表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第三章 調停者
173/218

172 連合軍結成

「パパ上、そろそろ許してやろうと思うのじゃ」

「そうですね。寛大な心も必要です。一晩眠って少し落ち着きました」


「そ、そうか」

「おうおう、二人は優しいのぅ」


何やらジジ馬鹿の辺境伯はニコニコと褒めているが、優しい娘は一晩中正座などさせないだろう

野営とはいえ物資はたっぷりと用意したからキャンプのようなものだった

しかし、失言をした師匠は別だ


「ソニアパパ上も、一晩あそこで正座しておれば反省したじゃろう」

「そうですね、カチュアお姉様。あ、ラザトニアお義祖父様、お茶のご用意をいたしますね?」


「ふぉふぉふぉ、アナスタシアは気が利くのぅ。辺境伯家に娘として……冗談じゃ婿殿、そんな顔をするな」

「そうではなくですね……辺境伯がお爺様でソニア師匠がパパ上というのが気になりまして。曾祖父と祖父ですよね?ひいおじいちゃんとおじいちゃんですよね?」


「ラーミアにこの二人が素直にお婆様と言っても良いと?」

「このままでいきましょう。ええ、そうしましょう」


もめ事は勘弁してもらおう

ただでさえ面倒続きの中で俺は頑張っているのだ

こんな些細な事で回避出来るなら、呼び方程度何でもいい

むしろそうして配慮してもらえたなら助かる


「それより朝食にしようかのぅ。ソニアも呼んでやろう」

「そうですね。アルバート!」


「はっ!かしこまりました」


『反省中』と書かれた紙を貼りつけられた師匠が姿を現したのは、それから数分後の事だった

ドラゴンの背中で一晩中正座、お疲れ様でした師匠



「ゼスト、娘は多いと多いで苦労もあるのですね」

「分かっていただけましたか。私も大変なのですよ」


そんな愚痴を言い合っていると、我が軍はライラック聖教国との国境へと到着する

……これは進軍なのか?ピクニックじゃないのか?

そんな俺のお気楽な気分は、ここでサヨナラする事となる


「ゼスト聖父猊下!我等聖騎士団3000名、猊下のご指示に従います!」

「エルフの国より、補給物資をお届けにまいりました。後続で魔導兵団2000名、ゼスト閣下の指揮下に入るようとの国王陛下よりお言葉を賜りました!」


ライラック聖教国の精鋭部隊である聖騎士団と、膨大な量の補給物資が目の前に現れたのだ

あの冷蔵庫は主力の大部分を寄越したのか……

更にエルフの国の虎の子である魔導兵団が加わる

もう、何も怖くないな


「もう、婿殿は寝ていてもいいのぅ」

「ゼスト、大陸中を敵に回しても勝てそうな戦力だね」


ボソッと呟く辺境伯と師匠だが、本当にその通りだ

これはある程度こいつらに任せるべきか

国のメンツもあるだろうから、仕事をさせない訳にはいかない


「うむ。皆の働きに期待する」


「はっ!我等ライラック聖教国はウィステリア様と共に!」

「エルフの国はゼスト閣下の為ならば、どのような支援でもいたします!」


こうして、古の魔王討伐以来となる数か国による連合軍が結成される事になった

その総大将は俺か……胃が痛くなってきたな


「多国の連合軍とは、わらわも初めて見るのじゃ。確か魔王討伐のとき以来ではないかのう?」

「カチュアお姉様は博識ですね。そんなに昔の事をご存じなのですか?」


「……き、聞いた話なのじゃ」


嘘をつくな、お前経験してたんじゃないのか?

