144 増える仕事の手配
「……なるほどな、トトから離れると昔のベアトに戻ってしまうと?」
(はい!お母さんは闇の魔力が強すぎるんです)
アルバートを物理的に黙らせて、トトに今回のベアトの件を説明してもらった
どうやら、トトが側に居れば問題ないらしいが……
「別に体に異常が出たりはしないのだろう?」
(それは大丈夫です!病気じゃないですから。私もお母さんも具合が悪くなったりはしません)
「そうか……なら、トトはベアトと一緒に居てくれるか?私はどっちのベアトも好きだが、あの状態では昔を思い出してベアトが悲しむかもしれない。それはかわいそうだろう?」
(分かりました。お母さんと一緒に居ますね!)
おやつのクッキーをかじりながらトトが返事をする
相変わらずお菓子を食べてるときは上機嫌だな
ツンデレ黒ベアトが無くなるのは惜しいが、領地の経営に係わるから仕方ない
(ふふふ、お母さんが大事なんですね!お父さん!)
「当然だろう。トトやウィスも愛しているが、それは娘としてだ。ベアトだけは女性として愛してるんだ。トトも大きくなったら分かるかもな」
テーブルの上に直接座っていたトトがこちらを向いて、ニコニコ顔からニヤリとした笑いに変わる
……まさにミニベアトだな、どうしたんだ?
そう聞いてみようと思った俺だが、首筋に温かい物を感じた
「せっかく、よく眠っていましたのに……騒がしくて目が覚めましたわ。当然、ゼスト様が責任を取ってくださいますのよね?」
『ゼスト様ったら、私が居ないところでもそんな事を言ってるなんて……恥ずかしいけど、嬉しい!』
後ろから抱き付かれて身動きが取れなくなった
ベアトの表情は痴漢を睨むような顔なのだが、行動は真逆だ
俺に抱き付いて頬をすり寄せている
服は……さすがに着ていたか……でも、薄い夜着だから非常にドキドキする
「ベアト、それなら一緒に寝ようか?細かい話は明日でもいいだろうし」
(それなら、トトはゴミ掃除をしてウィスと寝るです!おやすみなさい)
空気を読んだトトが床に転がっているアルバートに魔力弾をぶつけて移動させる
そういえば喉に一撃入れてから起きてないが大丈夫か?
……アルバートだし大丈夫だろうな
今日は他の事はほっとこう……ベアトの目が『寝かさないわよ?』って色してるから頑張りますよ
「さて、カタリナ。いろいろ大変だったな。ベアトは数日で元通りになるそうだから心配しないでくれ。それと新しく領民が増える事になったから手配を頼む。書類にまとめてあるから目を通してくれ」
「かしこまりましたニャ。助かりますニャ」
「それに伴った事業計画書も有るからな。仕事は増えるが……水田マリの件はお前の仕業か?」
「ニャ!?は、はい」
「まあ、不問にするが。一応、次からは私に話を通せよ?魔族にも手紙を出したから、間もなく到着するだろう。鈴は着けておかないと、あいつは危険だ。分かっているな?」
「はい、諜報部隊を護衛の名目で数名張り付きで配置しますニャ。待遇は閣下の直臣ですかニャ?」
執務室でカタリナと今後の打ち合わせを行う
昨日はたっぷりとベアト成分を補充したから、俺は絶好調だ
「そうする。ああ、アルバートとお前は出世させるからな。その準備も頼むぞ?アルバートは侯爵でお前は伯爵だ」
「はい、かしこま……ニャニャ!?」
「内政の要はお前だ。領地は獣人の漁村を含む一帯だな……港も建設する予定だから、領地一番の収入だろう」
「ま、待ってくださいニャ!私が伯爵ですニャ?」
手に持った書類を落としたカタリナが慌てた様子で聞いてくる
「不満か?侯爵に出来るのはは一人だから、アルバート以外はなぁ……そうだ、ウィスの守役もお前に頼みたい。それで我慢してくれ」
「ニャ!?ウィスお嬢様の守役までですか!?」
途中まで拾い集めた書類が、また彼女の手から落ちる
おいおい、そんなに驚く事か?
