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異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第三章 調停者
150/218

149 結婚式に向けて

「ガーベラ教皇の手紙には、娘として側に置いて護衛とするようにとの事だが……それでいいのか?」

「大公家の娘として、わらわは頑張るのじゃ!エルフの国は、ゼスト大公が生きていれば安心なのじゃ」


「旦那様、本当によろしいのですか?」

「ふぁっふぁ、ふぉんふぉうふぃふぉろふぃひふぉふぇ?」


カチュアが俺の養女になりたいと押しかけてきた理由を聞いたら、断れる筈がなかったのだ

冷蔵庫の頼みだったのかよ……でも、カチュアにも理由はあるだろうな


「仕方ないだろう?ガーベラ教皇のお願いだからなぁ……それと、アルバートは何を言ってるか分からんから黙ってろ」

「彼女とは昔からの仲なのじゃ。その頼みなら断れないのじゃ」


腕組をして話すカチュアだが、本音はそうじゃないだろう?

確かに冷蔵庫の手紙を持っていたが……それだけが理由じゃない

エルフの国からの監視役としての役目と、自分の身を守る為の養子縁組だろう


「ま、建前はそれでいいとして……本音を聞こうか?娘よ」

「……ああ、娘と呼ばれるのは何百年ぶりじゃろうのぅ」


軽くトリップしているこのババアが、残念な事に娘になるのだ……何百年って、お前本当は何歳なんだよ

顔が倍以上に腫れているアルバートに治療魔法を使いながら様子を見る

分かり切った事だが、駄犬のケガはカチュアにぶっ飛ばされたからだ


「カチュア。いい子だから教えてくれ」


治療が終わっても返事が無いのじゃロリに、振り返りながら声をかけた

まだトリップ状態かと思った彼女は真剣な顔をしている

子供扱いはマズかったかな?


「もう一度、言って欲しいのじゃ」

「……いい子だから教えてくれ」


「名前を呼びながら、頭を撫でてもう一度なのじゃ!」


怒っているのかと思ったら逆なのかよ!

面倒な奴め……そんなに子ども扱いが嬉しいのか?


「カチュア。いい子だから教えてくれ」

「はいなのじゃ!そろそろ結婚して子供が欲しいのじゃ。でも、エルフの国では年寄りの相手しか居ないから、ゼスト大公……じゃない、パパ上の娘になれば若い男を捕まえられると思うのじゃ!」


偏頭痛がしてくる……年上のババアに『パパ』と呼ばれるだけでキツイのに『パパ上』って何だよ

誰が教えたんだ、こんな言葉を……って、冷蔵庫しか居ないな

しかも婿探しが目的とは、斜め上過ぎる理由だわ


「なあ、カチュア。親子になるなら本音で話そうじゃないか。そんな理由で養子に……」

「そんな理由?とんでもないのじゃ!毎日毎日、ジジイ共に後妻になれと言われる気持ちは男には分からないのじゃ。まったく、自分が何歳だと思っておるのかのぅ」


その理屈はおかしい

お前の方が年上だろうに……


「それに、パパ上は政略結婚の駒が少ないのじゃ。わらわなら、ちょうどいいじゃろ?」

「それは否定しない。だが、いいのか?」


「確かに、政略としての側面もあるのじゃ。それは否定しないが……わらわも女の子なのじゃ!」


お前のような女の子が居てたまるか

そのセリフをグッと飲み込む事が出来た俺を、褒めて欲しい


「ようやくエルフの国の事を任せられる人が居るのじゃ。それなら、初めての結婚と子育てをしてみたいのじゃ!この機会を逃したら、わらわは……わらわは……」

「旦那様、これ以上は不憫過ぎて聞いていられません」

「閣下、ロウソクは何とかいたします。娘が数百年独身だったらと考えると、涙が止まりません……もう、お許しになってください」


「……分かったから泣くな。養女にするから」


涙ぐむ三人を前にして、俺はそう答える事しか出来なかった

数百年生きている未婚ののじゃロリババアは、こうして俺の養女になる事になったのだ



「旦那様、アルバート卿が帝都より戻りました。陛下のお手紙はこちらです」


カチュアが養女になる事は、アルバートが使者になり帝都へと知らされた

最近は一大事のバーゲンセールだ

でも、今回の知らせは陛下の胃に優しい内容だろうな


「ああ、連続で帝都までご苦労だったな。ゆっくり休むといい」

「はっ!ありがたきお言葉。少しだけ休ませていただきます」


この短期間で続けて帝都まで飛んだアルバートは、さすがに疲れたのだろう

少々悪い顔色で執務室から出ていった

口頭での伝達事項は無いようだな……なら、手紙に細かく書いてあるのかな?

手触りのいい封筒を開けて中を確認する


『でかした!

そのエルフの筆頭宮廷魔導士がお前の養女なら、結婚相手が必要だよな?

俺の息子は未婚なんだが興味あるだろう?

エルフの国との絆も、お前との絆も深くなるな!楽しみにしててくれ。』


前回とは違い、楽しそうでなによりですよ陛下

ウィスとの結婚は、時期が早すぎるし俺が怖いから言えなかったのだろう

例え養女とでも結婚していれば、抑止力と繋がりには十分だからな


「陛下の息子って、次期皇帝陛下のご嫡男の他に誰かいたか?」

「いえ、皇帝陛下の男子のお子様は皇太子殿下だけだったと記憶しています」


紅茶の用意をするスゥが当たり前だと言わんばかりに答えた

……それって、カチュアが皇后にって事か?それはないだろう

それとも、隠し子でもいるのかな?


