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異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第三章 調停者
156/218

155 ハインツ宰相の切り札

「アルバート、貴様は黒騎士達を率いて遊撃に回れ。基本的には防御だが、最悪の場合はハインツ宰相を殺せ」

「はっ!確実に仕留めます」


「カチュアはツバキの護衛を頼む。戦乙女部隊の指揮も任せる」

「分かったのじゃ」


「スゥは私の側を離れるな。必ず守る」

「かしこまりました。邪魔になった場合はどうかお見捨てください」


「諜報部隊は獣王陛下達の護衛を裏から行え……それと、妙なそぶりをしたら知らせろ。私が始末する」

「御意」


大広間に向かいながら、早口に指示を出す

諜報部隊に向けての最後の指示は、もちろん獣王には聞こえないように小声で伝えた

彼女が本当に馬鹿なのか、馬鹿のフリなのかで状況は変わる

最悪、ハインツ宰相と通じている可能性も考えておく事にする


「ふはははは、物々しいな。これがゼスト大公の本当の顔か?」

「陛下、周りの目があります。お静かに」


脳筋の姉と知性派の妹

そんな、部屋の中で見せたままの二人だが……芝居って事もあり得る

警戒はしておくべきだろうな



「これはいったい何の騒ぎだ!ハインツ宰相、説明してもらおうか」


大広間に到着すると、騒然としている

各国からの使者が集まっている中で、宰相がそんな発言をすればこうなるだろうけどさ

黒騎士達が俺の周りを固めながら壇上の宰相へと近付いていく


「裏切者のゼスト大公が来たぞ!お前達、何をぼさっとしているのだ!捕らえよ!!」


広間の壇上で大声を上げる宰相だが、エルフの兵士達は戸惑っていた

その宰相の後方の奥にはツバキ達が座っているが、大丈夫か?

周りにはメイドしか居ないようだが……


「いきなり裏切者呼ばわりとは、穏やかではありませんな。私をそんな扱いとは残念です……身を守る為にこうさせていただこう。私にむやみに近付かないでもらおう。彼等が敵対行為とみなすからな」

「広間に居る方々に申し上げる!ゼスト大公配下・竜騎士部隊隊長のアルバートだ。こちらから攻撃の意思はないが、閣下に近寄る者は斬る!」


魔力強化全開のアルバートが剣を抜いて構える

その彼の周りに従う黒騎士達も同じように魔力を纏っていた

……お前らもか……いつの間にか強くなったな


「あれが帝国の剣か……」

「アルバート?あのアルバート卿か!」

「お前達、絶対に敵対行為はするな!」


他国の使者であろう者達の話し声が聞こえる中、じわじわとハインツ宰相との距離をつめていく

お、冷蔵庫もババア姿でチラッと見えたな

シスター姿の女性と、聖騎士の白色ばかりだから教国は分かりやすい


「貴様達、なぜ私の命令を聞かないのだ!カリス将軍は何をしている!!」


俺達が壇上に到着すると、顔を真っ赤にしてハインツが騒いでいた

向かい合って立つ俺に、そっと諜報部隊が耳打ちする


「カリス将軍はメディア卿が始末いたしました。事故にいたしますか?」

「いや、メディアに言い寄った末に乱暴しようとした事にする。そう伝えろ」


「御意」


メディアは仕事が早いな……この騒ぎに合流されたら面倒と見て、カリス将軍を始末したらしい

諜報部隊……今の声はターセルだろうな

あいつ等は顔を黒い布で隠してるから、声でしか判断出来ない

彼がいなくなったのを確認してから、ハインツに声をかける


「カリス将軍はうちの戦乙女部隊の者に言い寄って、無礼な事をしようとしたようですなぁ。既婚者にそんな事をするとは……いやはや、さすがハインツ宰相の一派は優秀ですね」

