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異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第三章 調停者
151/218

150 楽しい前夜式

「お前達。アルバートと遊ぶ勢いで、他の人にじゃれついたら駄目だぞ?」

「はっはっは、甘噛みされた程度で血だらけとは。メディア卿は訓練が足りんな」


メディアを治療した後、屋敷の中庭でドラゴン達に説教をする

武官達ならば修行が足りないで済むが、文官や客に甘噛みなんかしたら大問題だ

……いや、あれは甘噛みだったのか?アルバートの言う事だからなぁ


「アルバート、お前の基準で考えるな。黒騎士達でもドラゴンに攻撃されたら大怪我するだろう?」

「閣下、それは以前の話です。今ならば、身体強化の魔法をほとんどの者が習得しましたから、それ程の怪我にはなりません」


「そうか、それならば安心……なに?」

「ですから、黒騎士達が身体強化の魔法を習得したのです。私程ではありませんが、ドラゴンの甘噛み程度ならば無傷です」


恐ろしい事を言い始めるアルバート

身体強化の魔法って、帝国軍基準だと使えるだけで将軍クラスだぞ?

これは、後から知った事だけどな……俺が師匠に最初に教わった魔法がそれだったよ

スパルタ教育ってレベルじゃない

とんでもない師匠だよ、本当に……


「そ、そうか。皆は頑張っているのだな」

「はっ、選抜した者をドラゴンに乗せて『竜騎士団』を結成いたしました。ご命令があれば、その部隊だけで都市の一つや二つ落として見せます!」


ドヤ顔で語るアルバートは、とてもいい笑顔をしていた


「頼もしいな。期待しているぞ」

「ありがたきお言葉!」


ビシッと敬礼するアルバートを残して、俺は自室に帰る事にする

あまりの過剰戦力に、頭痛が治まらなかったのは言うまでもない

また陛下に小言を言われそうだ……



「お疲れ様でした、旦那様」


執務室に戻ると、スゥが出迎えてくれる

時刻は夕方……いや、もう夜と言ってもいい時間だ


「今夜はあれだ、ナントカって会があるのだろう?仕事は終わりにしよう」

「前夜式です、旦那様。既に準備は出来ておりますので、ご入浴をしてお着替えをなさってください」


言われるままに風呂に向かう事にする

女性主体のイベントで逆らうと、恐ろしい事になるからだ

絶対に逆らってはいけない

風呂に入るとメイド達にゴシゴシ洗われるが、恥ずかしいなんて感情はもうないな

慣れって凄いよ……


「あら?随分と早かったですね。ふふふ、旦那様も楽しみにしていたのですね」

「ああ。貴族の女性として大事な式だそうだな。メイド達にも熱く語られたぞ」


俺の私室に戻り、待っていたスゥに声をかけられた

入浴の手伝いをしているメイド達に、しっかりとこの式の大事さを叩き込まれたよ

上位貴族しか行わないが、それをするのが彼女達の憧れなんだそうだ


「貴族女性の憧れの式ですから、皆も興味があるのでしょうね。早速、向かいましょう」

「うむ。だが、何故お前まで夜着なんだ?」


そうなのだ……スゥの格好はピンクのパジャマなのだ

普段は男装なのに、夜着はピンクなんだな……って、そこじゃない


「旦那様、私は家令です。家令とは家の使用人筆頭ですよ?当然、参加いたします」

「そうか……いや、すまなかった」


彼女にそう言われて、思わず後ずさって謝った

剣幕に驚いたからではないのだ

風呂上りのスゥから、とてもいい匂いがしてドキドキしたのを誤魔化す為だ


「何も謝る必要はございません。さあ、まいりましょう」

「あ、ああ。そうだな」


スゥ一人でこの有り様だ……今夜は長い戦いになりそうだな……

いや、ツバキとカチュアしか居ない筈だ!それならば興奮する筈はない!

