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異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第三章 調停者
158/218

157 死神再び

「旦那様、お飲み物をご用意してあります」

「ああ……もらおうかな」


ベアトが怒り狂って暴れるだけなのに、お前は疲れないだろうが

そう思うのも仕方ないだろうが……これには理由があるのだ

圧倒的な破壊力の攻撃を連打するベアトから、ハインツが死なないように治療魔法をこっそりと使い続けたのだ


「ただいま戻りましたわ。意外と頑丈でしたわ」

『何回か致命傷が入ったと思ったのに……なまっているのかしら?』


「お疲れ様、ベアト」


スッキリ爽やかな笑顔のベアトが俺の隣にまでやってきた

ここに居るのは各国の首脳陣だから、とりあえずは挨拶させないとマズイだろう

だが、皆の様子は戦々恐々としていた

さっきまでの鬼神の様子を見ていればそうなるだろう……怒らせたら骨も残らない


「皆様、彼女は戦闘の後で疲れていると思いますので、簡単な挨拶でお許し願えますか?」

「あら、私は家族なのだから気にしないわ。皆様も公式な場ではありませんし……構いませんわよね?」


少しでも仲良くしたいのだろう、エリーシア王妃がニッコリと告げる

その言葉に逆らう者は当然居なかった


「ええ、教国はウィステリア様のご両親にそんな事は言いませんとも」

「ぐ、グリフォン王国も同じく!」

「べ、ベアトお姉様……カッコイイ……」


頬を赤らめた獣王陛下がそんな事を呟いているが、聞こえなかった事にする

これ以上、面倒は増やせない

獣人は強い者には正直なのはいい事だが、女同士もありなのか?

そもそも、国を代表する事なんだから宰相じゃなくて獣王陛下が言うべきセリフだよなぁ

……あの陛下には無理か


「では、改めて紹介いたします。妻のベアトリーチェです」

「皆様、はじめまして。教皇猊下におかれましてはお久しぶりですわ。ゼストの妻であり、公爵のベアトリーチェ=バーナムですわ」

『妻……うふふ、妻っていい響きね。誰にも渡さないわ』


戦いの余韻からなのか、若い女性が居るから威圧しているのか

黒い魔力を纏ったベアトは、素晴らしい辺境伯笑いで微笑むのだった

……おい、獣王陛下は何で嬉しそうなんだ?大丈夫か?アレは……



「お呼びにより参上いたしました!アルバートです」

「パパ上、ツバキとマルスを連れてきたのじゃ」


「ご苦労。入りなさい」


引きつった愛想笑いの王妃様とマイペースの冷蔵庫とトト

妙にベアトになついている獣王陛下と呆れる宰相エミリア

それを死んだ目で眺める俺と、ぴったりと俺に寄り添うベアト

……ああ、床にはハインツだったモノが転がっている

生きてはいるから問題ない


そんな混沌とした部屋に、ようやく清涼剤がやってきた

アルバート、お前がくると安心するよ


「ゼスト様?ぱ、パパ上というのは一体……」

『あの小さな子は……か、隠し子かしら?いえ、そんな短期間で大きな子供が出来る筈ないわね……??』


ああ、カチュアが養女になった事は手紙を送ったが、行き違いにでもなったか?

なら言っておかないとな


「ベアト、元エルフの国・宮廷魔導士筆頭のカチュアは私達の養女となったのだ。いろいろと事情があってな……皇帝陛下にはお知らせしてある。領地にも知らせは送ったのだが……」

「まあ、そうでしたの?こんなにかわいらしい子が娘に?」

『そんな重要人物が?……きっとエルフの国に関係する事なのね。でもこんなにかわいい子なのに、娘にしていいのかしら?』


「かわいらしい……ママ上!カチュアなのじゃ、よろしくお願いしますなのじゃ!」


かわいらしいって部分で吹き出しそうになる王妃様と冷蔵庫

マルスは我慢出来ずに吹き出してぶん殴られていた

修行が足りないな


「カチュア?女の子がそんな乱暴な事をしてはいけませんよ?これを使いなさい」

「はいなのじゃ、ママ上。鉄扇?これは頑丈そうなのじゃ!」


全員の『お前が言うのかよ!しかも武器を渡すのかよ!』という視線の中、ベアトとカチュアは仲良く笑い合う

武器の……違った、鉄扇という大公家の乙女のたしなみを教えながら、楽しそうにしていたのだった


大公領地の大魔導士と言われるようになるカチュアと、領民から死神の名で親しまれているベアトの出会い

それは、俺の領地に一大歓楽街が完成しても、異常な程いい治安に関係する事になるのだが……もう少し、おしとやかな子が増えないだろうか?

