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異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第三章 調停者
176/218

175 最初の作戦

「まあ、楽にしてくれ。軍議に礼儀は必要ないからな」


そんな豪快な一言で始まった作戦会議

確かに必要は無いかもしれないが、最低限のマナーは必要だと思う俺は小者なのだろうか?

短いスカートで椅子の上であぐらという破廉恥な獣王陛下の方は見ないようにする


「王都にはライゼル皇太子殿下が留守番をしている。あの者は戦争向きではないから、その方が安心だろう」


俺の威圧と辺境伯達の本気トークでドン引きした皇太子殿下は気分が悪くなり、一足先にお帰りである

正直、俺も早く帰りたい……あの程度で心が折れるなら、アナスタシアの婿にはなれないな


「皇太子殿下が安全なのは良い事です。こういった前線には私のような臣下が居れば事足ります……獣王陛下も王都に戻られては?」


俺の言葉に頷くエミリア宰相だが、そんな事はお構いなしの獣王陛下は元気だ


「何を言う!獣人族の長たる獣王が、戦で先陣に居ないなどあり得ぬ!戦場が私の居場所なのだ!」


当たり前のように言っているが、宰相殿の顔を見れば嘘だとわかる

あからさまに残念なモノを見る目であった


「大元帥殿、獣王陛下の事はグリフォン王国に任せてじゃな、作戦の会議を進めよではないか」

「そうですね。獣人の風習もあるでしょうし、我々からは言えませんからね」


「ふむ。では、戦況の報告を」


辺境伯と師匠のいう通りだな

とりあえず、あの脳筋はほっとこう

砦の兵士が用意した地図には敵軍の配置や兵力が細かく記載されていた


「ご覧のように我が軍が6000。対するドワーフ王国軍は2万以上であります。砦のおかげで持ちこたえておりますが、正直厳しい状況でした」


この砦があるのは、切り立った岩山の一部が玄関のように開いた場所である

国境がここだったというよりも、守りやすいから国境にしたような場所だな

確かにここなら3倍以上の兵力でも支えられそうである


「敵の主力は重装歩兵です。ドワーフ王国自慢の全身鎧を着込んで大盾を持った部隊で、弓の効果が薄く苦戦しております」


「ほほう。噂には聞いた事があるのぅ」

「金属鎧ですか。魔法の出番ですかね?」

「ドワーフ王国の精鋭部隊か……竜騎士団の相手に不足ありませんな」


ヤル気満々な所で申し訳ないが、師匠達の出番は少ないです

アルバート、お前もあんまり出番は無いぞ?


「辺境伯や師匠は投入しませんよ。エルフの国や教国の部隊を使わないとマズイでしょう?」


この辺は貴族の二人だから納得してくれる

問題はこの駄犬だ


「アルバート、貴様もだぞ?お前には指揮官としての仕事があるだろうが」

「ぐっ!か、かしこまりました」


俺の命令には素直に従うだろう

だが、あの垂れ下がった尻尾を見るとかわいそうに思ってしまう


「……今度、たっぷり模擬戦の相手をしてやるから」

「はっ!!指揮官としての任務を果たします!!」


これだから脳筋はやりやすい

問題も解決したし、細かい作戦を……


「ゼスト大公と模擬戦……ゼスト大公と模擬戦……ゼスト大公と……」


今回はもう一匹駄犬が居るのを忘れてた

羨ましそうに見ながら連呼するアイドル衣装の獣王陛下

『獣王陛下とも模擬戦をします』

嫌々ながらもそう俺が言うのは10分後だった

涙目の獣王陛下に耳元でささやかれ続けられ、断り切れなくなったのだ

嬉しいのはわかりましたから抱き付くのは止めてください

エミリア宰相が睨んでますから……誤解されますから……



「ゼスト大公と模擬戦が決まったので私は満足だ。よきにはからえ」


団子を食べながらホクホク顔の獣王陛下

この人は最初からそれが目的だったんじゃないだろうな?

戦争の前線である砦に王が来たなら士気が上がる

だが、陣頭指揮をするほど差し迫ってはいない

援軍である俺達が来たからちょうどいいと……考え過ぎか?


「大元帥殿、思うところはあるじゃろうが今はこちらなのではないかのぅ?」

「まあ、大元帥殿の予想通りかとは思いますが証拠はありませんね」


戦場の地図を指さす辺境伯達も苦笑いしていた

仕方ないな……こっちを先に片付けるか


「敵には我等が到着した事は知られておらぬじゃろう。大元帥殿が得意な電撃戦かのぅ?」

「で、あれば騎兵である教国の聖騎士団と大公軍ですかね?エルフの国の魔導兵団では機動力が問題になってしまいます」

「若干機動力は落ちますが、二人乗りで行動可能です。場所を移動しながら魔法を打ち込みかく乱。その後騎兵部隊の突撃と帰還場所の確保が出来ますから、十分作戦には組み込めるかと」


最後に発言したこいつは誰だ?アルバートに外見は似ているな

……やっぱりアルバートで間違いない

エミリア宰相まで驚愕の表情で見てしまっている

軍事会議になると別人過ぎてビックリするわ


「それも考えれば……こんな作戦はどうだろうか?」


四人で決めた作戦

それはこの世界では初となるだろう作戦だった

……元の世界でも無かったかもしれないのは考えない事にしたよ


「ふぉっふぉっふぉ、斬新な作戦じゃのぅ」

「これをやられる敵軍には同情しますよ」

「さすがは閣下、素晴らしい作戦ですな」

「ゼスト大公はこういった事も得意なのですね」


口々に褒めてくれる辺境伯達とエミリア宰相

会議室で残っているのは獣王陛下だけである

全員の注目が集まっているのを感じたのだろう陛下は立ち上がり、その口を開いたのだった


「よきにはからえ」


アンコを口の周りにくっつけた獣王陛下のお言葉により、作戦が了承された瞬間である

……そうだろうとは思ったよ

本当に内容を理解しているのだろうか?