そう思って寝室のドアを開けると、戦乙女部隊の面々がパジャマで出迎えてくれるのだった


「ふふふ、楽しい夜の始まりですよ」


そう言って笑うスゥの目は、笑っていなかった

……うん、ヤバくなったら逃げよう……そう、心に誓う俺だった



「それで、その後どうなったのじゃ!?」

「えっと……そしたら、マルス王子が『君だけを愛している』っておっしゃってペンダントを……」

「「「キャーーーー!!」」」


ずっとこの調子である

前夜式とやらは、身分差関係なしで騒ぐ女子会だったのである

……完全にアウェーだ

今はツバキのなれそめ話で盛り上がっているので、なるべく気配を消して大人しくしている

巻き込まれたら、骨も残らないだろう


「なるほどのぅ。やはり経験者の話は参考になるのじゃ」

「ええ、愛に年齢は関係ないのですね。私も頑張らないと」

「スゥちゃんは大丈夫じゃないかしら?家令じゃなければ結婚して欲しかったって、男が多いわよ?」

「ツバキちゃんは、これで勝ち抜けかぁ……いいなぁ、王子様」


完全に無礼講になるようで、ちゃん付けで呼び合っている

益々、不利な状況だな……部屋の隅にそっと移動しよう


「経験者か……そうじゃ、パパ上の話も聞きたいのじゃ!」

「あ、そういえばゼスト閣下……じゃない、ゼストさんも居るのよね?」

「ふふふ、今日ならば無礼にはなりませんからね」

「お養父様のなれそめとか、夫婦生活の秘訣とか聞きたいですわ」


ついに来てしまったようだ

両脇を戦乙女の精鋭にガッチリ固められて、ベッドの上……お立ち台に連行される


「さあ、パパ上。遠慮は無用なのじゃ!」

「ベアトリーチェちゃんのどこに惚れたんです?」

「ウィスちゃんの名前の由来って、本当なんですか?」

「スゥちゃんに興味はあるのですか?こんなにかわいい子と一緒に居るのに」


グイグイ迫ってくる女性達

正直、いい匂いだし柔らかいし、とても幸せな状況なのだろう

……質問攻めがなければだがな

だが、雰囲気を察するに断れない場面なのだろうな

ならば、ある程度誤魔化しながら話せばいいか


「よろしい……では、話そうではないか。私のベアトに対する思いは尋常ではないからな!聞いても引くなよ?絶対に引くなよ!?」

「キャーーー!」

「これが振りってやつね」

「スゥちゃんのパンツを持ってたって本当なのかしら?」

「え?ゼストさんって、獣人族だったの?」


こうして、公開処刑は始まったのだった……

出会いから結婚の申し込みの決闘

そして、トトの誕生やツバキとの婚約

誤魔化そうとすると、スゥから訂正の突っ込みが入るのだ……お前、詳しすぎるだろ……


「家令の名にかけて、いい加減な事を前夜式で話すなど認められません。しっかりと事実を皆に話すべきでしょう。それに前夜式での会話は墓場まで持っていくのが決まりです。ご安心くださいませ」


そうですか……駄目ですか……

でも、守秘義務があるならいいか……もう開き直って話そう!覚悟は決まったわ

俺の全力暴露話により、黄色い悲鳴は朝まで続いたのだった……



「おはようございます、お養父様」

「ああ、おはよう。晴れ舞台の顔じゃないだろう。おいで、治療魔法をかけるから」


途中で寝落ちしたツバキが起きたようだ

あんな式は二度と参加したくないが、ウィスのときには参加したいなぁ……ベアトが出るのか?相談してみよう

カチュアは……結婚出来るのか?それより今はツバキだな

結婚式の主役が、目の下にクマなんかあったら大変だ

治療魔法を使ってやりながら、頭を撫でる


「いいか、ツバキ。嫌だったら帰ってきなさい。手紙をくれたら、すぐにドラゴンに乗って迎えに行くからな」

「うふふ、お養父様ったら。結婚式の日にそのセリフですか?大丈夫ですわ」


魔法の光が消えても暫く撫でられていたツバキが、そっと離れて頭を下げる


「お養父様のおかげで、マルス王子と結婚出来ます。本当に……本当にありがとうございました」

「色々とあったが楽しかったよ。お前は私の娘だ。何かあったら必ず頼れよ?幸せになりなさい」


「はい……はい……」


ポロポロと涙を流すツバキだが、花嫁を時間は待ってくれない

迎えのメイド達が急ぎ足でやってくる


「ほら、もう一度目を治療しておいた。綺麗に着飾ってきなさい」

「はい。お世話になりました」


深く頭を下げて出ていくツバキを見送っていると、親の気持ちが少しだけ分かった気がする

養子のツバキでこれなんだから、ウィスのときには発狂する自信がある


「旦那様も泣き終わったら、お着替えの準備を。花嫁の父親も忙しいのですよ?」

「泣いてなどいない。着替えの準備をしろ」


「……かしこまりました。私がお手伝いいたします」


いつものメイドではなく、スゥに手伝ってもらいながら着替えを終える

結局昨日は全く寝ていないが、一日くらいどうという事はない

なんとかなるだろう


「結婚式の予定ですが……」


着替え終わり、執務室に到着するとスゥがスケジュールを読み上げる

毎度お馴染みの一日の始まりだな

紅茶を飲みながら彼女の声を聞く


「今日から十日間、結婚式ですので……それ以外の予定はありません。以上です」


どうやら、まだ寝ぼけているようだ

熱い紅茶の残りを一気に飲み干す


「すまんな、もう一度頼む」

「はい。今日から十日間ずっと結婚式だと申しました。エルフは長命種ですからね……彼らの感覚では一瞬だそうですよ」


「スゥ……それは、一日中なのか?ぶっ通しなのか?」


チラッと手元の資料に目をやり、ニッコリと満面の笑みで答えてくれた


「おっしゃるとおりです。途中退場は最大の不敬だそうなので、気合を入れてください」


エルフ流の結婚式……

王族の結婚式では、その過酷さから毎回招待者から死人が出るというそのイベントが始まったのである……

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