「なっ!貴様、よくもぬけぬけと!どこにそんな証拠があるのだ」


「証拠もなにも、本人がそう言っているのだ。自分の部下が報告してきた事が信用出来ないのか?ああ、宰相殿の場合は部下ではなく恋人であったか」

「どうせそれも貴様が手配した事だろうが!よくもあんな噂を……」


怒り狂うハインツだが、周りの視線は様々である

エルフの国関係者は、冷ややかな目で

冷蔵庫が率いる教国は完全に俺の味方のようで、聖騎士達がニヤニヤと黒騎士達と談笑している

お前達、本当に嬉しそうで何よりだよ

そして、問題の獣王陛下だが……


「我がグリフォン王国を卑怯者扱いとは、誠に遺憾である。獣人族の誇りにかけて、ゼスト大公の正当性を主張する」


おお、獣王陛下凄いじゃないか!そんな難しいセリフを言えるなんて……いや、違うな

陛下の背後に立ったエミリア宰相が腹話術のように、口パクしている陛下に合わせて喋っていたようだ

……もう、エミリア宰相が獣王になればいいのに


「獣人族の誇りか……獣王陛下がそこまで言うのならやはり……」

「ハインツ宰相の言う事は信用出来ませんからなぁ」

「あんな本が出回るくらいですからな」


完全にこちらの旗色がいいようだな

まあ、こんな短期間では信用を取り戻すのは難しかったのだろう

それでもこの時期にこんな事を言い出したあたり、余程の自信がある切り札があるのか……それとも、今しかそのタイミングが無かったのか


「ライラック聖教国もゼスト大公の言い分を支持する。精霊の巫女であるウィステリア様。その父上であるゼスト大公に対する敵対行動は、我々への敵対とみなす」

「「「我等は巫女の守り人、教皇猊下のお言葉のままに」」」


揃って祈りのポーズをする優しい微笑みのシスター達と、好戦的な笑みの聖騎士達

同じ据わった目をしているのが恐ろしい……こことは絶対に敵対したくないわ……


「教皇猊下までもが……」

「精霊の巫女!?あの伝説のか!!」

「それならば、決まりだな。我々も信者達を敵にはしたくない」


使者達だけではなく、エルフ達も様子見をやめてこちら側につくようだ

これで、完全にハインツ宰相は孤立したな

だが、それでも奴は余裕の雰囲気なのが気になっていた



「この状況で、ずいぶんと楽しそうだな。ハインツよ」


もう宰相殿なんてつけなくてもいいだろう

完全に俺の味方ばかりになったし、どう好意的に見ても失脚するのは分かり切っている

ツバキの側にはカチュアも張り付いているから、どうとでもなるだろうな

だが、そんな状況でハインツは怒りの表情から不気味な笑いになっている


「ふふふ、あわよくばとも思いましたが……あの獣王ならば、状況次第で引っ掻き回せると思いました。獣人族の習性で貴様と戦わせる事が出来れば、とね。まさか精霊の巫女とは驚きました。これでは私の負けですね」


確かにあの獣王陛下なら、喜んで俺と戦いそうで怖いわ

ちなみに本人はエミリア宰相に首根っこを後ろから掴まれていた……本当に学習しませんね


それが怒りの表情から一転して笑っているのを見ると、絶対に油断は出来ない

このタイプの男は、負けると分かっている戦いはしないだろう

こうなってもひっくり返せるとっておきがある筈だ


「だが、各国の重鎮をここに集める事には成功しましたよ。たとえ敵としてでも、この場に集まっていただくのが目的でしたからね」


そう言って、ハインツはニヤニヤしながら服を脱いでいく

いかにも文官なローブを脱ぐと、銀色の全身鎧を身に着けていた

鎧と言ってもゴテゴテとはしていない

パッと見ウェットスーツのような簡素なデザインだ


「かつて、魔王が纏って戦い……各国の軍勢を蹴散らした装甲です。この鎧は魔法も、物理的な攻撃さえ無効化する古の金属で出来ているのです。ふふふふ、その強さをこの場でお見せしますよ」


それがこいつの切り札だったのか

魔王が使った鎧だと?目でアルバートに合図を出す


彼は戦場では本当に優秀な人材だ

黙ってハインツの背後から、魔力強化全開で斬りつけた

手にした剣にも十分な魔力を纏っている、正真正銘の全開攻撃

これならドラゴンでも致命傷になるだろうな


だが、そんな一撃がハインツには届かない

装甲のない頭を真っ二つにする勢いで振り下ろされた剣は、当たる直前に『ギィィィン』と耳障りな音に阻まれた


「なっ!?」

「離れろ、アルバート!!」


驚きながらも俺の声に従って、一気に距離をとるアルバート

その瞬間、ハインツの足元に直径5メートル程の赤い魔法陣が浮かび上がる


「集え、煉獄の炎!フレイムストーム!!」


カチュアが完成させた魔法を発動する

魔法陣が一層強く光った後、黒い炎の渦がハインツを飲み込んだ


おいおい、この屋内でそんな豪快そうな魔法をぶっ放すのか!?

心配する俺だが、カチュアも考えていたようで周りには被害はない

あの魔法陣の中でだけ、黒い炎が荒れ狂っているようだった


「スゥ、あの魔法を知っているか?」

「エルフの国に伝わる大魔法だそうです。以前、ドラゴンに試し打ちをして鱗を溶かした魔法です」


ど、ドラゴンの鱗を溶かすのか……昔戦った宮廷魔導士3席の炎とは比べ物にならないレベルだな

肩で息をするカチュアがハインツの方に向けた手を下ろすと炎も消え去る


消え去った炎の中からは、悠然と立っているハインツが現れたのだった


「馬鹿な……あの炎の中でも無傷じゃと!?」

「閣下、これはマズイのでは?」


うろたえるカチュアとアルバート

その二人をあざ笑うように、ハインツは余裕の表情だ


「ふふ、カチュア長老の黒い炎とアルバート卿の攻撃でも受け付けないこの鎧。誰も私を止める事など出来ませんね……ふふふ、ふはははははは!!」


大広間の中央で高笑いを上げるハインツ

それを俺達は黙って見つめるしか出来なかったのだった

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