表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第三章 調停者
148/218

147 新しい屋敷

「やれやれ、ようやくエルフの国に戻ってきたな。アルバート」

「閣下、本当にありがとうございました。おかげさまで助かりました」


エルフの国に戻ると、城ではなく街の一角に屋敷が用意されていた

城の広場に降りたらこっちを案内されたんだが、なかなかの豪邸だぞ?

領地の館程じゃないが、帝都の貴族の屋敷よりも豪華で巨大だ


「気にするな。これでお前が安心して働けるようになるなら、楽なものだ」

「はっ!今まで以上に忠勤に励みます!」


ビシッと敬礼するアルバートを引き連れて屋敷に入ると、玄関でマルス王子とツバキが出迎えてくれた


「おお、わざわざありがとう。いい屋敷だな」

「お帰りなさいませ、お養父様。この屋敷は、宰相殿も賛成してくださって用意しましたのよ」

「お疲れさまでした、義父上。ばば……師匠が屋敷があった方がいいと言っていましたので、手配いたしました!」


ふむ……俺の配下が増えたから悪企み出来るようにしたいカチュアと、迷惑をかけた詫びがしたい宰相の利害が一致したんだろうな

しかし、よくこんな屋敷が空き家だったな


「そうか……だが、よくこんな豪邸が空いていたな。元々は誰の屋敷だったのだ?」

「はい、ここは私の屋敷だったのですが……もう必要なくなりましたから」


少しうつむきながら答えた王子

そうか、国王になれば屋敷など必要なくなるか……父親が死んだ事を思い出したのかな?


「実は新しい屋敷を建設したのです!ツバキを迎えるのに相応しい新居で、こんな古臭い屋敷とは一線を画す……!?グホッ!!」

「もう、マルス様ったら。そんな古臭い屋敷をお養父様に渡すなんてあり得ませんわ。きっと、何か勘違いをなさったのですわ」


ニコニコいい笑顔でわき腹に一撃が入る

なかなかやるようになったな、ツバキは


「そうだな。深い配慮があったのだろう……婿殿はもう少し、言葉尻を捕らえないように注意した方がいいな」

「は……はい、気を付けます」

「お養父様、私が教育しますわ!ベアトお養母様にいただいた鉄扇でしっかりと」


公式の場では鉄扇で、非公式な場ではバルディッシュという大公家の風習

それはしっかりと受け継がれているようだった……頑張れよ婿殿


「閣下、よろしいのですか?次期王妃様が鉄扇は……」

「アルバート、ベアトの贈り物だぞ?私には何も言えない……お前が言うか?」


「はっ!非常にお似合いで、閣下の養子として相応しい装いかと」

「そうだろう……そうだろうさ……」


そんなやり取りをしながら、野郎三人は重い足取りで応接間へと向かうのだった



「なあ、アルバート。聞こえるか?」

「はっ!ガタゴトという音が聞こえます。閣下、下がってください」

「え?そんな音しておりますか?」

「お養父様は魔力強化で聴力も強化出来るのです。この執務室には誰も居ない筈ですわ」


執務室の前に到着した俺達だが、扉の前で立ち止まる

どうやら中に不審者が居るようだな……この屋敷に忍び込んだなら手練れだろう

戦乙女部隊や黒騎士達、そして諜報部隊がウロウロしているんだ

普通ならすぐに見つかって斬られるな


「気配は一人だが油断するなよ?アルバートはツバキ達の護衛を頼む。私よりは弱そうだが、なかなかの手練れだろうな。ツバキ達では勝てそうもない相手だ」

「はっ!護衛と防御に専念します。ツバキお嬢様達は私の後ろに」


腰の剣を引き抜いて構えるアルバート

お?魔力で身体強化が出来るようになったのか!やるじゃないか!


「それは高難易度の技術じゃないか。師匠以外で初めて見たぞ……よくやった」

「閣下の盾になると決めましたから。この程度は出来ないと盾にはなれません」


「凄い……美しい魔力の流れ!素晴らしいですわ、アルバート」

「なっ!?あ、アルバート卿もこれが出来るのか!!」


驚く二人を背にドヤ顔のアルバート

何故だろうか?ちょっとイラッとしたよ……駄犬と呼べないじゃないか……


「では、任せたぞ」


ドアを開けるタイミングを確認するようにアルバートを見る

奴が頷いたのを確認して、俺も魔力強化をしながらドアを開けて中に飛び込んだ!


