらわが居た頃は全部で3人だったのじゃ。老人二人とわらわだけ。一時は10人以上居たらしいが、その時々で人数は変わるからのう」


増えるより減る方が多かった……それだけ厳しい生活だったのだろうな

それでもなんとか生き残っている者が居たなら奇跡だ

しかし、老人二人ではなぁ


「森の奥深くは魔物がゴロゴロしておるのじゃ。定住は出来ないから、隠れながらひっそりと暮らしておったのじゃ。あの者に出会うまでは」


そう言って俺を見るカチュアの目は、懐かしいものを見る優しい目をしていた


「ライラック聖教国の創始者。異世界人の治療魔法使いなのじゃ」


アナスタシアがピクンと反応する

要は彼女のご先祖様なのだから当然だ

ここで異世界人が出てくるとはな……手元のカップには、もう紅茶は残っていなかった



「さて、どこまで話したかのう。そうなのじゃ、あやつに出会ったところか。わらわが12歳の頃だったのじゃ」


一旦、紅茶を入れ直して彼女の話が再開する


「その当時のあやつはアナスタシアよりも幼かったのじゃ。10歳くらいだったかのう?」


10歳!?伝説の治療魔法使いが!?

そうか……この世界に来た時点では子供だった可能性は確かにある


「いつものように森を移動しておったら異常な魔力を感じたのじゃ。膨大な光属性の魔力をなのじゃ。魔物では光属性は持てぬ、じゃから警戒しながらもそこへ向かうと男の子が泣いておった」

「それが初代の教皇猊下……ご先祖様だったのですか?」


「うむ。落ち着いてから話を聞けばどうやら異世界人。わらわ達の状況を説明すると、とんでもない魔力であやつは彼女を生み出したのじゃ」

「……ガーベラ……ですか?」


「ああ、そのおかげで魔力はガクンと減ってしまったがのう。食べ物を出してくれるガーベラには本当に助けられたのじゃ」


老人二人と子供が二人でさまよいながらの生活

その中にあのガーベラが居たらそれは便利だっただろうな

だからこその冷蔵庫か……子供だからこその大胆さと発想の柔軟さだな


「それからは一緒に暮らすようになったのじゃ。魔力が減ったとはいえそこらの大人のエルフにも負けない魔力だったのじゃ。そのあやつとわらわが一緒なら定住しても危険は無い。しかも食料は魔力を少し使えば出し放題なのじゃから」


残っていた紅茶をグイッと飲み干すカチュア


「後は伝承の通りなのじゃ。数年後、亡くなった親代わりの老人二人を弔い、大人になったあやつと旅に出たのじゃ」

「それが伝説の治療魔法使いの始まりか……」


「そうなのじゃ、パパ上。後年、わらわを捨てた……赤髪の赤子を捨てていた村は魔族に消されたのじゃ。地方の愚かな風習なのじゃ。調停者の罰だったのじゃろうな……しかし子供は許されてドワーフ王国へ行かされたと聞いたのじゃ……」

「その本人か子孫が一騎討ちを望んでいる者……か」


「正直、逆恨みもいいところなのじゃがどうしても……あやつとの思い出もある事じゃし、わらわが決着をつけるのがスジだと思うのじゃ」

「カチュアお姉様……」


「ふふふ、しかしあやつの子孫と姉妹になるとはのう。長生きした甲斐もあったのじゃ」


そう言いながらアナスタシアの頭を撫でるカチュア

懐かしそうな……何かを思い出すような目が印象的だった


「じゃから、パパ上。この一騎討ちはわらわに!」


こんな話を聞かされた後にこう言われたら断れない


「わかった……だが、お前は私の娘だ。娘に用があるなら父親を通してもらわないと困るからな。場合によっては私が出る」

「な!?パパ上、総大将が出ては……」

「閣下、それならば私が先に出るのが……」


「私が見て勝てそうな相手ならカチュアの好きにしろ。だが危険と判断したらアルバート、貴様がやれ。それでも危なそうなら私がやるぞ」

「いやいや、パパ上。それでも総大将が一騎討ちというのはマズイのじゃ」

「はっ!このアルバート、必ずや敵将の首を取って見せます!」


若干もめる俺達を見て、辺境伯達は苦笑いだった


「婿殿ならそう言うじゃろうのぅ」

「まったく親馬鹿ですね。貴族としての教育が足りなかったかもしれませんね」


師匠の発言に、その場の全員が『お前が言うのか』という視線が集まる

ここまできてシリアスさんの気配が薄れてきている

そんな俺の予感は正しかった


「伝令!一騎討ちを望んだ敵将、メディア卿が討ち取りました!!」


水を打ったような静けさとはこんな様子を言うのだろう

先程まで俺に食い下がっていたカチュアはピクリとも動かない

あのアルバートでさえ固まっていた

息切れしている兵士の荒い呼吸音だけが響く中、どのくらい時間が過ぎたのか

既に呼吸が整っている兵士が申し訳なさそうに続けた


「い、一騎討ちは戦場の華とメディア卿がこれに応じて対戦。見事、一刀で討ち取りました……」


最後の方は消え入りそうな大きさの声である

気持ちはよくわかる

この状況ではそうなるのも仕方ない事だろう


「ご苦労。下がってよい」

「は、はっ!」


ようやく絞り出した俺の一言で逃げるように出ていく兵士

また身内だけになった天幕に、カチュアのすすり泣く声だけが響くのだった


「長々と自分語りをして、さんざん引っ張って一騎討ちを望んで……その挙句がこれとは……うう、このような恥ずかしい目に遭うのは初めてなのじゃあああああああああああああああああああ」

「か、カチュアお姉様、しっかりなさってください!そうだ!私もアルバートに裸にされた事がありますから平気です!恥ずかしくありません!」

「そうですとも、カチュアお嬢様!致命傷で済んでおりますとも!」


「致命傷なのじゃああああ、いっそ殺せなのじゃあああああああ!」

「お姉様!アルバートの言葉をそのまま受け取ってはいけません!」

「その通りです!以前それでゼスト閣下がカタリナ卿と密室で呼吸を荒げていた件で叱られましたから!」


この二人は悪気は無いのだろう

お互いに地雷の上に両足で飛び乗っている事に気が付いていないのだ


「アルバートよ、アナスタシアを裸にしたじゃと?ふぉっふぉっふぉ、面白い話じゃのぅ」

「ゼスト、部下と楽しそうな事をしているようだね?遺言はあるかい?」


素敵な笑顔でアルバートの首を掴む辺境伯と、抜身の剣を片手に近付く師匠

十分に活躍しただろうシリアスさんが旅に出たのを感じながら、魔力強化全開で言い訳をするのだった


……俺もカチュアみたく泣きたいです

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