俺のそんな願いをあざ笑うかのように、カチュアの振る鉄扇の音がビュンビュンと響いていたのだった



「では、ハインツは魔族に引き渡して、結婚式はこのまま続行するという事でよろしくお願いしますわ」


「ええ、教国は異存有りません」

「グリフォン王国も異存有りません」


「トトちゃん、プリンの食べ過ぎは駄目よ?」

「トト姉!四つもどこに入ったのじゃ?」

「このぷりんとやらは、魔性の味なのだな……」

(む、あの青髪……五個も食べてます!ポイッしていいですか?)


真面目な話をしている隣では、プリン大会が開催中だった

トトを姉と呼ぶカチュアを見て、やはりマルスが笑った為に鉄扇で張り倒されていた

冷蔵庫も笑っていたのだが……プリンで許されたようだった

獣王陛下もすっかりプリンに魅了されており役に立ちそうにない……元から役立たずっぽいけどな


「では、一旦休憩にして……夜の宴から再開といきましょう。ハインツの監視は……」

「それはこちらで。アルバート、少しでも怪しいと感じたら殺せ」

「はっ!かしこまりました」


ボコボコ状態のハインツがアルバートには勝てないだろう

とりあえずは任せておいて問題ない

危険なあの鎧は、エリーシア王妃が保管すると言っていた……ボロボロだけど爆発とかしないよな?


アルバートが監視役というのを全員が受け入れたので、この会談は終了だ

今回の件は、魔王の装備を持ち出しているので魔族に任せる事で決まったのだ

下手に奴等を敵には回せないのはどこも一緒だな

ぞろぞろと部屋から出ていく冷蔵庫達を見送って、結婚式の当事者である俺達は親族用の部屋に戻っていく事になるのだった


ようやくパンツを交換出来るよ……



「旦那様、汗をかいているのでは?お召替えを」

「ああ、頼むよ」


実に優秀な家令だな

スゥの素晴らしいアシストで、パンツの交換が出来る

だが、その保育士さんのような目はやめてくれ……メンタルがゴリゴリ削られるんだよ


「では、私も着替えますわ。埃っぽくて」

「わらわも手伝うのじゃ!ママ上」

(カチュア、ずるいです!私も手伝うです!!)


うんうん、女性陣もお着替えタイムみたいだからちょうどいいだろうな

ベアトが埃っぽいのは自業自得な気がするが、突っ込んだら負けである

そして、女性陣の着替えという事は……お風呂も含むから長くなるのだ


「せっかくだし、ツバキも一緒に行くといい。疲れているだろうからゆっくりしてきなさい」

「はい。ありがとうございます!」


「義父上、私もツバキと一緒に……」

「死にたいならいいぞ?女性の着替えだ。風呂にも入るのに、お前が行ったら……」


「私は義父上とご一緒にいたします!」

「そうしろ。カチュア、鉄扇をしまいなさい」


ようやく結婚したツバキと一緒に居たいのは分かるが、相手が最悪である

ベアトとトト……これだけで国が亡ぶレベルなのに、カチュアと戦乙女部隊まで付いている中で風呂に侵入とか自殺行為だ

まあ、ベアトが一緒の時点で俺が行かせないけどな!!


