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異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第三章 調停者
178/218

177 まさかの一手

異世界人の手引き書 書籍版が9月10日発売となります!

WEB版より追加エピソード盛りだくさんですので、よろしくお願いします!

「アルバート卿より伝令!ドワーフ王国の最終防衛線を突破!これより王都の包囲を開始するとの事」

「ソニア卿より伝令!最大の港町を陥落させ、海路の封鎖完了!アルバート卿に合流するとの事!」


「なんと……まだ攻め込んでから一ヵ月もたっていないぞ?」

「あのドワーフ王国があっという間に……」

「戦闘無しで進軍している獣王陛下が追い付けない早さとはどういう事なんだ」


会議室の者達が驚くのも無理はない

まさかここまで早く攻略するとはな

獣王陛下が追い付けないのは好都合だ


「安全に獣王陛下が進軍出来ているのは素晴らしい事だ。最後の決戦には間に合えばいいでしょう?宰相殿」

「ええ、お気遣いに感謝いたします。大元帥殿」


最近は目に光が戻ったエミリア宰相が応える

ベアトから届いた『女の子のお祝い団子』を休憩中におすそ分けしたらこうなった

やはり甘いものを食べながら休憩すると、心の余裕が出来る


「では、ドワーフ王国の王都包囲に合わせて我々も前線に向かいますか。宰相殿も行かれるのでしょう?色々と調整が必要になりますから」

「はい。出来ればドラゴンで向かう大元帥殿に同行させていただければ非常にありがたいのですが……」


「かまいませんよ。グリフォン王国とは協力的な関係にあると思っておりますから」

「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」


わざわざ敵対行動をとっていない彼女達を疎遠にする必要は無いだろう

ここは友好的に協力しておこう


「辺境伯、グリフォン王国の方々も同行するので手配をお願いしたい」

「はっ、大元帥殿。そのようにいたしましょう」


年上で身内の部下という扱いに困る立場の辺境伯だが、だいぶ慣れてきた

人間、環境に適応するように出来ているんだなぁ

そんな事を思っていると、メイド達がお茶の用意をし始めた……恒例となりつつある休憩タイムだ


「ゼスト大元帥閣下、休憩のお時間です。本日は教国より届いたあんみつと抹茶でございます」

「懐かしい組み合わせだな……教皇猊下にお礼の手紙を書いておかないとな」


「緑色のお茶かしら?」

「こっちの食べ物は何で出来ているのかしら?」

「ほほう、抹茶は知っておるがこちらは初めてじゃのぅ」


最初は遠慮していた会議室で共に働く面々だが、近頃はそんな事はない

俺の性格が理解出来てきたのだろうし、女性が多いので甘いものには逆らえないようである

……辺境伯まで甘党だったのは意外だが


「うわぁ、甘くておいしい!」

「この透明なプルプルしているやつ、おいしいわぁ」

「これは……大元帥殿、帰りに土産としてじゃのぅ……」


気に入ったんですね、わかってます


「いつものように土産用も用意させますし、辺境伯には別に用意してありますよ。お義祖父様」

「ふぉっふぉっふぉ、すまぬのぅ、婿殿」


身内だからと甘々な関係では周りに示しがつかないが、仲が良い事はアピールしないとそれはそれで問題になる

この辺のさじ加減が難しいところだな

甘口の飲みやすい抹茶を飲みながら、つかの間の休憩タイムは過ぎていくのだった



数日後、ドラゴンで連合軍の陣地に到着した俺達だがそこにエミリア宰相の姿は無い

彼女は獣王陛下の陣地で先に降ろしてきたからだ

連合軍とは別の陣地……少し後方に布陣している

辺境伯と一緒にドラゴンから降りるとすぐにあの男が声をかける


「閣下、お久しぶりです!城塞都市の包囲網、異常ありません!」

「アルバート、よくやった。大任を見事に成し遂げたな」


「大元帥閣下、お任せいただいた軍勢はアルバート卿の指揮下に戻してあります。お嬢様方はあちらに」

「ソニア卿、見事な指揮だった。娘達が迷惑をおかけしただろうに、感謝する」


包囲中の最前線で各国の兵達が見つめる中、家族扱いは出来ない

あくまでも軍の上司と部下として接する

娘達も気になるが、ここは後回しにするべき場面だ


「早速、天幕へ向かおう。これからの会議を開かなければな」

