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異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第三章 調停者
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159 魔族の役割

「ゼスト大公、突然お邪魔して申し訳ない。ガーベラ教皇もいらっしゃる今日がちょうどよかったのですよ」

「構いませんよ。いろいろお手数おかけしましたし……ハインツのその後も気になりますしね」


スゥが駄犬を睨みつけながらお茶の準備をする

せっかく兄と呼んだのに、あのザマではこうなるのも仕方ないだろう


魔族の長とはいえ、いきなりの来訪だから文句を言ってもいいのだが……わざわざそんな事をするよりも、気軽に来てもらえる関係になった方が有益だ

ニーベルに座るように勧めて向かいに座る


「ああ、ガーベラ教皇も……座れないか。その辺の好きな所でくつろいでくれ」

「分かったの!カキ氷作ってあげるの!」


ソファーの隣に鎮座した冷蔵庫からゴリゴリ音が聞こえてくる

おそらく、中でカキ氷を作っているのだろう……確認したくもないので無視した

突っ込んだら負けだろう


「そ、それで、どのようなお話が?」


紅茶を飲んでからニーベルに尋ねる

わざわざ魔族の長が訪ねてきたのだから、それなりの理由がある筈だ


「ええ、ハインツのその後と……鎧の出どころと処分についてです」

「あの鎧の出どころが判明したのですか?」


「まあ、予想通りでしたよ。かつて魔王が使った本物でした……ドワーフが保管していた筈だったのですが、エルフの国に流れて来た事を考えると……」

「内通者ですか……」


真面目な話をしているのに、隣からはゴリンゴリン氷を削る音がする

さすがのニーベルも気になるらしくチラチラと見ていた


「出来たの!みんな食べるの!」


スゥとアルバートの分もあるらしい

断るのもアレなので、皆で仲良く食べる事にした


「やはり、これはいいですなぁ」

「懐かしい味だ……メロン味は最高だな」

「旦那様、いちご味とは魔性の味ですね」

「閣下、二つの味を混ぜたら毒物のような色に……」


アルバート、それは誰しもが通る道だから心配するな

若干泣きそうな顔の彼を笑いながら、カキ氷を食べながら続ける


「それで、ドワーフの誰が内通者なのかは判明しているのですか?」

「それが……あの国も秘密主義と申しますか……」


ドワーフの国か……基本的に酒を愛する鍛冶職人の国ってイメージなんだが違うのかな?


「秘密主義ですか……想像とは違うような」

「ん?ドワーフの国の内情はあまりご存じでは無いようですね。対外的には酒好き・職人的といったイメージですかね?」


「ええ、そう思っていましたよ」

「異世界人でなくともそうでしょうな。しかしゼスト大公の事ですから調べているかとも思いましたが……まあ、エルフの国での事でお忙しい状態では仕方ないでしょう」


カキ氷をテーブルに置いたニーベルが姿勢を改めて話し始め……られない

駄犬が頭を押さえてのたうち回っていた

アルバート、急いで食べるからそうなるんだ……頭が痛いのは毒じゃないから心配するな

痛がる駄犬を無視して、ニーベルに話すように促した


「ドワーフ達は基本的に小心者で内気な者が多いのです。それを誤魔化す為に酒を飲んでいるのですよ」

「……あのぉ、豪胆な酒飲みではなく、酔った勢いでああなっていると?」


「そうです。飲まないとかわいそうなくらい気が小さいのです……だからこそ、ハインツの策謀に引っかかった可能性……いや、脅されていた可能性すらあります」


もうやだ……俺の中のドワーフのイメージが音を立てて崩れた

カッコいい職人気質のワイルドなドワーフを返して欲しい


「何で、そんな気弱な種族にあんな危険な鎧を渡したのですか?」

「気弱だからこそ、渡したのです。悪用しないだろうと。他の種族には知らせていない事で、ドワーフ族の最高機密だったのですが……どこから漏れたのか」


「なるほど……で、ハインツの方はどうなりました?」

「ああ、奴は始末しました。科学の力も復活というよりは、現存する物を使っただけのようで安心しましたよ。知識の流出もありませんでしたし一安心ですね」


ニヤリと笑うニーベルは、冷蔵庫の方を振り返り続けた


「ガーベラ殿、カキ氷のおかわりお願いします。次はレモン味で」

「分かったの!張り切って削るの!!」


とりあえずの報告は終わったが、話し合いはまだまだ続きがあるらしい

……まさか、本当にカキ氷が食いたい訳じゃないよな?