「守役はお前にしか頼めない。いいか?もし私に何かあったら、お前がウィスの後見人になって領地を運営しろ。これはスゥもベアトも納得している事だ。そして、ウィスが成人したら助けてやってくれ」
「も、もちろんですニャ!閣下のお子様をお助けするのに疑問などありませんニャ!」
「頼むぞ?後、もう一つ頼みがある」
「はい、何でも言ってくださいニャ」
「もし、ウィスの器が大公家に相応しくなかったら……どこかの田舎で隠居させろ。それが出来る財力をお前に与えるから、判断してくれ」
「……何をおっしゃっているのか、分かっていますかニャ?」
書類を集める事は諦めたカタリナが真顔で俺を見詰める
そんな事は分かって言ってるんだよ
「アルバートはあの通りだ。ウィスがボンクラでも黙って従うだろう。スゥも同じだな、決してウィスを隠居なんてさせられないだろう。ベアトもそうだ……娘を権力から遠ざけるのは、貴族としての意識が強いから無理だ。だが、それでは領民が苦労するだろう?」
「……」
「ならば、それが出来るのはお前だけだ。諜報部隊を大公家のお抱えにしていない理由の一つはそこなんだ。経済力と諜報部隊……それはお前の力にしろ。そうすればアルバートもベアトも……ウィスもお前を軽く見られないからな」
「いいのですかニャ?そんなに部下に権力を渡すのは危険ですニャ」
「危険だと忠告する部下だから与えるのだ。私は成り上がり者だから、家の名誉も地位も重要じゃない。家族が安全に生きていければ良かったのだ。だから頼むんだよ……内乱にでもなったら悪夢だ。それならひっそりと生きてさえいれば、それでいい……頼んだぞ?」
「閣下のご家族は、必ず私が守りますニャ。ですから心配無用ですニャ!」
そう言って俺を見るカタリナは、しっかりと目を見ながら話す
「まずはウィスお嬢様を立派な領主になるように教育しますニャ。そんな事にはさせませんニャ」
「ああ、苦労した人間じゃないと任せられないからな。頼むぞ」
「ただ……」
「何だ?何かあるのか?」
若干心配そうな顔で、彼女は続けた
「アルバート卿が侯爵というのが心配ですニャ……主に内政的な意味で」
「な、内政官を多く回せば大丈夫だろう……」
「でも……あっ!いい事を思い付きましたニャ!ちょうどいい人物が居ますニャ!」
「誰だ?そんな都合のいい者がいるのか?」
「メリル様ですニャ!アルバート卿の奥様のメリル様なら大丈夫ですニャ。あの方は、貴族学校の首席卒業者ですニャ。辺境伯家に文官として誘われた事もある才女ですニャ!早速、呼び出して相談するべきですニャ!」
「ならば、メリルを呼んでくれ。子育て中だから早目に打診しておこうじゃないか」
そう言った瞬間、バーーンと勢いよくドアが開く
予想通りのアルバートだった
「お待ちください、閣下。無礼を承知で申し上げますが、閣下も楽しんでおられたではありませんか!まさか私も男だとは知らずに楽しんだのですよ?ですから、妻には……メリルには内緒に!!駄目だと言うならば、いっそこの首を!!」
「閣下、男と楽しむって何事ですかニャ?」
「アルバート、一撃で楽にしてやる。近くに来い」
こうして、シリアスな雰囲気をぶち壊しにした駄犬だが……被害はそれだけではなかったのだ
「……ゼスト様……男と楽しむ?詳しく知りたいですわ」
(お父さん!トトは言ってません!駄犬が黙ってた事を話たんです!)
トト、それは今言ったら駄目じゃないかな……