「この件は機密にする。隠し子などいたらお家騒動になる可能性もあるからな」

「かしこまりました、そのようにいたします。カチュアお嬢様にも内密になさるのですか?」


「その方がいいだろうな。あいつの事だから、ドラゴンに乗って婚約相手の確認に突撃しかねないからな」

「旦那様のお子様達は、おてんばばかりですからね。ウィスお嬢様だけは、おしとやかに育っていただかないと」


「大丈夫だろう。カタリナが守役として、しっかりと教育してくれるさ」

「カタリナ卿も、あれでなかなかの武芸者ですが……」


「「…………」」


人選ミスだったかもしれない……そんな思いを抱きながら、エルフの国の一日は過ぎてていった



「旦那様、ツバキお嬢様の結婚式がいよいよ明日ですね。今日はお嬢様がこちらにお越しになる筈ですよ」

「こちらに?同じ屋敷の中で、こちらにも何もないだろう?」


他国の貴族達との今日の面会ノルマをこなして執務室に帰ってきた俺に、スゥが不思議な事を言い始めた

マルス王子の用意した屋敷は大きなもので、部屋数だって相当ある

ツバキは専属のメイドを引き連れて自分の部屋で生活しているのだ


「旦那様、娘が結婚するときの作法です。お忘れですか?」

「……まだ先の事だろうと思っていたからなぁ」


紅茶を飲みながら答えると、彼女はため息をつく

そんなに残念そうに見ないで欲しい


「結婚式の前夜は親子で一緒に寝るのです。養子だとしても例外ではありませんよ?」

「ああ、ベアトがその時に師匠が大泣きしていたと言っていたな」


あの子煩悩の師匠の事だから、簡単に想像出来る

何だかんだと、ベアトには甘い父親だったそうだからな……今度、それをネタにして一緒に飲むかな


「ですから、ご準備をなさってください」

「何を準備するのだ?ベッドをもう一つ用意するのは、お前達で出来るだろう」


ハァーっと隠しようもない大きなため息をついてスゥが首を振る

おい、旦那様に向かってそれは酷いだろう……意外と俺はメンタル弱いんだぞ?


「一緒のベッドで寝るのですよ?別々に寝ては意味がありません。旦那様、ソニア様に教わった事でしょう」

「待て、それは聞いてないぞ!ソニア師匠もそこまでは教えてくれなかったぞ」


キョトンとしたスゥだが、すぐに何かに気が付いたらしく表情を引き締める


「通常は母親がその役割をいたしますから、説明しなかったのでしょうね。ご安心ください、今から私がお教えします」

「その心配じゃなくてだな……」


「母親が居なかったり、事情がある場合は父親が代役として参加するのが一般的です。勿論、父親だけでなく家族は参加しますから……今回は三人ですね」

「そ、そうなのか?それが普通なのか?三人というと、ツバキ・カチュアと俺か……何だそのメンツは」


そんなやり取りをしながら頭を抱えていると、ドアがノックされてメディアが入ってくる

彼女はツバキの護衛をしている筈だから、今回のイベントの下見だろうな


「閣下、本日はおめでとうございます!最後の夜はお楽しみくださいね」

「なあ、メディア。男親が娘と一緒にって大丈夫なのか?普通なのか?」


俺も動揺しているのだろうな

何故、普通とか常識とか無縁なメディアに聞いたのか小一時間問い詰めたい


「は?ああ、大丈夫ですわ。前夜式は家族だけの夜会ですもの。それに文句や邪推するような事はありませんわ」

「本当に大丈夫だよな?後でベアトに叱られるとか勘弁して欲しいのだが……」


「それこそ心配無用ですわ。前夜式には家令やメイドも参加するのですよ?勿論、女性だけですが。ゼスト閣下だけは例外で、男性ですが参加出来るだけですわ」


そうか、家族や家の使用人女性が集まるお泊り会的なものなのか!

なるほど、それなら怒られたりしないな……多分


「私も今夜に備えて、新しい夜着を用意しましたわ。ああ、楽しみですわね」


そう言って笑いながら、スゥと今夜の予定を話し合うメディア

事前にある程度の事は決まっていたらしく、数分で彼女は部屋から出ていった

会話を盗み聞きしていたが、お菓子を食べながら実家で最後の独身の夜を楽しく過ごすイベントらしい

日本でも同じような事をする人は居るだろうが、風習レベルじゃないよなぁ


「考え事ですか?旦那様」

「いや、この世界の風習は面白いと思ってな。まだまだ、私の知らない事もあるだろうなぁ」


スゥが新しく用意した紅茶を飲んで一息ついた

しかし、何かを見落としているような感覚に陥ったのだ

前に立っている彼女も同じらしく、難しい顔をしている


「「……あ!!」」


まったく同じタイミングで声を上げた俺達は、ドアに駆け寄り乱暴に開け放った


「誰でもいいからメディアの馬鹿を連れてこい!前夜式には参加出来ないと言え!」

「誰か、メディア卿の夜着を取り上げなさい!今すぐですよ!」


この数分後、ドラゴンに噛まれたメディアが執務室に運ばれてくるのだった


「か、閣下。口で……言ってくだ……されば……わかりますわ。ドラゴンは……アルバート卿でないと……無理です」


途切れ途切れにそれだけ言うと、血だらけで痙攣するメディア

治療魔法をかけてやるか……今度から手加減を教えないと死人が出るな……すまん、メディア

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