14 新しい家族
お嬢様のヤンデレフラグを回避したと思ってたら、養母が更に危険なフラグでした
ふふふ、普通の家族が良かったなぁ……贅沢な注文では無いよな?
家令のカメルに案内されて食堂に着いた
そこには既にフルプレート……じゃないや養父上と、40代だろうか?黒髪のスラッとした女性が待っていた
「お待たせいたしました、養父上。そちらの方をご紹介いただけますか?」
「いや、私達も今来たところだ。紹介しよう。我が妻の、お主の養母になるセリカだ」
「はじめまして、ゼスト様。噂は主人と姪のベアトにも聞いていますわ。あなたの養母になるセリカよ」
冷やかに微笑むセリカ養母上……うん、じいさんの血筋だわ
「はじめまして養母上。ゼストです。ご期待に添えるよう励みます」
お互い挨拶をすると食事が始まる
師匠に叩き込まれたからなマナーはばっちりだ
食事の間は会話はせずに静かにゆっくりと食事が進む
料理はさすが騎士団長の家だけありボリュームたっぷりの肉食系だ
養父上?俺の3倍は有りそうなボリュームなのに、おかわりですか?そうですか
フルプレートだからな、沢山食べないともたないのだろう
食事が終わって紅茶が配られれば会話をしても大丈夫だ
「ところで、先ほどの魔力は凄まじかったですわね。そんなに必死にベアトへのプレゼントを作っていたのかしら?」
「ガハハ!こやつはお嬢様に惚れておるからな。お嬢様からも凄まじい魔力の込められた手紙を貰っておったぞ」
ガハハ! オホホ
ははっ……愛想笑いである
営業だからね、得意だよ愛想笑い
多少ひきつったのは勘弁して欲しい
早く忘れたいよあの呪いの手紙は……
「でも、あれほどの魔力とは……本当に優秀な魔法使いなのね。これで我が家も安泰ね。ベアトには早く子供を産んで貰わないと。長男はいずれ独立するあなたの後継者に、次男は我が家にいただいて継がせないといけませんからね……」
養父上は辛そうな顔だ……養母上の手を握っている
まさか…?
「失礼ながら、お二人の実子は……?」
世話をしていた使用人達が一礼してスッと全員下がって行く
皆が居なくなってから養父上が重い口を開く
「残念ながら私達は子供に恵まれなくてな……妻は、その……」
「構いませんよ、旦那様。私はね、子供が産めないのよ。幼い頃に自分の闇魔法で怪我をして……ね」
なるほど、それで産めなくなったと……
でも養母上はじいさんやお嬢様よりは魔力が低いのかな?
見掛けは恐ろしい蛇のようなイメージだが、話していても嫌悪感は無い
「普通なら、こんな子供を産めない女は結婚なんて出来ません。でもね?幼なじみで馬鹿な男が貰ってくれたのよ?」
「ガハハ!跡取りなど養子で良いわ。惚れた弱味だな」
貴族なのにそれはなかなか許されないだろう
だが領主の……辺境伯家の姫だ
それを望む騎士団長にならば……
なるほどな、あのじいさんなら許可するだろうな狸爺め
でも尊敬するよ養父上……あんたカッコいいな
これもじいさんの予想内だろうし……やるか
「養母上、私の治療魔法なら何とかなるかもしれません。お手をこちらに……いや、私がお側に参ります」
席を立って側に向かう
鑑定魔法を使ってみたが大丈夫だな、これなら治せる
「養母上、では失礼いたします。お手を」
威嚇するような顔の養母上の手を握って治療魔法を発動させる……養父上、あなたは睨まないでください
光属性の勇者……いや日本人だったからこそ簡単に治せる
この世界より情報の溢れた日本人なら、細かい仕組みは解らなくてもなぜ子供が出来るのか説明出来ない大人は居ないだろ?
身体を治すだけでは少し足りないんだ
卵巣、子宮を癒す身体の内部も治せるとイメージして魔力を流し込む
終わったな、鑑定魔法を掛けると……成功だ!
「治りましたよ、養母上。子供が出来たら出産まで私が光魔法使いとしてお守りいたします。大丈夫です。産めますよ」
そう笑いかけると信じられないと言うような顔をしている
まさか?という顔だ
「お二人とも鑑定魔法を使えますよね?ご確認ください」
鑑定魔法を発動させると、暫く二人は呆然としていた
だが、やがてゆっくりと……何度も、何度も頷いて涙を流していた
二人は大変な思いをしながら、今まで生きて来たのだろうがこれから取り戻せば良い
まだ時間は有る筈だからな
ふふ、俺は邪魔だな……そっと食堂を抜け出して部屋に戻ろう
長年の悩みが解決されたんだし夫婦でゆっくりして欲しい
外に出ると家令のカメルが頭を下げていた
「申し訳ありません、聞いておりました。ありがとうございました若旦那様、本当に……本当に……」
カメルも涙を流していた
彼も主人達の事が心配だったのだろう
「咎めるつもりはない。私は誰にも会わなかったからな」
そう言って部屋に向かう
そんな俺にいつまでも……いつまでも頭を下げていた
部屋に着いてソファーに座り込む
流石に疲れた……
直ぐにメイド達がやって来て、お茶を用意してくれた
皆、お礼を言いながら頭を下げていた
「親孝行しただけだ。礼など要らないよ」
「若旦那様……」「さすが光の魔法使い様」「長年のお悩みが……」
ふふふ、感謝されるのは悪い気はしないなぁ
紅茶を優雅にすする
若いメイド達にキャイキャイ持て囃されて本当に初めて、この世界に来て良かった
心からそう思う
なんだ家令のカメルじゃないか、君までまた来たのか気が付かなかったよ
ん?何を持っているんだ?
「若旦那様……ベアトリーチェ様よりお手紙が届いております」
恭しく差し出される手紙……天国と地獄とは、この事でしょうか
死ぬ……のかなぁ……