「お嬢様方にはお会いになりませんので?」


ワザと大きめの声で聞いてくる辺境伯

これはそういう意味なのだろう


「皆が戦場にある中で娘との再会を優先してどうする。そんな事は後回しだ。報告ならばソニア卿に聞けば事足りる」

「かしこまりました、大元帥殿」


そう言って遠くに居るカチュアとアナスタシアを見る

二人とも小さく頷いているので意味はわかっているだろう

さすがに戦場のど真ん中で娘との再会を喜んでは示しがつかないからな

先導するアルバートの後ろを歩きながら、後でデザートを多めに用意しようと思う俺だった



「それで、ドワーフ王国から使者等は?」

「それが少々おかしいのです。降伏する軍がここまで全く居なかったのです。しかも使者すら来ない……」


戦時中は頼りになる男、アルバートがそう言う

確かにおかしい


「それは私の方も同じですね。戦ってもすぐに逃げ出して、捕虜が非常に少ないのです」

「ソニアの方もか。これは婿殿、ほぼ間違いないじゃろうのぅ」


「……この場所までおびき寄せる為の策ですか。ならば移動が難しい兵器かこの場所に絶対の自信があるのか?」

「確かにこの要塞都市は堅牢な造りですし、籠城戦には向いています。しかし、援軍の無い籠城など……」

「愚策じゃのぅ。伏兵を置けるような森も無い。と、なれば何かしらの兵器か大魔法じゃろうのぅ」


「大魔法か、それは想定していなかったなぁ。カチュアとアナスタシアを呼べ。教国とエルフの国の知識が必要になるかもしれん」

「はっ!私が行ってまいります!」


すぐさまアルバートが敬礼するが、それは駄目だ


「駄目だ。ソニア卿にお願いする」

「ふふふ、よくわかっているね。辺境伯のご指導ですか?」

「ふぉっふぉっふぉ、婿殿も慣れたという事じゃよ」


アルバートだけがわかっていない顔なので言ってやる


「この中ではソニア義父上が階級が一番下なのだ。お前は上から二番目……私のすぐ下なのだから我慢しろ」

「平時ならば良い。じゃが、戦時中じゃからのぅ」

「その通りです。そうしないと命令系統が滅茶苦茶になるでしょう?」


身分は下だけど○○様の身内で……なんて戦争中にやってたら話にならない

その個人の身分でハッキリと上下関係を示さないといけないのだ

納得した顔のアルバートの肩を叩いて師匠が出ていく


「しかし、婿殿も立派に貴族としてやっておるようで安心したわい。後はもう何人か子供が出来ればのぅ」

「あの、辺境伯?そこで何で私の子供の話になるのですか?」


「当然じゃろう。貴族として今の婿殿は立派じゃ。しかし、子供が少ないのはいかんぞ?せめて後二人は欲しいのぅ」

「いやいや、それはわかっておりますが……何故、今なのですか?」


やれやれといった表情の辺境伯の答えは非常に納得がいくものだった


「ソニアの前で『ベアトと子供を沢山つくれ』と言えるか?」

「ごもっともです」


あの人はまだ親馬鹿が治らないのか

俺のため息は、三人だけの天幕の中で響くのだった



「お久しぶりです、お養父様」

「パパ上、お元気そうで何よりなのじゃ」


「ああ、二人とも元気そうで良かった。先程はすまなかったな。だが、仕方がないと言う事も理解しているな?」


仲良く二人で天幕に入ってきたカチュアとアナスタシアが笑顔で頭を下げる


「もちろんです。私も女の子のお祝いを終えた一人前の淑女ですから」

「うむ。アナスタシアは立派だったのじゃ」


ここは突っ込んではいけないところである

カチュアは既に済ませているようだが、わざわざ突っ込んだら危険だ

間違いなく面倒な予感がする


「そうか……お、おめでとう。師匠?危険な事はさせないと……」

「ええ。あの程度の相手ならば危険はありません。散歩のようなものですね」


「そうですか」

「ええ、そうですよ」


うむ、全く反省はしていないようだな

何も悪い事はしていないという自信にあふれる笑顔である


「まあ、座って話そうか。色々と聞きたい事もある」


こうして始まった対策会議なのだが、思いもしない結末を迎える事になる

その時は予想もしていなかった事態になるのだった



「それでは事前に何かしらの手段で魔法を発動させる仕掛けはこの周辺には無いという事か」

「更に付け加えるならば、ドワーフ族の特性から考えて移動困難な兵器……それも強力なモノを用意したと考えるのが順当でしょうね。あの種族は手先が器用ですし、魔法は苦手の筈です」