そこで目にしたもの……それは豪華な部屋の真ん中に鎮座する冷蔵庫だった……


「……そこで何をしてるんだ?」


ガランっと音を立てて振り向く?冷蔵庫

間違いないな……こいつはガーベラだな……


「こいつ……動くぞ……」

「ま、魔道具が勝手に動くなんて……何なのかしら……」

「お二方、下がってください!危険です」


警戒するアルバートだが、こいつが相手なら大丈夫だな

マルス王子、お前のセリフは危ないから止めろ


「ゼストなの!やっと帰ってきたの、待ってたの!」


「しゃ、喋った!?」

「女の子!?」

「か、閣下のお知り合いですか?」


ガラガラ音を響かせながら喋るガーベラに、当然の事だが驚く三人

まあ、冷蔵庫が動いて喋ればこうなるわ


「ああ、知り合いだから警戒の必要はないぞ。何でここに居るのだ?ガーベラ殿」

「酷いの!女の子が泣いてるのに、そこを無視するなんて!鬼畜なの!」


ドアをパタパタ動かしながらガラガラ音を響かせる冷蔵庫

相変わらずシュールな光景だな……しかも泣いてると言われても、どこで判断しろと?


「ガーベラ殿、泣くと言われてもなぁ。私にはガラガラ音を立ててドアがパタパタしてるだけに見えるのだが?」

「それなの!ガラガラって音は自動製氷なの!それが私の涙なの!」


「そ、そうか。それでさっきから氷がポロポロとこぼれているのか……その……元気を出してくれ」

「じゃあ、許してあげるの。そのかわり、後で霜取りして欲しいの!」


機嫌がよくなったのか、ガラガラ音が消えたガーベラが喋っている

その後ろでは白目の三人がこちらを見ていた

ああ、説明しないとマズイよな?でも、教皇っていうのは隠すか


「皆、こちらは精霊のガーベラ殿だ。友人としてトトとも知り合いなのだ」

「はじめましてなの!ガーベラなの、教皇でもいいの!」


おい、それは言ってもいいのか?誤魔化した意味がないじゃないか……

余計に混乱しそうな発言で、執務室は静寂に包まれるのだった



「あなたがガーベラ教皇でしたか。失礼いたしました、王太子のマルスと申します。彼女は婚約者でもある……」

「ゼストの養子、ツバキでございます」


「ガーベラなの。二人とも、よろしくなの!普段はおばあちゃんの姿だから、こんな話し方しないけど……ゼストの子供ならいいの!」


おそらくは機嫌のいい状態なんだろう、冷蔵庫が楽し気に話す

俺もこいつを紹介しないとな


「ガーベラ殿、彼が私の右腕だ。覚えておいてくれ」

「アルバートと申します。教皇様」


「よろしくなの!ゼストを守ってあげて欲しいの」


冷蔵庫に挨拶する貴族達という不思議な光景だが、相手は教皇様だからな……

これから教国とは色々と協力関係を強くしたいし我慢してもらおう


「一応、ガーベラ殿が精霊というのは秘密だからな?機密として扱うように」

「「はっ!」」

「かしこまりました、お養父様」


「それで、何故この部屋にガーベラ殿が居たのだ?それが不思議なんだが……」

「ああ、それは私がご説明します。ライラック聖教国からの贈り物という事で魔道具が届き……」


ああ、冷蔵庫は魔道具に擬態してここに来たのか……

擬態……だよな?


「大変だったの!お尻を触られて、恥ずかしかったけど我慢したの!」


どこが尻なのか、小一時間問い詰めたい

そして冷蔵庫の尻を触って喜ぶ馬鹿など居ない筈だ


「ま、まあ……災難だったな……事情は理解したが、何故そんな事を?何か大事な用件があったのだろう?」


パカッと大きくドアが開く冷蔵庫

おそらくはハッとしているのだろう……いや、多分だけどな


「そうだったの!直接、言いたい事があったの!」


俺の方にドアを向けた冷蔵庫が、冷気をまき散らしながら告げる


「おめでとうなの!ゼストの娘……ウィステリアは精霊のお姫様に決まったの!だから精霊達は、これからずっとゼストとベアト。それにウィステリアの味方なの!みんな喜んでるの!」


フシューっと冷たい風に打たれながら思う……

精霊の……お姫様って何ですか?

謎のお姫様認定されたらしい我が娘……ウィスの将来はどうなるんでしょうか?

俺は……気苦労からは逃げられないようです……


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