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異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第三章 調停者
171/218

170 出陣の用意

「さて、大元帥殿。とりあえず状況を説明しようかのぅ」


会議室に移動した俺達だが、今の状況を知らないと対応が出来ない

戦時特例の『大元帥』に任命されたって事は、そうなる理由がある筈だ

スゥが紅茶を全員に配ってから辺境伯の説明が始まる


「グリフォン王国に留学中の皇太子殿下より密書が届いたのじゃ。『ドワーフ王国がグリフォン王国に攻め込んできた。救援を求む』とな。事の真偽はわからぬが、対応せぬ訳にはいかぬじゃろ」

「ふむ……外交的に皇太子殿下を救出できるなら、それでよし。いや、違うな……それを理由にドワーフ王国を攻め滅ぼすおつもりですか?」


「そこは大元帥に任せるそうじゃ。帝国の皇太子殿下が居るのを知ってグリフォン王国に攻め寄せたなら、これはグルン帝国に喧嘩を売っているのと同じじゃからな。今回の件はゼスト大公に丸投げじゃわい」


この言い方である

任せると言いながらも、選べる選択肢は少ない

この状況で軍を出さなかったら……


「進軍あるのみですね。教国にも使者を出し、エルフの国にも出しましょう。出し惜しみは無しです」


俺の言葉に笑みを深くする辺境伯

だから、怖いですから普通に笑ってください


「ほほう、いきなり進軍かのぅ?下調べはせんのか?」

「皇太子殿下のお命に係わります。間違いならば軍事訓練で済ませましょう。手遅れでした……これが一番怖い」


「うむ。臣下としては100点の答えじゃな。本音は?」

「皇太子殿下のお命を心配して、すぐさま全軍を出撃。帝国に反意は無いとの証明です。間違いでも我が軍の戦力を他国に誇示出来ます」


「ほほう……帝国に疑われていると?」

「辺境伯がいらっしゃったのが証拠でしょう?そちらの領地には、近衛の将軍でも駐留していますか?」


賄賂を貰った悪代官のような笑顔の辺境伯と師匠

ラーミア義母上も完全に悪女の微笑みである

……笑顔が絶えない家族です


「クックック、出撃には金もかかるのぅ」

「それも狙いでしょう?我が領地が繁栄し過ぎましたか?」


「ああ、本当にベアトはいい旦那様を見付けましたね」

「そうだね。優秀な弟子だから安心だよ」


紅茶を飲みながら余裕の表情になった師匠とラーミア義母上

そして、ここまで話せばカタリナ達もわかってきたらしい

要は、『皇太子からちょうどいい手紙が来たから、ついでにゼストを試そうぜ?』って事だろう

ついでに金が有り過ぎる俺の資金を溶かそうって魂胆だな


「ドワーフ共も馬鹿ではない。皇太子殿下は安全じゃろう……帝国と正面から戦うとは思えぬ。婿殿の読みで間違いないとは思うが、油断はせぬ事じゃな」

「はい。お言葉、肝に銘じます」


これで動く方向性は把握したな

絶対に話を理解していないだろうアルバートに声をかける


「アルバート、全軍出撃の用意だ。派手にいくぞ!」

「はっ!直ちに!!」


「カタリナ、領民の志願者に『輸送』の仕事をさせろ。他にも在宅で出来る内職を用意しておけ。賃金はケチるなよ」

「え?領民に……?ああ、かしこまりましたニャ。たっぷりと領内に金を落としますニャ」


どうせ金を派手に使わないといけないなら、自分の領民に還元する

そうすれば一時的には減るだろうが、いずれ戻ってくる金になるだろう

領地が潤えば、領主の俺が潤うのだ


「ふぉっふぉっふぉ、安全で金になる仕事を領民に斡旋するのか。婿殿は怖いのぅ」

「我が弟子ながら、こういった事だと私では相手になりませんね」

「対外的には金を使ったと見せて、実は領地の地盤固めね……ふふふ、あなたがベアトと結婚して本当によかったわ!二人目の子供が出来たら教えてね?辺境伯家を継がせなきゃ」


褒められてはいるのだろうが、なんだか胃がキリキリ痛む

もう少し普通に言ってください

それにラーミア義母上……この忙しさでどうやって二人目を??

でも、この中で一番逆らってはいけないのが義母だしなぁ


「が、頑張ります」

「お母様!そういう事は後でお願いします!!」


だから師匠、俺も言いたくないんですがしょうがないでしょう?

ラーミア義母上に文句を言ってくださいよ……睨まないでください

働き過ぎたシリアスさんが逃げ出し、出撃の準備は進むのだった



「それで婿殿。正直な話、どの程度の期間でどれ程動員できるのじゃ?」


今は応接間に移動して、準備が整うまで休憩中だ

スゥが全員のお茶を用意しており、メイドすら同席してしない

正真正銘家族だけだな


「そうですね……第一陣が夕方までに2000人。二陣は三日後までに5000人。ここまでが正規兵で、志願の義勇兵が3000人といったところですね。合計1万前後でしょう……維持できる日数は1年は確実に」


身内しか居ないから正直に話したのだが、辺境伯達は真顔で遠い目をしている

……あれ?何かマズかったのか?


