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異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第三章 調停者
163/218

162 裸の付き合い

「それで?何故、教皇猊下がここに?」

「……神の思し召しでしょう」


(お母さん、これ美味しいです!)

「そうね、トトちゃん。こっちも美味しいわよ」


トトと遊んだガーベラ教皇は落ち着いたらしく、冷蔵庫から老女バージョンになっていた

嬉しくない光景だが、冷蔵庫が教皇というのは機密だからこうしたのだろう

俺が吹き飛ばされたのを見ていたメイド達が慌ててやって来た頃には澄まし顔で微笑んでいたが、そういう問題じゃない


「ベアト達をフルーツ牛乳で買収したようだが、私はそうはいかないぞ」

「ゼスト大公、コーヒー牛乳です」


「今回は不問にしよう。神の思し召しなら仕方ないな……って、そんな訳あるか!!」

「大丈夫じゃ。ここに入るときは、男女関係なく全裸が教国の決まりなのじゃからな。誰も文句は言わないじゃろう。それにウィステリア様のお世話という大義名分もある」


ちょうどいい高さの岩に腰掛けてそう言って笑うガーベラ

確かに、ウィスの事を持ち出されたら反論出来ないな

それに教国の決まりで全裸なのか……それで皆そうだったのか

そこは納得したが、ババアの裸をずっと見せられる俺の気持ちも考えて欲しい


「分かった。そこは分かったかが、それだけではないのでしょう?本題は何なんです?教皇猊下」

「うむ?ウィステリア様のお世話をだな……」


「建前は聞きましたよ。今更、そんな前置きはいいでしょう?」

「ふふ……実はな、相談があってなぁ。どうしても内密に、ゼスト達が揃っている状態でじゃ」


そう言うと、離れていたベアト達も呼び寄せる

俺達全員に相談か……嫌な予感しかしない

皆で膝の高さ程度の浅くぬるい温度の温泉に入るが、まだガーベラは話さない

まだ誰かを待っているようだった


「どうしました?まだ誰か合流するのですか?」

「ほほ、察しがいいの。もうすぐじゃて」


新たにガーベラが用意してくれた、かちわり氷レモン味をポリポリ食べながら待つこと数分

それは俺達の前に元気よくやって来たのだった


「パパ上、ママ上!お待たせしましたなのじゃ!」

「家族だから平気、家族だから平気、家族……」


素っ裸で無い胸を無駄に張っているカチュアと、真っ赤な顔をしながら白目で何かブツブツ呟いているポンコツシスターがやって来たのだった

……神様、本当に居るのなら助けてくださいと祈る

だが、教皇猊下とシスターの前で祈っても、神は当然のように俺の味方はしてくれなかったのだった



「ベアト、こっちに来てくれ。私の目を後ろからふさいでくれ」

「そ、そうですわね」

(うわぁ、仲良しさんですね!お父さん!)