そんな不安をよそに、作戦は決行されるのだった



「諸君。これより作戦を発表する。ゼスト大元帥閣下に注目!」


砦のグリフォン王国側に集結した婚活遠征連合軍

もうこの名称には慣れた……カチュアの命名である

数千名にもなる各国の精鋭部隊がズラリと整列していた


「諸君!各国から選りすぐられた精鋭の諸君!今回の大戦の主役は貴公達に決まった。竜騎士部隊は輸送と偵察等を担当するので主力とは言えない」


ざわめく兵達をゆっくりと見回して続ける


「まずはこの場でドラゴン達のブレス一斉射撃の後に、騎兵部隊の後ろに同乗してもらい全員で突撃を行う。敵陣は横に広い。一気に最後方まで抜けた後に同乗者を下ろして反転。再度、突撃を行う」


全軍突撃

そう聞いた兵士達の表情は満面の笑みだった……脳筋共め


「その反転突撃に合わせて砦からも打って出る。好き放題に蹂躙すると良い。深追いは禁物だ!合図が上がったら砦に引き返すように!」


「「「「おおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」


凶悪な笑みでテンションが最高潮と思われる脳筋達

だが、この後の一言で更にボルテージは上がってしまう


「この戦を早く終わらせれば、婚活の時間を増やそう。嫁が欲しい者・夫が欲しい者……お前達の活躍次第で本国と話をつけてやる。身分も出身も関係なく相手を探してやるから励めよ!!」


「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」」


「嫁……とうとう嫁をこの手に!」

「強い夫!私よりも強い夫!」

「関係なく……性別も何とかしてくださるわ!皆、ここが勝負所よ!」


ドラゴン達もビビる気合の入り方である

目が完全にマジだ

俺も軽くチビッたのを誤魔化すように魔力を全開にした


「門を開けろ!ドラゴン達、上空から思いっきりブチかませ!!」


「「「「「グオオオオオオオオオオオオン!!」」」」」


久しぶりの全開ブレスを大喜びで撃つトカゲ共

ズドーーンという重い音が地響きを立てて轟く中、それに負けないように魔力強化して大声を出す


「全軍突撃!ドワーフ共など蹴散らして来い!!」


砦の上に移動した俺の指示で、土煙が収まらない中へと突撃していく兵士達


「黒騎士が一番槍を貰うぞ!」

「戦乙女部隊の意地にかけて負けるな!」

「ウィステリア様の為にも他の部隊に遅れるな!」


後ろにエルフの国の魔導兵団を乗せた脳筋騎馬部隊が、先を争って突撃していく

ここまでは予定通りだった


「お、お待ちくださいなのじゃ!いけませんなのじゃああああああああああ!」

「お戻りください!あああああああ、あなた達も付いてきなさい!」


血相を変えて騒いでいる娘二人が、騎馬を操って敵陣へと走っている

何だ?お前達は砦の上で待機だろうが

そう言おうとした瞬間、まさかの声が……いや、想定するべきだった声が聞こえてくるのだった


「はっはっはっはっは、獣王エレノーラここにあり!かかってこい!」


辺境伯と師匠も口をポカーンと開ける中、そんなセリフが響いたのだった


「あ、アルバート!!我等も出るぞ!!」

「はっ!こちらのドラゴンをお使いください!」

「ソニア!お主も行け!ワシは魔法で援護する!」

「アルバート、私にもドラゴンを!」


慌てて準備をする俺達に、正座したエミリア宰相の謝る声が延々と聞こえてくる


「申し訳ありません。お怒りはごもっともです。私で出来る事でしたら何でもいたしますから、どうかお姉様を……お姉様を……」


泣きながら繰り返す宰相

その後ろで同じく頭を下げる獣人族のメイド達

責任を感じているのだろうが、今はそんな事をしている時間は無い


「では紅茶でも用意して待っていてください。その程度の事ですよ」


我ながらカッコイイと思う……これは決まったかもしれないな

背中に尊敬の眼差しを感じながらバルディッシュをアルバートから受け取る

戦力的には難しい事ではないからな

俺とアルバートと師匠が行くのだから負けようが無い

更に辺境伯の支援があるなら散歩のようなものだ

素早く獣王に接近出来れば任務完了の楽な仕事だ


軽くドヤ顔でドラゴンの背中に乗り込むと、そんな俺をあざ笑うような

せっかくカッコつけたのが馬鹿らしくなるような事が起きたのだ


「確保おおおおお!獣王陛下を確保したのじゃああ!」

「動かないでください、獣王陛下。折れますので」


「わかった、動かない。動かないから緩めてくれ!!」


戦場の土煙が晴れると、巨大な真っ黒な炎の檻に閉じ込められた獣王陛下がアナスタシアに腕を極められていた

後ろ手に極められて立っている獣王は動けないだろうし、あの檻の中なら安全どころではない

近寄ったら消し炭である


やる事が無くなってしまった俺はゆっくりとドラゴンから降りる

誰ともなく呟くのが精いっぱいだった


「今日はこのくらいで勘弁してやろう……」

「さすがは閣下ですな。自ら動く事なく解決するとは……このアルバート、感服いたしました!」


アルバートの純粋さが逆に辛い

恥ずかしさをこらえて立っている俺の足は、小刻みに震えていたかもしれません

……違う意味で、もう帰りたいです


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