「それで、これが本題なのですが……これはお知らせというよりも、お願いです」

「ニーベル殿のお願いですか?怖いですねぇ」


二個目のレモン味カキ氷を平らげたニーベルが姿勢を正す

確かにハインツのその後や、鎧の出どころ等は手紙でも良い筈だ

わざわざやって来たのには理由があるのだろう


「実は、ゼスト大公を正式に我々の側にお誘いしたいのです。辺境伯家やガイウス家のようにね」

「ほう……ラザトニア殿と義父上の名前が出てくるとは……」


さっきまでカキ氷を食べていたアルバートの雰囲気も変わる

スッと俺の後ろに警戒しながら立っていた……普段からこうなら文句なしなんだよなぁ、この駄犬は

そのやり取りを見たスゥは彼の更に後ろに、隠れるように移動した

……要は戦闘態勢である


「そのような話を彼等にも聞かせてよろしいかな?私だけの方が都合がいいでしょうに」

「いえ、彼等にも聞いて貰いたいのです。辺境伯家とガイウス家のように、大公家とアルバート殿は深い繋がりがあるでしょうし……家令殿の事も信頼しているのでしょう?」


「つまり、私とアルバートにラザトニア殿と義父上のような関係になれと?」

「ええ。魔族が信頼するとはそういう事です。ゼスト大公を信じておりますが、その子孫が同じ考えになる保証はありません。ですから、一人ではなく二つの家で監視するのですよ……裏切らないようにね」


「……大公家として跡取りに教育をして、第一の臣下がそれを監視する……ですか。ですが、アルバートは獣人族ですよ?私に不利益な事はしないと思いますが?」

「ええ、あなたにはしないでしょう。しかし、あなたの遺言なら忠実に守るでしょうな」


さすがによく調べてるな……俺の遺言なら絶対に従うだろうよ

『ウィスが跡取りに相応しくない場合は排除せよ』

アルバートとスゥなら、俺の言葉として忠実に実行するのが目に浮かぶ


「まあ、そういった意味ではその通りでしょう。正式な魔族側という事の内容次第ですがね」

「それは簡単ですよ。管理者として、この世界の秩序を守っていただきたいのです……二度とあのような事を繰り返さない為にね」


「以前にも協力すると言いましたが……管理者として何をしろと言うのです?」

「する事は同じですよ。科学は二度と復活させないで欲しい。そして、種族の垣根をなくしていく事」


「それは了解している。正式にという部分が分からないのだよ、ニーベル殿」

「それも簡単です。何故そんな事が必要なのか理由を知ってもらいたいのですよ」


真剣な表情のニーベルを見て、ヤバいパターンだとハッキリ分かる

これは聞いたら後戻り出来ないだろう……どうする?

冷蔵庫を盗み見て様子をうかがおうと思ったが、冷蔵庫には顔色なんて無いよな

だが、何も言わないって事は俺に不利な事じゃないだろう


「聞きましょう。理由を知ったら逃げられないのでしょうが……今更ですよ。もう魔族の考え方には賛同しているのです」

「ふふ。いろいろと考えたでしょうにそのセリフですか。そのくらい慎重な方でないとこちらも不安ですからね」


「そう言っていただけるなら光栄ですね。諜報部隊、部屋の外でいいぞ。少し外せ」

「御意」


そう声だけ聞こえて気配が消えた

これで正真正銘、この部屋には俺達しか居ない

最近のターセルは本当に気配が分からんな……ニーベルも驚いてたレベルだし、もう地上最強の隠密だな


「ふう……やはりゼスト大公の配下は恐ろしい方ばかりですね。これからは味方だと思えば心強いですが」


そこまで言って表情を引き締めたニーベル

やや、時間を空けてゆっくりと呟いた


「さて、我々が科学を復活させたくない理由。それは以前、科学によってこの世界が滅びたからです」


シーンと静まり返った部屋にニーベルの言葉だけが響く


「太古の昔、魔王と戦った異世界人の勇者様。そもそも何故魔王と戦ったのか。世界征服を企む悪い魔王を勇者が倒した?そんな理由ではないのです。科学技術を復活させた者達と、科学を捨てて魔法の力で生きていこうとする者達との戦いだったのです」

「そんな理由が……いや、待ってください。魔法があるならば科学はそんなに必要ですか?何故そんな事に?」


「それは実に簡単です。魔法とは我々魔族が作った物で、管理している物だからです」

「……は?」


「つまり、魔族の支配から逃れようと科学を復活させた者……魔王達と、我等と共に魔法の力で科学を捨てた者達との戦いだったのですよ」


冷蔵庫のゴウンゴウンという冷凍全開の音を聞きながら、話を頭の中で整理する

つまり、それって……


「この世界は魔族が支配・管理している世界だと?」


「はい。科学力で繁栄した世界が滅亡してから、ずっとそうして守ってきたのです。この星に残された最後の大地を」

「ゼスト、お願いだから私達と一緒にこの世界を守って欲しいの。日本人を敵にはしたくないの」


そう言って俺を見るニーベルと冷蔵庫

カラカラに乾いたのどを潤す為にカキ氷をかき込んだ


受けるしか無いだろう……しかし、話が大きすぎる……世界の管理だと?

懐かしい筈のメロン味のカキ氷は、まったく味がしなかったのだった

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