「せっかく時間が出来たし、男同士でゆっくりと酒でもどうだ?」

「そうですね。義父上と話したい事もありますし」


そう言って笑うマルスだが、話したい事があんなとんでもない事だとは夢にも思わなかった



「で、話したい事とはどんな事なんだ?ツバキとケンカでもしたのか?」


着替えが終わり、スゥが用意した酒を飲む

いつもの親族用控室だが、今は俺とマルスだけだ

王妃も一緒になってお風呂タイムらしい……女性陣は楽しそうだなぁ


「ああ、そう言えばドラゴン達の運動がまだだったな……諜報部隊、アルバートを連れてこい。ハインツも持ってきて構わない」

「御意」


いつも誰かしら背後に居るのも慣れてきた

アルバートでなくても、ドラゴン達に見張らせれば完璧だろう

たまにはアルバートとも飲みたいし……

諜報部隊の気配が消えてから、マルスは手にした酒を一気飲みして俺を見る


「怒らないで聞いてください、義父上!」


意を決した表情のマルスだが、そんなに大げさにしないでもいいだろう

今は二人きり……スゥは居るけど、身内だけだしな


「内容によるがな。身内だけだ……気楽に言ってみろ」


実はボンクラなのは芝居だったのか?

確かにそれならいろいろと納得出来るな……王位継承に備えた、地盤固めの為の芝居か

まあ、怒らないさ……貴族の大変さはよく分かる


「実は、昨日口説いた女性が男性だったのです。言い訳になりますが、結婚式の疲れと酒の勢いもありまして……」


……駄目だ、こいつはやっぱり本物だったわ

しかも、昨日!?この結婚式の最中って事は、俺の部下じゃないのか?


「尻を触って口説いたところ、私は男だと言われて……そんな訳があるかと……」

「それ以上の事をして、ぶん殴られたか?それとも……」


思わず魔力があふれたが仕方ないだろう

この馬鹿は本当に……いくら若くても……いや、10代ならこんなものなのかなぁ?


「ハッキリ言ってみろ。それ次第では対応が変わるだろうが!」

「は、はいっ!胸を掴んだら取れたので、驚いて転んで頭を打ったらしく記憶がありません!!」


「はぁーー」


そりゃ、ため息くらい出るだろう

ハインツの一件が終わったらこれだぞ?いい加減に平穏な日常に帰りたい

スゥを見ると、完全にゴミクズを見る目だった


「スゥ、今回だけは勘弁してやろう。婿殿も若いのだ……一回くらいは、な?私に言ってくるあたり、どうせ配下の誰かなのだろう?」

「旦那様がそうおっしゃるのでしたら」


「おっしゃるとおり、義父上の部下です。戦乙女部隊の方のようで……先程、見かけました」


目をウルウルさせて上目遣いの馬鹿王子

だが、野郎のそんな態度はムカつくだけである

軽くアイアンクローをしながら言い聞かせた


「いいか?ベアトに聞かれたら、絶対に大変な事になるからな?二度とこんな事はするなよ?今回は男同士の内緒話……ん?戦乙女部隊だと??」

「あっ、ありがどうございばず!!」


「まったく、旦那様は身内に甘いですからね。あれ?戦乙女部隊の男って彼しか……」


綺麗にまとまる……そう考えていた時期もありました

鼻水と涙を出しながら答えたマルスだが、彼の運命は決まってしまっていたのだった


「マルス……既婚者のメディアに手を出すなんて……あなたにも教育が必要なようですね」

『ツバキが居るのに……かわいい娘の結婚式の最中に男に手を出すなんて……エルフは男が好きなのね?矯正しなきゃ!!』


「あなたという子は本当に残念な息子ですね」

「この馬鹿弟子が!!本当にいい加減にするのじゃ!!」

「け、結婚式の最中に浮気だなんて……ううっ」

(ツバキ!泣かないでいいです。お姉ちゃんが敵討ちするです!)


あ、これは女性陣にバレバレなパターンだわ……物凄い勢いで彼女達が乗り込んできた

チラッとスゥを見れば『どうします?マルスを庇うのですか?』そんな目だ

そんな事は聞くまでもない


「大馬鹿者に仕置きをしていたのだ。後は皆の好きにしなさい」

「なっ!?義父上、話がちがっ!!」


そこまでしか言えない馬鹿王子

ベアトが満面の笑みで頭を掴んでいるのだ……死なないように治療はしてやろう


声も出せずに引きずられていくマルスを見ながら合掌する俺だった


「閣下、お呼びにより……む?訓練ですかな?ならば私も……」


アルバート、いいからこっちに来なさい

あれに巻き込まれたらお前でも危ないから

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