娘達やアルバートの話を聞いた師匠がそうまとめる

この場所に布陣するのに入念に下調べをしたらしいのだ

アナスタシアの光魔法で調べても、カチュアの知識で調べても異常なしだったという

それなら確かに兵器のセンが一番怪しいが、もう一つの可能性もある


「もしくは、この戦自体が陽動かじゃのぅ」


それなんだよなぁ

辺境伯が言ったそれが一番可能性があると思っている

自国の首都をエサにしてどこを狙う?

各国の精鋭が集結しているここは落ちる可能性があるのに、それでも狙いたい場所はどこだ?


「エルフの国や帝国……教国にしても例え首都を狙い落としたとして、自国の首都が落ちたのでは意味が無いし……どこを落とそうというのか」


「婿殿、お主はもう少し自分の影響力を考えた方がいいのぅ」

「まったくですね。この連合軍の総大将は誰ですか?」

「狙うならば一か所しかありませんな。ほぼ、間違いなくあそこでしょうな」


悩む俺を差し置いて、三人は同じ答えでいるようだ

アルバートまで同じというのが納得いかないが


「ははは、まさか……私の領地ですか?」


その言葉に黙って頷く三人の顔は笑っていなかった


「主人は主力と共に遠く異国の地。妻と幼子だけが残る領地。二人を殺せば怒り狂った大公が主力を引き連れて戻って来るだろうのぅ……連合軍を置いてな」

「そして犯人はこう言うでしょうね」


「言わなくてもわかりますよ。『正妻の座を狙う各国の思惑だ』ですか?ドワーフ王国だけではなく、全ての国が協力した策で戦争自体がお芝居だった……ベアトとウィステリアを始末する為の……」


シーンと静まり返った天幕の中

俺が言った事が正解って事だろうな


「あり得る話なのじゃ。普通の貴族相手なら有効なのじゃ」

「そうですね。あのお養母様を倒せるならですが……」


そうだろうな

トトとベアトのセットを襲う?

はっきり言って俺でも危ないと思う

しかも今はラーミア義母上とガレフ養父上率いる黒騎士本隊が一緒なのだ

ドラゴン数匹では返り討ちである


「策としてはあり得るか……ベアトの強さを知らなければな」

「私以上の強さというのは知られていないでしょうからね。娘より弱いと言い切るのもどうかと思いますが」

「むしろそうしてくれた方が楽じゃのぅ。トトもワシより強いからのぅ……婿殿が二人いれば今の大公領地なら落とせるじゃろうが、無理な相談じゃな」


万が一、そうなったとしても心配はない

あのメンツが揃っている俺の館を攻略出来るとは思えない

最悪でもトトがベアトとウィステリアを連れて逃げる程度は出来るだろうし

そんな事を考えていると、荒々しく天幕の入り口が開かれる


「緊急です!ドワーフ王国より『一騎討ち』の申し出がありました!騎士と思われる者が一人、城塞都市の外で立っております!」


緊急事態だから突然兵士が入ってきた事には文句は無い

だが、誰も声が出ない

『一騎討ち』だと?今、この状況で?

軽い混乱状態の俺達に兵士の追撃が入る


「『一騎討ち』の相手はカチュア様を希望するとの事。相手が言うには……その……」

「構わない。ありのままを伝えよ」


「はっ!『赤毛の忌み子・エルフの面汚しを始末してやる』だ、そうです」


確かにエルフで赤毛のカチュアは珍しいのかもしれないが、忌み子ねぇ

何か特別な意味でもあるのだろうか?


「パパ上。もし予想通りの相手なら、わらわが出るのじゃ」

「訳ありか?内容次第では許可するが、戦時中だという事を忘れるなよ。とりあえず話してみろ」


馬鹿にした相手のセリフに怒っているのかと思ったカチュアは泣いていた

彼女の性格的には怒り狂うと思ったのだが、真逆の反応である


「予想通りなら、その者はわらわの一族……昔、追放された者の子孫なのじゃ」


突然、姿を現したシリアスさんの雰囲気に喉がカラカラになっている

泣いている姉を慰めるアナスタシアとそれを見守る俺達

そんな中でカチュアの話が続くのだった

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