そこを問い詰めたいが、今はそれよりもシャレにならない規模になってきた陣容の方が心配だ

命令系統は俺を頂点とする事には納得してくれているから、だいぶ楽だがな

思ったより大事になってきた事態に現実逃避しながら、規模が大きくなった俺達の行軍は続く



「アルバート卿、我等の陣形はこれで構いませんな?」

「ああ、それで結構です。エルフ達の魔導兵団の射線には入らないように注意してください」


「アルバート閣下、輸送部隊が到着いたしました!」

「分配はこちらでするから、一か所に集めていいぞ」


テキパキと指示を出すアルバートを、何か得体の知れないものを見る目の娘達


「お前達、なんという顔だ」

「ぱ、パパ上!あれは誰なのじゃ!?」

「お養父様、アルバートに悪霊でもとりついたのでしょうか?」


酷い言われようだが仕方ない

あのポンコツがこんなに働いているのを間近で見たらこうもなる


「アルバートは昔から軍事関係の手腕は確かですよ」

「辺境伯領地に残っておれば黒騎士の隊長になっただろう男じゃからのぅ」


その言葉に、今度は娘達がアルバートに尊敬のまなざしを向けるという奇跡が起きる

いつもより3割増しのキリッとした顔のアルバートが、メモ用紙を片手にこちらに歩み寄る


「閣下、こちらをご覧ください」


手渡された紙には各国からこの戦いに関しての手紙や寄付金の内訳が書かれていた

『○○国△△卿より金貨100枚 手紙あり』こんな感じでだ


「おお、ここまで整理されているなら楽だな」

「うむ。優秀な者が居るようじゃな」

「後は礼状を返してそれなりの贈答品を送ればいいでしょうね」


辺境伯達もそれをのぞき込んで頷く

この用紙はカタリナか?いや、マリーかもしれないな

なかなか使い勝手がいい


「これがどうした?わかりやすいではないか」


俺が返した紙を受け取ると、アルバートは大真面目な表情で言ったのである


「はい。ですから、これから返礼の品物を作らなければなりません。一人では限度がありますのでどうしようかと……」


「……なに?」

「作る?」

「アルバート、お主は何をするつもりじゃ?」


震えそうになる声を何とか絞り出した俺達の目の前に、彼は懐から豪華なフサフサの付いた棒を取り出した


「返礼と言えばこれでしょう。犬獣人族に伝わる秘伝の犬じゃらしです」


最早、声も出ない俺達の前で揺れる犬じゃらし

金貨のお礼にこれが届いたら、俺ならブチ切れる自信がある

三人とも突っ込めない凍った時間の中、後ろの娘達から冷静な分析だけが届いたのだった


「よかったのじゃ。いつものアルバートが帰ってきたのじゃ」

「アルバート、おかえりなさい。これで安心出来ました」


犬獣人の深い闇をまた覗いてしまった出来事である



そして一週間後、珍道中の末ようやく獣王の居る国であるグリフォン王国の国境へとたどり着く

この間、いろんな事があったな……思い出したくもない

妙に多国の軍属にもなつかれたと思っておこう

そんなとき、こんな声が聞こえてくる


「こんな所にも追手が!」

「これまでか……獣王殿、私を置いて逃げてください」

「何を言う!この獣王エレノーラ、仲間を見捨てて逃げるような女ではない!!」


強化された聴覚に響く懐かしい女性の声

開幕からフラグ乱立である

おいおい、獣王がこんな場所に?都から逃げて来たのか?

ドラゴンの背中でその声を確認したとき、女性兵士の大声が聞こえる


「前方に青髪の獣人族女性他数名を確認!武装から高位の軍関係者と思われます!」


黒騎士と二人乗りでワイバーンに乗ってるエルフの女性

目がいいからと、周辺の監視を名乗り出たのだ

さすがエルフだけあって素晴らしい視力だな

俺にはまだそこまでは確認出来ない


「おそらく獣王エレノーラ殿下一行だ。丁重にもてなせ」

「はっ!」


「他の部隊にも絶対に手を出すなと伝えろよ?」

「了解いたしました」


何故、こんな場所に獣王が居るのか?

一緒に居る者は何者なのか?

グリフォン王国はどうなったのか?


そんな質問はされなかった

その後、俺にきた質問はこれだった


「ゼスト閣下、何であいつだけ美人のエルフと二人乗りなんですか!」

「あの野郎!こっち見て笑いやがった!!」

「見せつけやがって!誰か弓を持ってこい!」


「ゼスト猊下、我等聖騎士団の馬の後ろも空いています。結婚は許可されているのですよ?」

「結婚は悪ではありませんから」

「神も祝福なさるでしょう。私の後ろも空いております」


「エルフの出生率も下がる一方で、どうにか他種族の方と出会いたいからと魔導兵団も出陣しておりますので……」

「どどどど、どうしよう。聖騎士団の人達、美人過ぎて話しかけられない」

「勇気を出せ!ツバキ王女殿下よりは怖くないだろう!」


「ゼスト閣下、補給物資の中にあった男女の絡み合う本を巡ってケンカが!!」

「じょ、女性同士の本を見てエルフの方が倒れました!衛生兵!!」

「誰か水を持ってきてくれ!凄い鼻血だぞ!!」


四方八方から響く声に頭が痛い

戦争には勝てるだろうが、俺は気苦労で死ぬかもしれない


俺の率いる連合軍

後に『婚活遠征連合軍』と呼ばれる軍団は、今日も元気に騒いでいたのだった

……もう、投げ出して帰りたいです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