カチュアはまだ娘だから分かる

だが、ポンコツシスターは話が違うだろう……だいたい察したけどさ

それでも何もしない訳にはいかない

ベアトに『何を見てるんですか?』と言われる前に行動するべきだ


「ああ、ありがとう。これで話が出来るよ」

「いえ。素晴らしい配慮ですわね」


「旦那様、顔がニヤけております。もう少し引き締めてください」


スゥには小言を言われたが、それは無理というものだ

背中にベアトの胸を感じながらの目隠しだ……ニヤけるのが礼儀だろう


「ゴホンッ!それよりもガーベラ教皇。これはシスターを家族にという意味か?娘にしろというのか?」

「その通り。この子は大事な教国の次期教皇……間違いがあっては困る。ゼストの側が一番安全じゃからの。よろしく頼みたい」


「教皇猊下。安全というなら、我が領地ならば大抵の危険はないと思うが……」

「甘いのう、ゼスト。こんな娘でも次期教皇に取り入ろうと、あの手この手で言い寄る馬鹿が後を絶たないでな。虫よけに使わせてほしいのよ」


ハッキリいいやがった

もう少しオブラートに包めないのか?このババアは……ポンコツシスターは教国でもこんなの扱いなのか


「いやいや、私の娘だと政略結婚をと言い寄る者も……」

「ほっほっほ、諜報部隊かメディア卿が始末するじゃろう?そんな馬鹿は」


「……」

「伊達に何百年も国の中枢には居らぬぞ。別に責めておらぬし、そういった事もした」


そのとき、フッとベアトの手が離れる

会話の内容から、裸を見る見ないのレベルの事を言っている場合ではないとの判断だろう

隣に座った彼女の手を握って微笑みかける

裸がどうの言ってる場合ではないのだが、見ていいという訳でもないからだ

そうしてなるべく他の裸を見ないようにしながら、相談は続いた


「政治的な意味合いでいえば、教国との繋がりが深くなり安心じゃ。個人的な感情でいえば、ゼストとは戦わない……戦いたくない意思表示かの。日本人とは仲良くしたいのは本音じゃ」


確かに落ち着いて考えたら、この話はデメリットがない

帝国でそれなりの立場にはなったが、それが永遠に続くとは限らない

他国での保険も多い方が安心出来るし……ただ、問題は娘になるのがポンコツシスターって事だけだ

……そもそも、意思の疎通が出来るのだろうか?不安は増すが、断る訳にもいかない


「その話は受けましょう。娘として大事にします。ですが、何故ここでその話を?そこが一番疑問なのですが……」

「はて?日本人なら分かるじゃろうて……ご主人が言っておったぞ?『裸の付き合いが一番だ』と」


「……それは、普通は同性同士の話です。異性は違うのですよ」

「馬鹿な!?ご主人はそう言ってここを作ったのじゃぞ?男女が風呂で親睦を深めると言っておったが……」


伝説の治療魔法使い……日本人の先輩が残した間違った日本の風習を聞きながら思う

これはどうしたらいいのだろうか?と

訂正した方がいいのか、そのままにするべきか……


そうか!露天風呂が無かったこの世界で初めて作った先輩は、男子の夢『混浴』を成し遂げる為にこうしたのだ!

そう考えたら納得がいく……なんと偉大な先輩なのだろうか!


「ガーベラ教皇、その教えは正しい。俺が勘違いしていたようだ」

「そうじゃろう、そうじゃろう。ご主人が言っておったからな」


「ゼスト様?何故、急に立ち上がって握りこぶしを?」

「旦那様、トトお嬢様が落下しました」

(お父さん!急に立ったら危ないです!)


こう言ったのは、決して女の子と混浴が出来ると喜んで嘘を教えたのではないのだ

ガーベラ教皇の思い出の主人に恥をかかせないで、教国の伝統を守る為の優しい嘘なのだ!

いつも以上に気合を入れてガーベラに魔力を注ぎ込み、頼んで出してもらった冷たいデザートを配りながらそう思う

水中に落下してプリプリ怒るトトに謝りながら、俺の顔は笑顔だったに違いない


「ふふふ、しかし相談事が丸く収まってよかった。これで安心して疲れが癒せるな」

「ええ、こんなにかわいい娘がまた増えて嬉しいですわ」

「ママ上のおっしゃる通りなのじゃ!」

(妹が増えるですか?トトはまたお姉さんになったです!)


今まで二人も娘が増えたのだから、また一人増える程度はどうということはない

皆で談笑していたのだが、ポンコツシスターの一言でその雰囲気は一変した


「よ、よろしくお願いいたします。ウィステリアお母様。ゼストお爺様、ベアトお婆様」


温泉に長く入っていたので、のぼせていた筈の身体がスーッと冷えていくのを感じる

恐る恐るベアトを見ると額には青筋が浮かんでいる

……これは駄目なパターンだ


「ががが、ガーベラ教皇。私達の娘になるのだよな?」

「それでは巫女たるウィステリア様と同じになってしまう。ウィステリア様の娘になるんじゃよ」


当たり前でしょ?そんな声が聞こえそうな程サラッと言われて、二の句が出てこない

どうすればいいのか必死で考えている中、迂闊な二人が追い打ちをかける


「うん?ウィス姉様の娘じゃと?そうなるとわらわは……」

(はえ?い、妹に娘が出来たですか?)


「は、はい!よろしくお願いいたします。カチュアおばさまとトトおばさま」


うつむいてブルブル震える女性陣を見ながら、どうやって逃げようか思案している

そんな俺は最後の希望、我が家令のスゥを振り返る

……だが、彼女は微笑みながら首を横に振っていたのだった


巻き添えで死ぬかもしれません


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