「はあぁぁ、婿殿。帝国最大の軍備は辺境伯家の5000じゃったのだぞ?その倍か?」

「そりゃあ、皇帝陛下も心配しますね」

「ゼストは大陸統一でもするの?少しは軍縮しなさいな」


1万人動員は多いのか……このメンツに呆れられるくらいだから、そうなのだろう

じゃあ、防衛戦なら獣人族の義勇兵が3倍以上おかわり出来るのは黙っておこう

これ以上ドン引きされても辛い


「しかもそれを一年か。何処を目指しておるのかのぅ」

「嫌な予感がしますね……ゼスト、それは最低かい?最高で一年なのかい?」

「まぁ、あなた。いくらなんでも、最高でに決まっているじゃない」


探るような視線にどう返答するか悩んでいると、優秀な家令がハッキリと答えてくれる


「現物資での最長交戦可能日数が1年です。資金を使えば10年以上戦えます」

「……です」


心から残念な子を見る目を一身に受けながら、俺は言い訳じみた事を言ってしまう


「し、資金があっても買う物資が無ければ意味が……」

「エルフの国と教国より『全面的に協力する』と返事が来ております。物資の心配はありませんね」


竜騎士部隊は仕事が早いな

完全にジト目になった辺境伯達に『もっと金を使え!軍備と資金力が大きすぎるからこうなる!』と叱られながら、家族のお茶会は過ぎていったのである

もっと無駄遣いをしなさいと怒られるとか、初めての経験だった



「カチュアもアナスタシアもかわいいのぅ。辺境伯領地にも遊びに来なさい」

「そうですね。養女とは言っても家族ですし、遠慮はいりませんよ?」

「そうよ?うちはこの人もゼストも婿だから気にしなくていいの。あ、次はこっちも着てみましょうか」


「ふぉおお、フリフリなのじゃ!かわいいのじゃ!」

「こ、こんなに短いスカートで大丈夫なのでしょうか?」


資金の貯め込み過ぎを怒られた後は、これ以上の追撃を避ける為に娘二人に頼る

ウィスを使おうかと思ったのだが、気持ちよくお昼寝中では仕方ない

必死に気配を消しながら養女二人の応援をしていた


「失礼します。閣下、先陣部隊の動員が完了いたしました!」

「ご苦労。すぐ行こう!皆様、残念ですが少し席を外します。失礼いたします」


聞こえるか聞こえないかの微妙な大きさの声で挨拶して、部屋から脱出した

娘二人はすっかりおもちゃにされているようだが、仕方ない

ラーミア義母上の着せ替え人形をしばらく頑張ってもらおう

尊い犠牲に涙を流しながらもアルバートを引き連れて練兵所へと急いだ


「閣下。お嬢様方が何やら短いスカートで真っ赤なお顔をしておりましたが、よろしいので?」

「お前、ラーミア義母上に逆らえるか?」


「軍の編成ですが、竜騎士部隊が100人・黒騎士500人・戦乙女部隊1000人・残りは諜報部隊です。輸送関係は領民から募集するとカタリナ卿から聞きましたが、それでよろしかったでしょうか?」


真面目な顔で編成状況の報告をするアルバート

やっぱりラーミア義母上は怖いらしい

あの人は辺境伯達とは違った怖さなんだよな


「それでいい。兵士を護衛につけるが、輸送は領民からの志願者にやらせる。あくまでも作業だけだぞ?戦闘はさせるなよ?物資の集積拠点から全線への危険地帯には軍が輸送しろ」

「はっ!かしこまりました。拠点警備にはドラゴン達を使っても?」


「あのトカゲ共も暴れたいらしいから、交代でな」


軍事関係になると優秀なアルバートとそんな会話をしながら歩くと、練兵所に到着する

館の側にある広場に先陣部隊2000人が集結していた

戦闘用のコートを羽織らせてもらい、壇上に上がる


「諸君!我がグルン帝国の皇太子殿下から救援を求める知らせが届いた。これは、我々の……いや、難しい事は必要ないな」


アルバートに目配せして、剣を腰につける為の金具や帯革をつけさせる

この脳筋共には小難しい理屈は不要だな


「久々の派手な戦争だ!!存分に暴れて手柄をたてろ!!」


「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」

「この時を待ってたんだ!」

「なあ、閣下より先に敵陣に突入した奴が賞金だからな」

「竜騎士部隊の奴等には負けるなよ!」


大盛り上がりの脳筋達の中で、もっとも気合が入っている部隊

それはエルフの国からやって来たオカマ軍団である

彼女?達はメディア率いる部隊に所属していた


「いい?戦で大将首をとれば、閣下が私のように相手を探してくださるわ!!死ぬ気で殺しなさい!!」


「私も手柄をたててお婿さんを貰うんだ……」

「婿……婿……婿……」

「大将首はどこ!?私が殺すんだから!」


背筋が凍りそうな殺気をまき散らしているオカマ軍団だが、周りの連中も似たようなものである

それぞれの思惑で戦争を楽しみにしているのだ


俺の準備も完了していよいよ出陣となったときに、それが姿を現した

戦を前にして興奮状態の兵士達でさえ、黙って見る事しかできないそれが


「パパ上、わらわもお供するのじゃ!」

「お養父様、私もです!」


水色の園児服を着て黄色い帽子を被ったカチュアと、ピンクのフリフリミニスカアイドル衣装のアナスタシア

ラーミア義母上、どこでこれを用意してきたのですか?

俺も混乱していたのだろう

答えた言葉は間抜けな一言だった


「……その格好で戦争に行くのか?」


涙目でブルブル震えながら地面とにらめっこをしている二人

おそらく、ラーミア義母上の着せ替え人形に耐えかねて逃げて来たのだろう

アルバートの言った一言で、彼女達の羞恥心は限界を迎えるのであった


「お嬢様方、そのズボンは随分と肌色で薄い生地ですな。てっきり履いていないのかと思いました」


「履いてないのじゃ!生足なのじゃ!!」

「うううっ!見せて良い下着とか意味が分かりません!!」


『乙女の恥じらい』

後にそう語った二人だが、エルフの奥義魔法で燃やしたり、メイスでタコ殴りにするのは違うと思う

悪くないのにボコボコにされるアルバートを見ながら、治療魔法の準備をする俺なのだった


……俺じゃなくて良かったです

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